4月24日
「図書館、ですか?」
「うん。図書館」
春日野さんが本好きだと知ったのは、先日偶然会った後のちょっとしたやりとりからだった。
実はあの日図書館に来ていたのも何か探していた資料がある、とかそういった事ではなく、単純に本が好きだから休日はよく来ているというだけらしい。
そこで思い切って図書館に誘ってみた次第である。
「私は本好きですしよく行きますけど……ご一緒して頂いてもいいんですか?」
「うんうん!っていうか俺から誘ったんだし……どう?」
思ったよりも好感触だったので、さらに踏み入って聞いてみる。
「はい! 是非!」
「ありがとう!」
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というわけで、一緒に図書館に行く事となった。そして今は待ち合わせ場所、図書館の最寄りのバス停である。
春日野さんの家は徒歩で図書館に行ける場所にあるそうで、公共機関を利用しなければ少々遠すぎる場所に住んでいる俺に配慮してくれたのか、バス停が待ち合わせ場所となった。
何故バス停かと言えば、実はこの図書館が駅から少し遠いためである。ただ、図書館の周辺には様々な施設が密集しているので、駅から無料のシャトルバスが1時間に4〜5本は出ている。
今の時間は待ち合わせ時間の三十分前と言ったところか、少し早く着きすぎてしまったかもしれない。……まずい、ドキドキしてきた。表向きは普通に友達同士で遊ぶという体だが、男女で2人きりとなるとこれは完全に……
「あれっ? 赤坂君?」
噂をすれば、春日野さんの登場である。
「……まだ待ち合わせ時間には三十分ほど早いですよね? もしかして、かなりお待たせしてしまいましたか……?」
待ち合わせ場所に現れた彼女は申し訳なさそうに眉を下げながらの上目遣い──身長差があるために上目遣いのようになってしまうだけなのだが──で話しかけてくる。
可愛い……いやシンプルに可愛い。可愛い以外の語彙を失った。
それにしても私服……いいなぁ……
制服姿も勿論可愛いのだが、私服となるとその倍……いや三倍は可愛いというのは過言だろうか?いや過言ではない。
春っぽい桜色のワンピースにクリーム色のカーディガンを羽織っており、足元は白いニーハイソックスに、リボンの装飾があしらわれた可愛らしい靴。それはさながら、春の化身のような可愛らしさに包まれていた。
「あの……赤坂君?」
「はっ……! あ、な、何でしょうか春日野さん」
「お待たせしてしまって申し訳ないです……」
申し訳なさ気な表情を崩さず、頭を深々と下げる春日野さん。
「い、いや大丈夫だよ! 俺が勝手に早く来ただけだし、そもそも今来たところだしね。それに、春日野さんだって待ち合わせの三十分も前に来てくれてるし」
「私は……ちょっと抜けてる所があるのでいつも三十分前行動を心がけてるというだけなので全然……」
きっと俺はこういう所に惹かれているんだと思う。
「あっあの……赤坂君、お昼はもう何か召し上がりましたか?」
「ん? いやまだだよ」
「良かったぁ……実は今日お昼に食べようと思ってサンドイッチ作ってきたんですけど何か作りすぎちゃって、良かったらご一緒にどうですか?」
「いいの!?」
春日野さんと遊べるだけでも嬉しいのに、さらに手作りのご飯だなんて……多分俺は近いうちに何か大きい事件に巻き込まれて死ぬんだ……
「ええ、是非! 私一人では食べきれませんし」
小柄な体をぴょこんと跳ねさせて笑う春日野さんはやはりとても可愛かった。
図書館の横には噴水のある公園があり、ここもなかなかのレジャースポットとなっている。
アスレチックコースが設置されていたり、中央の池では野鳥が観察できたり、公園そのものの広さを活かしたランニングコースとしても利用されていたりと、こちらもまた老若男女問わず、市民に人気のある場所である。
「公園でお昼食べてからにしましょうか?」
「そうだね」
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「美味しかった……」
結論から言えば、とても美味しかった。素人の女の子が作ったサンドイッチとは思えない……と言っては大袈裟かもしれないが、とにかく美味しかった。使われている野菜は新鮮だし、食パンを使ったものだけではなく生ハムやフェタチーズの入ったバゲットサンドなどもあり、かなり満足感の高いものだった。
「本当ですか? 嬉しいです!」
「春日野さんって料理上手なんだね」
「そんな……ただのサンドイッチですし、誰でも作れますよ?」
「謙遜しなくてもいいって」
しつこいようだが、本当に嬉しそうに屈託のない笑顔を向けてくる春日野さんは最高に可愛かった。
「お腹も膨れた事ですし……図書館に入りましょうか? 私、早くも興奮が収まりません……!」
「め、メインイベントだもんね……」
本を前にすると性格が変わる人なんだろうか?
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「今日は楽しかった?」
「はい! もうとっても! すっごく楽しかったです!」
あれからお互いのおすすめの本を読みあったりして、結局日が暮れそうな時間になってしまっていた。
「文字だけの本を一日に何冊も読むことなんて滅多にないからちょっと頭が疲れちゃったかも」
「ふふ、でもこういうのも悪くないでしょう?」
「うん、楽しかった」
「今度またご一緒しませんか?」
「春日野さんさえ良ければ是非」
そんな会話をしながら歩く夕焼けの帰り道。
もうすぐ別れかと思うと少し寂しさを感じた。
そして神様の悪戯か、あっという間にバス停に辿りついていた。
「改めて、今日はありがとうございました!」
「こちらこそ、今日は付き合ってくれてありがとう」
「ではまた後日、学校で」
「う、うん……そうだね……」
学校という単語からふと鏑木紫月が脳裏をよぎり、思わず変な反応を返してしまう。
「? どうかしましたか?」
「い、いや何でも!」
バスが到着し、乗り込む。
春日野さんはそれを見届けると自宅があるのだろう、その方向へと歩き出した。
……と思いきや、ぱっと振り返り口を開く。
「赤坂君!」
「ん?」
「薄々思ってたんですけど、こういうの、世間ではデートって言うんですよー!」
「……!?」
そういうの、反則だろ……?