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Episode Summer:4  お誘い

「いやっほーい! ついに、ついに夏休みだーっ!」

「…………」

 俺の横でケンが飛び上がってガッツポーズしている。終業式からこれで三十三回目……。

 夏休みになってテンションが上がるのは判るが、俺の横でこうテンションを上げられるのは、かなり恥ずかしい。

 終業式から終わってから、俺はケンと一緒に駅前の商店街へとやって来た。

 その目的とは……、

「なあ、何で俺がお前の水着選びに付き合わされなきゃなんないんだよ……」

「何言ってんだよ。こんなの男同士でないと選べるわけねえだろ」

「訳判んねえよ。自分の水着くらい自分で選べよ」

「まあそう言うなって! せっかくの夏休み、仲良くショッピングしようじゃないの! お互いカノジョもいないわけだしさ!」

 そう言ってケンは無理矢理肩を組んでくる。暑苦しいし気持ち悪い。

 つーか、地味に気にしていることを……。

「ささ、仲良くショッピング〜」

 ケンは必要以上にくっついてくる。これでは周囲にあらぬ印象を与えてしまいかねない。

 それはマズい! とてもマズい!

「おい、暑苦しい! 離れろって!」

 俺は思い切りケンを振り払う。

「おわっ!」

 するとケンはバランスを崩しながら俺の身体から離れる。

 バランスの崩し方がやや大げさに見えたが……。

 その時、

「あ、コラ!」

「きゃっ」

「おおっ!」

 バランスを崩してよろけたケンは、偶然通りかかった人にぶつかってしまった。

「あぁ、すみません! だ、大丈夫ですか?」

 ケンはぶつかってしまった人に頭を下げて謝る。俺もすぐに二人へと駆け寄り、ケンがぶつかった人に頭を下げた。

「いえいえ、大丈夫です。気になさらないで」

 ケンがぶつかったのは四十代くらいの女性で、見るからに優しそうなカンジの人だった。

「あの、もしよろしければ……これ、お願いします」

 女性は手に持っていた紙を俺とケンに一枚ずつ手渡し、軽く会釈をした後その場を去っていった。

「よかったな、優しそうな人で。ったく、気をつけろよ」

 俺はケンの頭を小突く。

「ああ、悪い悪い。で、これ何だ?」

 俺とケンは女性からもらった紙に目を通す。


『行方不明になった中井浩君についての情報をお願いします』


「行方不明?」

 俺が紙に書かれていることを流し読みしていると、

「あ〜、これね」

 ケンは何か思い出したようだ。

「ケン、知っているのか?」

「ああ、十年くらい前にな、この近くに住んでいる小学一年生の男の子が、突然姿を消してしまったんだ」

「姿を、消した?」

 誘拐か? 小学一年ってことは家出じゃないよな。

「俺もガキだったからよく覚えてないけれど、昔すごい捜索されててさ、TV取材がいっぱい来たり変な霊能者のオッサンも来たりして、けっこうな騒ぎになってたんだぜ」

「で、今もこんなビラが配られているってことは?」

 するとケンは無言で首を振る。

「なるほどね……」

 俺は再びビラに視線を落とす。

「失踪当時七歳か。十年前で七歳ってことはさ、俺らと同い年ってころか?」

 するとケンは再び首を振る。

「いや、確か違ったと思うぞ。これって確かオリンピックと同じ年に起きたはずだから、俺たちより一つ上。その時まだ俺らは幼稚園だよ」

「一つ、年上……」

 俺は立ち止まり、手に持ったビラを熟読する。

 するとケンが再び肩を組んくる。

「何黙々と読んでんだよ! 今日は水着を買いに来たんだぞ! ほら、行くぞ!」

 そして俺はケンに引きずられるような格好で近くのショップへ。

「ったく……」

 俺は手に持ったビラをカバンの中へと押し込み、ケンの買い物に付き合うこととなった。


「いや〜、いい水着みつけたわ〜。店員さんの話によると今渋谷で大流行の最新水着! これさえあれば今年の夏はモテモテだぜ!」


 商店街からの帰り道、俺の横でケンが買ったばかりの水着の入った紙袋に頬擦りしている。

 はっきり言って鬱陶しい……。

 つーかこんなド田舎の洋品店に、渋谷で大流行の最新水着が置いているわけがないだろ!

 一応今年の春まで街にいた俺から見れば、ケンが買った水着は最新どころか型遅れもいいところの代物だ。

「この水着を着た褐色の肌をした俺に、ビーチの女性はもうメロメロ! いやーっ、た、たまんねぇーっ! グラマーなお姉さんに逆ナンされたらどうしよっ?」

 今ケンの頭の中は、グラマーなお姉さんとのひと夏のあま〜い経験(妄想)で埋め尽くされている。

 ある意味、とても幸せなヤツだ……。

「しか〜も、おまけでこんなものまでもらっちゃったしね!」

 ケンは頬擦りしていた紙袋から二枚の紙切れを取り出す。

「何だよそれ?」

「映画のチケットだよ。隣町の映画館でやってるやつだ」

 俺はケンにチケットを見せてもらう。それは隣町の映画館の特別優待券だった。

 そしてもっとよく見てみると、俺はあることに気付く。

「これ、期限が明日までじゃねーかよ」

「余ってたんだってさ。何でも最初はガラガラ抽選の景品だったらしいんだけれど、誰も当ててくれなくて困ってたんだってさ」

 何と本末転倒な……。

「で、そのチケットどうするんだ?」

 するとケンは俺の肩に手をまわしてくる。

 まさか……、

「そんなの、決まってるじゃないか!」

 お、俺っすか?

「いいだろ? どうせ暇だろ?」

「まあ、今吾郎さんの船がドックに入っているから、暇っちゃあ、暇だけど」

 するとケンが俺に抱きついてきた!

「おお、心の友よ!」

「だぁ、やめんかい!」

 俺はとっさにケンの身体を振り払った。

 すると……、

 グシャッ

「ふがっ!」

 何かが潰れた様な音に振り向くと、ケンが地面に顔面から突っ込んでいた。その姿はまさに名古屋のシャチホコだ。

「おいケン、大丈夫か!」

「ふ、ふへ……」

 というわけで(?)、明日俺はケンと一緒に映画を観に行くことになった。



 …………

 ……………………

 ………………………………

 …………ちゃん………………

 …………いちゃん………………

 …………

 ……


 …………おにいちゃん…………

 ……おにいちゃん…………

 おにいちゃん…………

 ………………



 ふと、目が覚めた。

 部屋の中は薄っすらと明るい。時計を見ると六時をまわったところだった。

 耳をすませると遠くからセミの鳴き声が聞こえてくる。もう夏の太陽はだいぶ昇ってきているようだ。

「…………」

 俺はベッドから身体を起こす。早朝なのに、何故か頭が冴えている。

 俺は、夢を見ていた。どんな夢かは思い出せないけれど、小さな女の子の声が聞こえたことはかすかに覚えていた。

 その女の子は、何かを言っていたような気がするが、内容までは思い出せない。

「うん……、頭がクラクラするな」

 俺は頭を二、三回ポンポンと叩く。

「顔洗ってくるか」

 俺は洗面所へ向かうべく部屋を出る。

 そして顔を洗い、洗面所を出たところでのぞみと出くわす。

「あ、こーへー、おはよ……」

 のぞみは俺の顔をじっと見つめる。

「な、何だよ?」

「こーへー、もしかして寝不足?」

「何で?」

「だって目、まっ赤だよ」

 俺は洗面所へと戻り、鏡で自分の顔を見てみる。

「あれ、ホントだ」

 するとのぞみが鏡に映りこんできた。

「こーへー、今日何か予定ある?」

「何で? 何かあるんか?」

 するとのぞみは急にもじもじし始める。トイレに行きたいのか?

「別に、特に何もないんだけれど、今日ヒマだし、付き合ってくれないかな〜って」

 要はデートのお誘いってことか……。

 俺はのぞみの方へ向き直る。

「悪いけど、今日はケンの先約が入っているんだ」

「え、どこ行くのさ?」

「隣町の映画館で映画観てくる」

 そして俺は洗面所から出る。するとのぞみが俺の後ろにくっついてきた。

「ねえねえ、私もついていっちゃ駄目?」

「悪いけれど、チケットは二枚しかないらしいんだ」

 するとのぞみは露骨に残念そうな表情を浮かべる。

「そういうことだ。ちゃんとお土産買ってきてやるから、いい子でお留守番してろよ」

 俺はそう言い残し、部屋へと戻った。

「う〜、子供扱いするな〜!」

 着替え中、ドアの向こうからのぞみの声が聞こえてきた。

 のぞみ、そういうこと言うヤツは子供なんだぞ……。


「もう、そろそろだな」

 俺は腕時計へ視線を落とす。ケンとの待ち合わせの時刻が近づいてきた。

 ケンが待ち合わせ場所に指定してきたのは、駅の正面玄関。ケンは時間ギリギリに合わせてくるタイプだが、俺は十分前行動タイプだ。

 家を出る時、一緒に行けなかったのぞみは頬をふくらませていた。そしてその姿を見た恭子さんは苦笑いである。

 やっぱりのぞみを置いてけぼりにしたのは悪かったかな……。今度何かしら埋め合わせをしておこう。

 そんなことを考えていると、

「おーい、浩平!」

 商店街の向こうからケンが走ってこちらへと向かってきた。

「ギリギリセーフ!」

 全力で走ってきたのか、ケンは肩を上下させて息切れをしていた。

「ほら、汗拭けよ」

 俺はカバンからハンドタオルを取り出してケンに渡す。

「サンキュー、いやぁ暑い暑い!」

 ケンの言う通り、今日は暑い。出かける前TVの天気予報をチラ観してきたが、今日はこの夏一番の暑さになるそうだ」

「ほら、とっとと駅の中へ入ろうぜ、ちょっと冷房きいてるだろ」

 俺は駅舎の中へ入ろうとする、するとケンに肩を掴まれる。

「どうした?」

 するとケンの表情は一気に曇った。

「あのさ、実はな……、俺急用ができちゃってさ、映画行けなくなっちまったんだよ。ホント悪い!」

 ケンはそう言い、手を合わせて深々と頭を下げた。

「マジでスマン!」

「ああ、まあしょうがないよな……。いいよ気にすんなって」

 俺はケンの肩をポンと叩く。

「スマン! お詫びにこれやるよ」

 ケンはポケットから映画のチケットを取り出し、俺に手渡してきた。

「いいのか?」

「勿論だ! 好きに使ってくれ」

 そしてケンは二、三回大きく深呼吸をする。

「じゃ、俺行くわ。この埋め合わせはいつか必ずするから! じゃあな!」

 そう言い残すと、ケンは再び物凄い勢いで商店街の方へ走っていった。

 俺は声をかけようとしたが、もうその時にはケンの姿は見えなくなっていた。

 あいつ意外と俊足なんだ……。


 ケンが去ってしまった後、一人残された俺はこれからどうするか考えてみた。

「折角のチケットだからな。無駄にしたくはないよな」

 俺は商店街の中を歩きながら色々考える。

「誰か誘ってみるか」

 そして最終的に浮かんできた人物は、やっぱりというか何というか、のぞみの顔だった。

「のぞみ、家にいるかな」

 俺は商店街を通り抜けて家へと向かう。映画の前に昼飯を済ませる予定していたから、上映時間までまだ余裕がある。

 この商店街、実は海沿いの道への近道であり、駅前の広い道を通るより早く家まで到着することができる。これもこっちへ引っ越してきてから気付いたことだ。

 そして、しばらく歩いていると、

「あれ?」

 ゲーセン横にあるたこ焼き屋の屋台前に、見覚えのある後姿があった。

 正直、この見覚えのある後姿を、こんな所でお目にかかれるとは思っていなかったので、俺は内心驚いていた。

 俺はその後姿へと近づき、声をかけてみる。

「さ、咲希?」

 するとその人は振り返る。

「……浩平君?……」

 思った通り、その後ろ姿は咲希のものであった。手にはたこ焼きの折、口には青海苔のついた爪楊枝が咥えられている。

「ど、どうしたんですか? こんなところで……」

 咲希は突然声をかけられ、少し慌てている様子だ。

「そ、それはこっちのセリフだ。そっちこそ何やってんだよ」

 すると咲希は手に持っているたこ焼きの折を、俺の方へ差し出してくる。

「たこ焼き……」

 咲希、それは見れば判る……。

 俺はたこ焼きの折へと視線を移す。

 …………、

「って、おい!」

「ど、どうしたのですか?」

「な、何だよこれ? 三十個以上あるじゃないか!」

 咲希が持っているたこ焼きの折、それは四十個は入ろうかという特大サイズ。おまけにたこ焼き自体も普通サイズと比べて一回りデカいぞ……。

「ここ、元祖たこ焼き総本店。玉も大きくて、とても美味しいです。実は私、たこ焼きが、大好きなんです」

 言い終わると咲希はたこ焼きを食べ始める。我慢できないのか、その様子はまるでお預けの解けた犬のようだ……。

「わけわかんねえよ。大体何が元祖で総本店だよ? たこ焼きは関西発祥だろうが!」

「浩平君、細かいこと気にしすぎですね」

 俺が呆れて頭を掻いている間、咲希はたこ焼きを次々と口へと運ぶ。いつの間にか折にあったたこ焼きの数は半分以下となっていた。

「それ、もしかして全部食う気か?」

「はい、大好物ですから」

 即答だよ……。

 心なしか今の咲希はいつもよりテキパキしている気がする。

「つーかこのクソ暑い中、よく食えるよな」

「はい、大好物ですから」

「胸焼けとかしないのか?」

「はい、大好物ですから」

「喉渇かないのか?」

「はい、大好物ですから」

「何で全然汗かいていないんだ?」

「はい、大好物ですから」

 最早答えじゃなくなってきている。

 俺はたこ焼きに夢中になる咲希の表情を見つめる。

 その表情は幸せそうな雰囲気に溢れている。たこ焼き一つ口へ運ぶ度に、咲希は小さな笑顔をこぼす。思えばこんな表情を見たのは初めてかもしれない。

「どうしたのですか?」

 咲希が俺の視線に気付く。

「え、いや別に……。ささ、どうぞたこ焼きを続けて下さい」

「はい、もう終わりました」

「……えっ?」

 咲希の手元を見ると、たこ焼きの折がいつの間にか空っぽになっていた。

 咲希はその空になった折を屋台横のゴミ箱に捨てる。

「それで、どうしたのですか?」

 立ち尽くす俺に咲希が訊ねてくる。

 ……あ、いかん。思わず口が半開きになってしまっていた。

「い、いや別に。家に帰る途中で偶然姿が見えたからさ」

「そうなんですか?」

「ああ、咲希は何しに商店街へ?」

「たこ焼き」

 愚問だった。失礼しました……。

 何か、俺の知らない咲希の一面を見てしまったような気がする。

「わ、わかった。咲希が楽しいなら、俺はそれでいいよ……」

「はい?」

 答えになってないな、俺。

 ああ、何かこの場に居辛くなってきた。間がもたねえよ……。

「じゃ、じゃあ俺そろそろ行くわ」

「あ、はい。さようなら」

 そして俺は家へ帰るべく、踵を返す。

「…………」

 その時、俺の中である一つの考えが生まれる。そして俺は瞬時に判断して実行する。

「なあ咲希、これから暇か?」


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