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桜の花とすみれ月  作者: 小波漣
3章:Violet Syndrome
22/25

篠突く涙雨と(前編)

 六月も中旬に差し掛かる頃合。降雨が多くなってきたこの時期。今日も今日とて、朝から雨が降っていた。それも、普段よりもずっと強いものが。

 街の上空を覆い尽くす分厚い暗雲が、まるでこの街全体を喰らわんとしている極大な化け物のようにも見えた。豪雨が地を叩く音は、通常の雨が打ち鳴らすそれとは一線を画する迫力を孕んでいて、それがあの化け物の咆哮なのではないかと思わずにはいられない程であった。


「今日も雨だな……」

「雨だなぁ」


 俺と砂霧は、差してきた傘が網で出来ていたのではないかと疑ってしまう程にビショビショに濡れたシャツを窓際に干しつつ、窓の外を眺めて鬱屈とした気分に浸る。


「こんな雨ばっか降ってるとなーんもやる気出ないよなぁ」

「梅雨なんて早く明けちまえばいいのに」


 まあ、梅雨に雨がちゃんと降るのはいい事なんだけどな。空梅雨の影響って水不足で野菜が高騰したりで割と身近な所に出るし。

 ただまあ一般市民の俺達としては雨は降らないに越したことは無いわけで。


「早く梅雨明けねえかなぁ」

「少なくともあと一ヶ月は降り続けるぞ」

「はぁ……」

「あ、そういえば」


 ふと、砂霧は思い出したように自らの顎に手を添えた。


「お前、鏑木と仲直り出来たのか?」

「……は!? な、何だよ急に。何の話だよ。何がそういえばだよ」

「とぼけてんじゃねえよ、この前相談乗ってやっただろ」

「あれは……例え話だって言ったろ」

「あんな具体的な例え話があるか。美少女二人に囲まれやがって羨ましい。で、どうなんだよ」


 確かに誤魔化しきれるとは思っていなかったが、物の見事に看破されきっている様子だったので、素直に諦めて話すことにする。


「まあ、その……一応出来た、のかな」

「おお、良かったじゃん。原因は結局何だったんだよ」

「それはいくらお前でも教えらんねえな、プライバシーってもんがあるからな」

「俺とお前の間に隠し事は無しだろー?」


 砂霧はクネクネと身体を捩らせつつ俺の腕にしがみつく。


「気持ち悪いからやめろ!」

「えーイケズー。で、実際のところどうなんだよぉ?」

「んー、でもやっぱりこればっかりはいくら相手がサムでも教えられないな。鏑木が構わないって言うなら別だけど」

「流石に鏑木に特攻する程命知らずでも無いしこれ以上は聞かないことにするわ……あとサムじゃなくて砂霧(さぎり)な」

「三人以上が知った時、それは秘密じゃなくなるからな」

「口は堅いんだけどなぁ」

「仮に話したとしてそれが他の人に知れているのを知ったら絶対殺すからな」

「さらっと怖いこと言うなよ」

「鏑木がな」

「……やりそう」


 砂霧の顔がみるみる真っ青に染まっていく。と思いきや、今度は雨の日の楽しみを見つけ、長靴を履いて外に飛び出した小学生のような顔になる。


「何だよ……気持ち悪い顔しやがって」

「この顔は生まれつきなんだよ! 悪かったな」

「これからは顔が気持ち悪い事を反省して生きろよ」

「うるせバーカ死ねうんこ」

「小学生かよ」

「唐突に顔に文句垂れ出すお前が悪い」

「悪い。で、何だよ。何か面白い事でも見つけたのか?」


 高校からの付き合いではあるが俺はもう分かっている。

 コイツがこういう顔をしている時は決まってロクな事を考えていない。100パーセントと言ってもいい。

 砂霧はその質問を待ってましたと言わんばかりに口をニンマリと歪めると、ゲスさに満ちた表情でこう答える。


「お前、結局春日野さんと鏑木、どっち狙いなんだ? はたまた、もうどっちかと付き合ってたりするのか……?」

「い、いやいや付き合ってはいないから! これは本当、誤魔化しでも照れ隠しでもないから」

「チッそうなのか」

「舌打ちしたよな今」

「気のせいだろ。で、どっち狙いなんだ? どっちかの事は好きなんだろ?」

「それは……って、お前は俺がラブレター渡すのに失敗したの知ってるだろ」

「……それもそうだな!」


 いや何なんだ……わざとやってるだろコイツ


「いやでもあの時とは違って、今のお前は鏑木の事を憎からず思ってるんじゃないかと」

「ばっ……! た、確かに、交流を重ねてるうちに思っていたような奴じゃないっていうのはわかったよ。でもそれは恋愛感情とは違う」

「……。本当に?」

「本当だ」

「へえ、そっか。悪かったな変な勘ぐりして」

「……」

「まあ、春日野さん。可愛いもんな」

「……本当にな」



----



 放課後になっても雨は轟々と音を立てて降り続けていた。天気予報によれば、今日一日はもうずっとこのまま降り続けるそうだ。今日いっぱいどころかこのまま永遠に止まないのではないかという錯覚に陥りそうな、絶望的とも言える空模様。昇降口から空を見上げる俺たちまでもがその鬱々とした空気に当てられるようであった。


「雨、止みそうもないですね……」

「天気予報だと今日ずっと止まないってさ」


 春日野さんは薄紅色を基調とした可愛らしい傘の留め具を外しながら、アスファルトに跳ね返る雨を恨めしそうに見つめる。


「まあこういう天気も一年にそう多くは体験出来ないものだと思えば、案外悪くないものよ?」

「……紫月ちゃん、雨とか好きな人だっけ?」

「んー、雨が特別好きというわけではないけれど……。人は誕生日の時期に特別な思い入れを持つ事が多いのよ」


 鏑木は真紅の薔薇が所狭しとプリントされた、些か派手な色の傘を開いて雨の中に躍り出る。


「何というか、派手な傘だな」

「む、何も分かってないわね赤坂君」


 鏑木はくるりと実を翻してこちらに向き直る。


「傘っていうのは勿論、雨の日に差すものでしょう? 雨の日は雨雲のせいで薄暗くなるし、雨のせいで視界も悪くなるの。当然、車のドライバーなんかからは歩行者が見えにくくなるわね。そういう時、黒や紺なんかの目立たない色の傘を差しているとどうしても認識が鈍るの。こういう派手な傘なら、そういう心配もないでしょう?」

「へー、じゃあその柄は事故防止の為であって、お前の趣味ではないって言うんだな?」

「……わ、私の趣味だけど……変かしら?」

「いや、鏑木らしくていいと思うよ」

「そ、そう……ならいいの」

「むー……私、お邪魔虫でしょうか……?」


 やり取りを横目で見ていた春日野さんがプクーッと頬を膨らませていた。


「そ、そんな事ないって! 春日野さんの傘も春日野さんらしくて可愛いよ」

「えへへ、ありがとうございます!」

「ちょっと、私の目の前で櫻を口説こうとしないでくれる?」

「別に口説いてないだろ!」


 昇降口から校門へと移動した後、校門を背に俺達は別れる。鏑木は住宅街方向へ、俺と春日野さんは駅方向へと。

 数メートル先の声すら聞こえにくくなるような豪雨の中で「さよなら、また明日ね」の声はハッキリと耳に届いた。

 お互いに背を向け各々の帰路へと着くと、その足音は雨音にかき消されて聞こえなくなる。その感覚に妙に胸騒ぎを覚えた。


「……赤坂君?」


 隣を歩く春日野さんが、突然黙り込んで険しい顔をする俺を心配そうに覗き込んでくる。


「……何でもないよ」


 経験上、この手の感覚は杞憂に終わる事が多い。きっと今回のこれだって、こんな天気だから、気分まで空模様に引っ張られているだけなのだと思う。明日になれば、きっとこの暗い気持ちも雨と共に綺麗さっぱりと吹き飛んでいる事だろう。


「じゃあね春日野さん。また明日」

「はい、また明日!」


 駅で春日野さんと別れ、今度こそ俺は一人になる。一度生じたそのモヤモヤとした気持ちは一層その強さを増していき、それは得体の知れぬ不安感へと姿を変えていく。

 気のせい。気のせい。そもそも、何をそんなに怖がっているんだ。と無理やり思い込み、風呂に入って寝ればスッキリするさ。と信じて、俺は玄関の扉を開いた。


 その不安が杞憂ではなかったと気付いたのはその次の日の事。

──鏑木紫月は、この日以降学校に姿を見せなくなった。



----



「鏑木が休み?」

「はい……そうみたいです」


 雨は夜のうちに上がったものの、依然として曇天であるのには変わりがなく。降水確率も七割以上とあって、傘は手放せないといった様子であった。


「どうしたんだろ。風邪、とか?」

「それが……昨日から連絡がつかなくて。担任の先生が言うには風邪みたいなんですけど……」

「もしかして携帯も確認出来ないくらい酷い熱出してるのかな。雨で身体冷やしたのかも……」

「一人暮らしでそんなの……心配です。良ければ帰りにお見舞いに行きませんか?」

「そう、だね。そうしようか」


 一晩経って影を潜めたかと思われたその"予感"は再び俺の前に姿を現す。一歩、また一歩と鏑木の家に近付くたび、心のざわつきが大きくなるのを感じていった。

 春日野さんと並んで鏑木の住むマンションのエントランスホールに足を踏み入れる。


「鏑木の部屋は……っと、これだ」

「え? 赤坂君、紫月ちゃんの部屋知ってるんですか……?」

「え!? い、いや偶然この前聞いちゃって」

「二人はいつの間にそんな関係に……インターホン、押しますね」

「いやいやいや本当にたまたまだよ? どうぞ」


 人気のないエントランスホールにインターホンの無機質な呼び出し音が鳴り響く。

 しかし、幾分か待ってもその呼び出しに反応が返ってくることはなかった。


「……?」

「寝てるんでしょうか?」

「ちょっと電話かけてみようか」


 アドレス帳から鏑木の名前を探し、発信する。

 インターホンと同様に、そちらでも応答が得られる事はなかった。


「出ない……」

「メッセージも未読のようですし、電話も出ない、家のインターホンにも反応無し……ま、まさか紫月ちゃん、家の中で倒れてるんじゃ……!? 救急車呼ばなきゃ……!」

「いやちょっと待って、いくら何でもそれは早計だって! だって担任の先生には連絡がいってたんだよね?」

「そ、そういえば……? だったらどうして……」

「とりあえず考えられる可能性は二つ、かな」

「? と言いますと……」


 春日野さんは不思議そうに首を傾げる。構わず俺は続ける。


「一つは、本当に風邪で寝込んでいて携帯を見る気力も無くて、インターホンにも気付かずにぐっすりと寝込んでる可能性」

「朝辛うじて学校にだけ連絡して力尽きた、という所でしょうか……? それなら心配ですけど紫月ちゃんに負担はかけたくないですし、今日のところは大人しく帰った方がいいかもしれませんね。それともう一つは……?」


 正直、あまり考えたくない可能性ではある。だが昨日から続くこの嫌な予感、昨日から一切の連絡が取れていないこの状況。春日野さんの続きを待つ目から視線を背けて、口を開く。


「今このマンションに鏑木はいなくて、こことは違うどこか別の場所で誰かに行動を制限されてる、とか」



----



「久しぶりだね、酒井(・・)紫月ちゃん。いや、今は鏑木(・・)紫月ちゃん。だったかな?」


 紫月が櫻達と別れて、自宅に向けて歩いている中途。

 路傍からかけられた声に訝しみながらも視線を向けると、そこに立っていたのは──


「い、いやあああああぁぁぁぁぁぁぁーッッッ!」


──"鬼"そのものだった。


 鬼。


 阿修羅。


 ハイド。


 鬼神。


 夜叉羅刹。


 悪意。憎悪。怨嗟。厭忌。唾棄。

 嫌悪嫌厭怨恨厭悪鬱憤。


──"元凶"。


 声が、出ない。息が喉に引っ掛かってその先へと吐き出されようとしない。


「ど、どうして……ッ!? なんで、お前が……!?」


 辛うじて絞り出された声は困惑に満ちていた。


「どうして、って……ずっと、ずうぅぅっと、紫月ちゃん。君を探してたからに決まってるじゃないか」


 苦くて辛い経験の一つとして昇華されかけていた小学生時代の普通ではない思い出が、思いだしたくもない欠片(ピース)の一つが、唐突に自己主張を強めていく。


「後、僕に向かって『お前』はないよねぇ? 仮にも育て親の僕に向かってさ。反抗期?」

「誰が、お前なんか……お前のせいで、私は」

「……言う事を聞かない子は嫌いだよ」


 男──叔父さんは。実の母の弟は。血の繋がった唯一の親類は。そして──紫月を"壊した"張本人は。

 同じく血の繋がった唯一の親類である彼女に対して拳を振り上げる。


「ヒ……ッ!?」


 動きが固まる。恐怖で、全身の筋肉という筋肉が硬直する。

 叔父は、振りかざした右腕を静かに紫月の頭に乗せると、優しげな口調で言う。


「もし変に助けとか呼んだら、どうなるか分かってる……よね?」


 柔和な細目がギロリと見開くのを確認して、コクコクコクコク、と紫月は勢いよく首を縦に振る。


「いい子だ」


 刹那、紫月の携帯から通知音が鳴った。


「おっと」


 叔父は携帯を取り上げると、自らの懐にそれをしまい込む。


「お友達や警察に連絡なんてされても堪らないしねぇ、これは預かっておこうか。いいかい? 変な気は起こすなよ」

「お前、私をどうするつもりなの……?」


 今度こそはと、何の前兆も無い衝撃が紫月の腹部を鋭く貫く。


「カハッ……!」


「『お前』はやめろって言ったよね……? 君はいつでも、いつだって僕を見下してそんな舐めた態度を取りやがって」

「……はい。叔父……さん」

「よく出来ました」


 叔父は満足げに下卑た笑みを浮かべる。


 叔父の拠点は紫月のマンションの程近くに構えたアパートだった。

 紫月が一人暮らしをしている事も、どこに住んでいるのかも、どこの学校に通っているのかも、全て調べ上げられていた。

 調べあげた上で、雨の降る目立たない日を決行の日として選んだ、という訳だ。

 

 次の日から、幼少期に止まった時計の針が、否、"止めた"時計の針が氷解したように動き出す。

 叔父の世話をするだけの奴隷。ストレス発散のサンドバッグ。鏑木家という豊かで優しい家族に恵まれ、二度とこんな生活をする事は無いと思っていた底辺を更に突き破ったような生活。おおよそ人間としての尊厳を保てないような扱いがまた始まるのだと、紫月は絶望に染まる。

 一度開かれた心が、再び閉ざされる音が聞こえた気がした。


(赤坂君……助けて……ッ!)



----



「こことは違う場所で、行動を制限……って! 拉致監禁ですか……!?」

「声が大きいよ春日野さん!」

「もし本当にそうだったら、救急車じゃなくて警察を……! あああああ、紫月ちゃん、どこにいるの……!?」

「と、とにかく落ち着いて、春日野さん。まだそうだと決まったわけじゃないから」

「で、でもでもでも! 風邪で休んでいるのに電話には出ないですし、インターホンにも反応なし、メッセージに既読すらつかないんですよ!? それも昨日から! 本当に何らかの事件に巻き込まれているのかも……!」


 俺だってそんな可能性はあくまでも『最悪の可能性』として想定してるだけだし、実際そんな事があって良いはずがない。あってほしくない。

 しかし、現状鏑木と連絡の取れる手段が無い以上、この考えが全くの間違いであるという確証も無い。


「どうしたらいいんだ……?」


 もしこんな妄想と受け取られてもおかしくないような内容で騒ぎを起こそうものなら、俺の社会的立場もタダでは済まないだろう。無論、春日野さんの立場も危うい。

 現時点では物的証拠は一つたりとも存在せず、あるのは普段であれば急に音信不通になる事は無いだろうという鏑木の人間性に賭けた状況証拠ただ一つ。


「あ、赤坂君……どうしましょう……」


 春日野さんは半泣きで俺に縋りつく。これを役得だな、と思える心の余裕があればどんなに頭が回転するだろうかと思う。

……いや、待てよ?


「春日野さん、今鏑木と一緒に写ってる写真とか持ってる?」

「ぐすん。は、はい。携帯の中で良ければありますけど……それが?」

「大家さんにそれを見せればもしかしたら鍵開けてくれないかなー、とか思ったり」

「……モノは試し、ですね」


 管理人室と思しき部屋のガラス戸を叩く。


「あのー」


 こちらはすぐに反応が返ってくる。ガラス戸がガラッと開かれ、中からはおばさんが顔を覗かせる。


「はい、どうしました?」

「あ、ここに住んでる鏑木紫月さんの学校の友達なんですけど、彼女風邪で学校を休んでいまして……それで御見舞に来たんですけど、電話をしてもインターホンを鳴らしても反応が無いものですから心配で……もしかしたら部屋で倒れて動けないんじゃないかと思って。鍵を開けてもらえないでしょうか?」

「あらあら、わざわざ御見舞なんてしっかりしてるわねえ……でも最近物騒じゃない? 簡単に開けてあげる訳にもいかないのよ」

「大家さん、鏑木の顔はわかりますか?」

「ええ、勿論。登校の時にはいつも挨拶してくれるもの」


 鏑木らしいな、なんて思いつつ、春日野さんにバトンタッチ。


「あ、あの……! 友達だって証拠にこういう写真もあるんですけど……」


 春日野さんが提示するスマートフォンの画面には、春日野さんと鏑木がどこかの飲食店でケーキと一緒に笑いながら映った写真。


「……今回だけよ? 何だか緊急事態みたいだし。だからそんな泣きそうな顔しないの」


 作戦成功、なのだろうか? もし学生服を着てなかったら思いっきり怪しまれていたような気がするが。

 隣で泣きそうな顔をしていた春日野さん共々、大家さんの後を着いていく。

 念のため、再度ドアの横に設置されたインターホンを鳴らした。……反応無し。


「大家さん、お願いします」


 先程の考えが全て俺の妄想に過ぎないもので、鏑木は連絡のとおり部屋で寝ていて、勝手に入ってきた俺に全力で顔面パンチ。そんな平和な結末である事を切に祈る。

 大家さんが合鍵を鍵穴に差し込み、ガチャリと回す。

 俺はドアノブを握りしめ、静かに引いた。


「鏑木ー?」

「紫月ちゃーん?」


 部屋の中から返ってくる声は無い。俺は軽く落胆して俯く。と、ある事に気付く。


「ローファーが、無い……」


 鏑木が通学時に履いているローファーがそこには無く、私服時に履いているのであろう靴だけがそこに並べられていた。

 その瞬間、嫌な予感は疑惑から確信に変わる。

──鏑木は、昨日から家に帰っていない。


「春日野さん。警察を呼んでくれ」

「え……!? じゃあ紫月ちゃんは……?」

「誘拐された、かもしれない」

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