4月17日
まあ、そんな事があったからといって簡単に挫けてしまうような男ではないのですよ私は。
俺は鏑木の誤解を解いて和解をする……ために市の中心に来ていた。春日野さんとお近づきになるために鏑木と和解する、というのは手段と目的が逆転しているような気がしてしまうが、まあいい。
市の中心部は、俺の住む場所と高校を結ぶ路線の延長上にある。と言ってもほんの数駅の差で遠いという事はなく、むしろ近いと言っても良いかもしれない。
ここはこの辺りで最も人口の密集した土地で、それに伴い施設がとても充実した場所となっている。映画館、図書館、ランニングコースに程よい広さの噴水公園、数々の飲食店などを筆頭に、遊ぶには困らないものがこれでもかと詰まったような土地であり、この辺りの人間は老若男女問わず、休日に遊ぶと言えば大抵はここに集まる。
とはいえ、今日の俺は何も遊ぶためにここにやってきたわけではない。何をしに来たかと言えば研究である。そう、鏑木といかにして和解するかを研究しにきたのだ。
俺には恐らく、「女心への理解」というものが圧倒的に足りていないのではないかと思う。という理由で、市で最も大きいであろう書店、龍泉書店の本店に足を運んだ次第である。ここで女物の雑誌を読み漁り、女心というやつをバッチリマスターしてやるぜ。
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「と意気込んだのは良いものの……」
書店に足を踏み入れてから2時間ほど経過したが、一向にそれらしい情報を得るには至っていなかった。
それどころか、得られた情報と言えば「女の子は壁ドンに弱い!?」だとか「好きな男の子に無理やり押し倒されたい女の子が多い」といったような信憑性にかけるものばかりで、もしこれらが本当だとしても鏑木には絶対当てはまらないだろうな、というのは断言できる。
というわけで、雑誌はソース足り得ないと判断した俺は続いて市立図書館に足を運んでいた。
俺達の間で図書館と言えば、市の中心にあるこの図書館を指すことが多い。
市がかなり力を入れているのか、蔵書数もとても多く、何でも60万冊くらいあるとか……。
専門書や新聞の縮刷版など、図書館の外ではあまり見ることの出来ないようなものから、文庫本や児童書、果ては最新のライトノベルや漫画、クラシック音楽のCDやゲームのサウンドトラックなんかも置いてあるという充実っぷりで、市民の憩いの場と化している。
学校の図書館なんかとは比べ物にならないほどの巨大施設だ。
「はー……雑誌ならネットを鵜呑みにするよりマシだと思ったんだけどな……」
まあそこは女性向け雑誌である。というか、そこらのおっさんライターが適当に書いたものという可能性も否定出来ないしな……。何で最初からこっちに来なかったんだろう……
さて、資料漁り始めるかな。
「あれ?」
「ん?」
聞き慣れているわけではないが、でも確かに聞いたことのある声が聞こえ、ふと振り返るとそこには春日野櫻がいた。──春日野櫻が、いた。
「あの、違ってたらすみません! この間学校でぶつかって荷物をばらまいてしまった時の方ですよね? 奇遇です! こんなところでお会い出来るなんて」
「あ……うん」
「ええと……どうかされました? もしかして人違い……」
「い、いや大丈夫……合ってるよ」
やっべええええええ何も話せない!
めっちゃ緊張する!可愛い!めっちゃ可愛い!
「……? あ、そうだ! 良かったら連絡先交換しませんか? ええと……あれ?何さんでしたっけ? すみません、よく覚えてなくて……」
天使か何かですか、この女の子は……
「あ、ああ……俺は赤坂柚人。そういえばあの時お互いに自己紹介してないよね。連絡先ね、いいよ」
出来るだけ平静を装いつつ話を進める。
「そうでしたっけ! すみません大変無礼な事を……! あ、私は春日野櫻って言います。以後よろしくお願いしまっッ! ……か、噛みました」
か、可愛い……。ただひたすらに可愛い。撫で回したい。……って、俺今相当気持ち悪いこと考えてるかもしれない。
「うう……」
「か、春日野さんって意外と面白いね」
「わ、私が面白い……? どの辺りがですか?」
「えーっと……そのすごくしっかりしてそうなのに意外と抜けてるところとか」
「え、酷いです! 私にだってちゃんとしっかりしたところもあるんですから!」
「例えば?」
「うーん……あ! 普段は家で小学生の弟の面倒をよく見てます!」
ふっふーんと胸を逸らして腰に手を当て、どや?どや?といった表情を見せる春日野さん。……胸はあまり大きいほうではないようだ。
「そうなんだ」
「一々反応が酷いです! あんまりです!」
「ごめんごめん」
春日野さんはハムスターのようにぷくっと頬を膨らませて、軽く怒ったような表情を見せた。
「そういえばどうして図書館に?」
「あっ……」
春日野さんの言葉に、ふとこの場所が図書館である事を思い出す。それと同時に、周りから刺さる視線を感じ取る。
「迷惑みたいだし、一旦外に出ようか」
「あっ……そうですね」
周りの人たちにペコペコと頭を下げつつ、俺たちは図書館を後にした。
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「ふう……」
「すみませんすみません! 私が話しかけてしまったばっかりに! 図書館に用があったんですよね? 私の事は良いですから戻ってご用事を……あ、何ならお探しの本があればお手伝いしますし……」
「いやいや! 大丈夫だよ」
「そうですか……」
まあ図書館に用事があったのは事実なのだが……というところまで考えたところでふと気付いた。
俺が図書館にやってきたのは何のためであったか。鏑木と和解するための糸口を探すためである。
じゃあ何故鏑木と和解する必要があったのか。それは春日野さんとお近づきになるためだ。
だがどうだろう?今は目の前に春日野さんがいる。連絡先も交換した。そして近くに鏑木はいない。これはあれだ……神様がくれたチャンスというやつなのではないだろうか?
「か、春日野さん!」
「はい?」
落ち着け。一度は手紙まで出して伝えようとしてた事じゃないか。ストレートに気持ちだけ伝えればいいんだ。
……何でだ?いや今日まで名前すら知らなかった(事になっている)相手に突然告白なんてされたら春日野さんはどう思うだろうか?いくら優しい春日野さんとはいえ、流石に引いてしまうのではないだろうか……?鏑木だけでなく春日野さんにまで「あ、赤坂君ってそういう人だったんですね……ごめんなさい、もう私には近づかないで下さい」なんて言われてしまった日にはもう一生立ち直れないかもしれない。ここは……
「鏑木……紫月ってどういう人なの?」
何で……何でよりにもよってその話題なんだ……。焦ってたとはいえ流石にダメだろ……
「えっ? 紫月ちゃんですか? 私含めてみんなに優しい可愛い女の子だと思いますけど……どうして私に?」
「えっ!? ……えっとそれはほら! 学校で春日野さんと鏑木が一緒にいるところ見たからさ! 仲いいのかなーって」
「はい、中学の頃に同じクラスに紫月ちゃんが転入してきてからずっと仲良くさせてもらってます! ……もしかして、紫月ちゃんの事、好きなんですか?」
とんでもないこと聞いてきやがる。そしてノータイムで返答する。
「それはないです」
「そうなんですか」
「まあ色々あって……」
「赤坂君も大変なんですね」
貴女の事で悩んでいるんですよ。とはとても言えなかった。




