2話 約束
やっぱり短いですが、今後も頑張っていきます
「落ち着いたか?」
やや疲れた表情をした真珠に、少し熱めのお茶を渡す。海の世界では何を飲むのかわからないため、家にあった日本茶を淹れたのだが思ったよりウケが良かったのか、おかわりを要求してきた。
「このお茶おいしい。幼いころ一回だけ地上に上がって甘味処行って、まんじゅう食べたことあるの」
「今まんじゅう切らしていてな、一緒に出せたらよかったんだが」
「ううん大丈夫よ」
銀次を信頼しているのか、固くなっていた表情が無くなっており、わずかだが笑みがこぼれている。落ち着いているのを把握した彼は次のステップに踏み込むことにする。
「ツライかもしれないが、君の身に起きている事態について教えてほしい。もしかしたら力になれるかもしれないからな」
「そうよね・・・銀次さん、私が衛兵の言葉から海の国の姫だって知ってるでしょ。国では今、母上が治めているけど権力を増した貴族衆が地位を脅かしているの。衛兵達は姉上が後継者につくと思っているけど、貴族衆は私を立てて実権を握ろうとしてるのよ」
「要はクーデターか。しかし何故君を?」
「これよ」
ペンダントに付けられている真珠が輝き出し、小型の竪琴・ライラに変化した。
「これは慈愛のライラ。選ばれた者だけが奏でることのできる神器よ」
「なるほど、神に選ばれた者として祀り上げ、政治的に利用しようという魂胆か」
「うん・・・。お願い銀次さん、私を彼らから守って!国の姫から普通の女の子になりたい、もう利用されるだけの存在になりたくない・・・」
目から涙を流し必死に訴えかける真珠の姿に、心底少し動揺するも表情には出さず穏やかに接する。
「俺が願いを叶えてやる。そのかわり、今は泣き止んでほしい」
「えっ?」
「女が泣く姿は見たくないんだ、笑ってくれ」
彼の心からの笑顔を見て安心したのか、涙を拭い、今できる最高の笑みを見せる。
「それでいいんだ。しんみりはこれで終いにして、まんじゅう買いに商店街に行こうか」
「うん!」
二人は近くの商店街に向かい、行きつけの和菓子屋に入る。店の主人であるスキンヘッドの中年が奥から出てきた。
「おう銀ちゃん、まさかの彼女連れか?」
「オヤジ冗談はやめてくれ、まだ交際にまで発展していないぞ」
「相変わらず冗談を真に受けて。嬢ちゃん何が欲しいんだ?」
「えっと・・上用まんじゅうありますか?」
「あるぜ、ほらよ」
白くかわいらしいまんじゅうが紙の箱に6つ入っている。
「嬢ちゃんかわいいから半額にしてやるぜ」
「いいの?」
「それに、ここの治安の良さは銀ちゃんのおかげでもあるしな」
「どうして?」
「知らないのか、100人ほどの不良グループを素手で、しかも傷を負わずに壊滅させるほどすんげぇ強いんだぜ」
「そんなに?」
主人によると6年前、とある不良グループが商店街に居座り、窃盗や恐喝、放火までする暴挙を平然とやっていたが、銀次が現れたその日に全員病院送りにされ、彼らは姿を消したという。戦っている様を見ていた住人の一人は、龍が如く強さだったとつぶやいていたそうだ。
「昔の話だ。今は俺無しでも大丈夫さ」
用事を済ませた二人は帰る途中でも住人から挨拶されたり、将棋の誘いがあったりと、銀次の人気ぶりがうかがえる。
「ここはホントに暗かったが、今は明るい。顔を覆っちまうくらいにな」
「あなたが心優しくて強い人だからよ。心の支えがあるから、明るくなるの」
「そうかもな」
商店街を抜けようとしたその時、武器を手にした数十人もの魚人族兵士達が道をふさぐ。銀次の目が普段より鋭くなり、声も普段より低くなる。
「どけ、怪我したくないだろ」
沈黙を貫き兵士達は戦闘体勢をとる。
「そのつもりは無さそうだな。なら・・・」
腰の二刀を抜き、構えをとると真珠を下げる。巻き込まないためだ。
「痛い目にあってもらうぜ」
目にも止まらぬ速さで陣中に突貫すると一閃で四人を血祭りにあげ、さらに背後から迫りくる敵の攻撃をかわし、脇差で突き刺す。彼の白装束が返り血を浴び、真っ赤に染まる姿を見た真珠は恐怖を感じ、言葉はおろか目を瞑り、耳をふさぎ縮こまってしまった。
(怖い・・・普段あんなに優しいのに・・・)
無理もなかった。真珠と銀次、二人は全く違う世界で生まれ、育ったのだから。
「こんなものかよ、殺す気で来いや」
彼女にとって、たった三分が恐ろしく長かった。恐る恐る指の間から様子をうかがうと、映っていたのは転がっている肉人形の海。立っていたのは銀次だけであった。切っ先から流れる鮮血、全く表情の無い顔、彼が噂以上の実力を持っていることはわかったが、あまりにもショッキングだった。
「いや・・・来ないで・・・」
その声に反応したのか、ふと我に帰る銀次。
「すまない、さぞかし恐ろしかったな」
刀を収めると力強く静かに彼女の手を引っ張り、急いで自宅に戻る。
無事に終わり、一息ついている。
「落ち着いて、ないよな」
「だって・・・」
「無理もない、普通なら誰だってそうなる。俺のように戦いに浸っていなければな」
「あなたはいったい、何者なの?」
「俺は表向き、剣術道場の師範。本当は妖魔退治を専門に行う極秘公務員だ。だが、亜人と戦うのは俺でも遠慮したいな」
「えっ殺したんじゃ・・・」
「全員急所は外した。奴らは訓練されてるから多少じゃ死なんさ」
あれだけ暴れておいて死亡者ゼロという技術に驚くばかりだった。
「これからはさっき以上のこともある。君の選択はそういうことだ、後悔はないか?」
かなり不安げな真珠を優しく抱きしめる。
「まだ俺の気持ちを伝えてなかったな。君には幸せになってほしいと思ってる。もう、誰も不幸にはさせない・・・」
うって変わって哀愁を漂わせるが、そのなかには力強い決意も感じられた。
「あなたを信じます」
真珠は銀次の頬にキスをすると、クールな彼も今回ばかりは赤面になった。女には全く慣れていないのである。
女心は難しいですね、苦手です