ー1ー
■■■ ■■■■ ■■■.
この世界には魔法がある。
「つまり、格差があるんだ」
簡単に言えばな。そう言って彼女は笑った。とても彼女らしい、投げ槍な物言いだ。
「……格の差?」
ぼくの背中から薄らと闇が差し込んで、落陽が名残惜しそうに夜の訪れを告げる。
「そう。だから、君は選ばなくちゃいけない。或いは、……選ばれなくちゃいけない」
そうして逆光が彼女の顔を隠してしまう。
笑っているように思える彼女は、いま本当は、どんな表情を浮かべているんだろう。僕の意識の半分はそのことばかりに向けられていた。
「……よく分かんないよ」
もう半分は、沈んでしまった。あの陽のように。いや、いまもなお沈んでいく。少しずつ、けれど確実に、じわじわとノイズが染みていく。
「今はまだ分からなくていいんだ。……いや、分からない方がいい。あまり考えるな。頭を使うのを控えろ。その方が負担が減る」
意識が保てない。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
「んん」
霧散していく。■だ。■だ。■■。
「……きっと忘れてしまうだろう。わたしはとても優秀で、きみにはあまりにも才能が無い」
汗が滲みだす。■■。■■。■■。
「そのままのきみでいてくれたらいい。と思うのはわたしの我侭だろうな。これはエゴだ。エゴ以外の何物でも無い。碌でも無いものだ。実にわたしらしい、わたしにぴったりの方法だ」
陽が、落ちていく___
「……饒舌だな。わたしも迷っているんだろうか。……迷っているんだろうな。これも『選択』のひとつだ。『わたしは選んだ』。これがわたしの意志だ」
せめてもの抵抗は、彼女の言葉によって簡単に撥ね付けられた。
「そんな目で見ないでくれ。死にたくなるだろう?」
冗談じゃない。その思いは声にならない。ぼくの身体は支配者を失い、まるでドット・スライムみたいに軟らかく地面に投げ出されていた。
■
意識が融けていく。何も考えることが出来ない。 ■
いや、抵抗しろ。抵抗するんだ。何でもいいから考えろ。
■ ■ ■
ファブリカ。この町の名前。
■ ■
海。ここはアッカデーリ大陸の端っこ。
■ ■ ■
落日。一日は24時間。7日で一週間。12ヶ月で1年。ぼくは、10歳の、……ぼくは、誰だ?
■ ■ ■■■ ■
ぼくは誰だ?どうしてここにいる?
目の前にいる彼女は誰だ?
涙を流している。
足音が近づいてくる。
草と土と夕暮れの匂い。
嗄れた唾の味。
それ以外には なにも 考えられない。
「それじゃあ。元気でな」
その言葉を最後に、ぼくの意識は途切れた。
……ぼくは魔法にかけられた。
精神操作を司る系統の、存在が失われた古の種族のための魔法。
この世界には、そんな類の、魔法があった。
さよならのための魔法。
ダークエルフの失望魔法。
不定期に投稿していきます。




