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「即死だったそうだよ……」
警察署から出てきた叔父は、静かにそう告げた。
即死。脳内でその単語を反芻する。即死……死んだ?お母さん、お父さんが。
全く現実味が湧かず、ぽかーんとした表情を浮かべる私に、叔父は続けて言った。
「紫月ちゃん、他に行くところが無いだろ? 今日から叔父さんが君の保護者、という事になったよ」
現実を突きつけるように、叔父さんはその瞳に涙を滲ませる。
……それでも、にわかには信じ難い話であった。
「嫌。叔父さんと一緒には暮らせない。私はお母さん達の所へ帰るの」
「紫月ちゃん!」
その声に、私は身体をビクッと震わせる。
「君の両親……姉さんと柚紀さんは、もう死んだんだよ……! もう、この世にはいないんだ」
叔父さんは肩を震わせ嗚咽を漏らす。やめて。そんな様子を見せられたら、本当にお母さんとお父さんが死んじゃったみたいじゃない。
「叔父さんの嘘つき!」
叔父さんに背を向けると、私は私の家へと向かい走り出す。
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玄関の前に辿り着く。が、様子がおかしい。いつもならあるはずの自動車がガレージに無かった。お父さんが出かけているのかな。そして重要な事だが、家に人の気配がしない。
いつもなら電気は灯り、晩御飯の美味しそうな匂いが漂ってくるのだが。そう思いつつ、私は玄関脇にある鉢植えを持ち上げ、下に隠してある玄関の鍵を取り出す。そしてその鍵を鍵穴に差し込み、ガチャリ、と回した。
「ただいまー!」
灯りのついていない玄関から、同じく灯りのついていない家の中へと大声で帰宅を知らせる。しかし、それに対する応答は無かった。きっと2人とも出かけてるんだ。鍵を棚に置きつつそう考える。
晩御飯は……無いか。もう、お母さんったら。こんな遅くまで出かけるならご飯くらい作っていって欲しいよね。それがダメならメモくらい。
心の中で悪態をつきつつ、自分でご飯を作り始める。私だってもう小学校3年生なんだから、料理くらい自分で出来るもん。
テキパキと……とはいかないが、冷蔵庫にある卵やベーコン、ほうれん草なんかを使って簡単な炒め物を作っていく。ご飯は、多分昨日のご飯の残りが冷凍庫にあるはずだ。
「いただきます」
一人きりで食べるご飯なんていつぶりかな。
……いや、初めてだ。私は多分、生まれてこの方一人でご飯を食べたことなんてない。お父さんがお仕事でいないという事は良くあったが、それでもお母さんはいつでも私と一緒にご飯を食べていた。
給食の時間だって、友達と一緒に食べてるし。
そう思うと、急に寂しくなってきた。でも、明日からはまたお母さんと食べられるよね。きっと朝ごはんだって作ってくれるし。
「……ちょっとお塩入れ過ぎたかな」
簡単に作った炒め物は少し、しょっぱかった。
「あれ……?」
何で泣いてるんだろう、私。ううん、泣く理由なんてない。こんな顔お母さんが見たらきっと馬鹿にして笑うんだ。そう思って強引に涙を拭い取る。
「もうお風呂に入って寝ようかなぁ」
眠気を感じ時計を見ると、短針は既に10と11の中腹あたりを指していた。寝ないと明日、学校なのに。起きれなくてお母さんに怒られちゃう。
私はシャワーだけをさっと浴びると、早々に床に就いた。
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「ん……」
眩しさを感じ、目を覚ます。朝だ。
子供部屋を出て、リビングに向かう。
「おかーさん、今日の朝ごは──」
……いない。お母さんがいない。
ハッとして、ガレージを見に外に出る。
そこにはやはり、車は無かった。
「まだ帰ってきてないんだ……」
落胆する。きっと明日の朝には帰ってきてるだろうと思っていたのに。
朝まで帰ってこれないなんて、どこに行っているんだろう。
まさか、私だけ置いてきぼりで旅行にでも行ってるんじゃないだろうか。
色んな考えが頭を巡る。
「とりあえず、朝ごはんも自分で作ろ……」
学校まで時間も無いので、ガッカリしながらもキッチンへと移動する。
作る、とは言っても朝食なので、用意するのは軽いものだ。
開封済みのシリアルの袋を開け、適当な量を深めの器に注ぎ入れる。同じく開封済みのヨーグルトの蓋を開け、これまた適当な量を小さめの碗に移し、大好きなアプリコットジャムをその上に乗せる。そしてシリアルにかけるための牛乳を用意して終わりだ。
それらをリビングにあるテーブルへと運び、おもむろにテレビを点けながら牛乳をシリアルに回しかける。
『次のニュースです。昨日夕方、〇〇県の一般道路にて、乗用車とトラックが正面衝突し、乗用車に乗っていた夫婦と見られる男女、トラックを運転していた男性の3名が死亡する事故がありました。死亡したのは会社員、酒井柚紀さん(33)とその奥さん緋菜さん(31)、トラック運転手の──』
世界が暗転する錯覚に陥る。片方だけなら同姓同名の他人という事も考えられるが、夫婦。そして、酒井……柚紀。緋菜。どちらも両親の名前だ。
やっぱり……先生が言ってた事。叔父さんが言ってた事。本当の事だったんだ。
──お母さんとお父さんは、死んだんだ。




