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カオティック・ダイアリー  作者: 相良徹生
第一章 黒髪は口が悪い
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俺は地面に突っ伏して

十月 六日



 俺は地面に突っ伏して、うつらうつらとしながら数を数えていた。

 嫌なことがあった時は、ゆっくりと十まで数えるのが一番とかなんとか……。

 昔はそんな考えを悪い冗談だと思っていたが、今ではそれほど悪くないと思っている。つまり、俺は鉛弾を三発もくらって死にかけていた。

 正確には三日前にワット・クソッタレ・ピアス呼び出され適度に殴られてから、ちゃんと死ぬように二発、行きがけの駄賃でもう一発撃たれた時と同じ格好で地面に突っ伏していた。


 だが俺は死ななかった。


 クソありがたい事に生き残った。

 そうして、俺はとっととくたばればいいものを、もう三日も地面の上で雨に打たれ、日にあたり、泥の中に突っ伏しながら数を数えている孤児の遺体となった訳だ。

 失礼、遺体になるのも時間の問題の重傷者に。

 これ以上『嫌な事』なんて存在するのか?

 少なくとも、数くらい数えてもいいはずだ。一、二、三……。


 俺はすでにお馴染みになった、血まみれの体を見下ろした。

 不自然な方向に足がもつれ、泥だか血だかわからない物がそこら中にこびり付いている。

  どこを撃たれたのか知らないが、こりゃもうだめだ。

 くそっくそっくそっ!

 早くしてくれ。

 死ぬなら早くしてくれ。

 今日何千回目かの悪態をつくと遠くから牛の鳴き声が聞こえた。これが俺の声とは。ちくしょう。ありがたい。


 急に視界が暗くなり、俺は息を飲んだ。

 来た。ついに来た。

 中流階級のガキ共に混ぜ物入りのドラッグを売る人生は終わりだ。

 ろくな死に方をしないと思っていたが、まさかこんな早いとは思っていなかった。


 何もかも、すべて、終わりだ。


 俺はましな方だ。ゆっくりとまぶたを閉じながら俺は自分に言い聞かせた。

 組織に切られた時は悲惨だと聞く。どう悲惨だかはあえて聞かなかったが、今はその時の分別を感謝した。

 こうして二、三発撃たれて痺れと寒さで死ぬのは、まぁその、ツイている方じゃないのか? たぶんな。なんの慰めにもならないが。


  遠くからの水音に無意識に体が強張った。

 鳥か? 違う足音だ。こちらに近づいてくる。

 俺は息をはき出して、無理やりまぶたをこじ開けた。視界が暗くなった訳ではなかった。俺はなにかの影になっていた。

 人だ。くそ、あいつらが戻ってきた。俺の死体を眺めにきやがった!

 言葉にもならないうめき声を上げると影が少し揺れ、遥か遠くから声が聞こえた。

「おい、大丈夫か?」

 ちくしょう、女みたいな声出しやがって。

 「お前……」

 影が近づいてくるのがわかる。

 なんとか体を動かそうとしたが、

 砂粒一つ震わそうになかった。今までできなかった事が今できる訳がない。


「生きているか?」

 はっきりと頭上で声が聞こえる。

 精一杯目を見開いて頭を上げると、強烈な光が目に入り俺は思わず悪態をついた。

 そういえば、こんな長時間太陽の下にいのは、児童擁護センターを抜け出してから一度もなかった。

 目をこじ開けてもう一度見上げると、髪の長い人間が立っていた。元々霞む目と逆光で顔がわからない。

「生きているな……」

 影がクスクスと笑い、長い髪が揺れている。


 なんてこった、女だ! 女が笑っている。


 怒鳴りちらしたい気分だった。

 早くしてくれ! 殺せよ! そろそろじゃねぇのか?

 もう十分だ! 最後の最後に変態に見下ろされて死ぬのか? 


「くそったれっ! 失せろっ!」


 俺は腹の底から叫んだ。

 信じられない程の大きさの声に頭がくらくらとし視界が真っ白になる。俺はそのまま気を失った。

 最後に見たのは女の笑った顔だった。

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