SS08 「名探偵、また登場」
逃亡者とは追われる存在だ。肉体的にも精神的にも追われ、追い詰められる。
俺は1年前までごく普通の会社員だった。収入は低いが、携帯通信機器に使われる部品の開発に関わる立場にあった。俺は金を生まないが、その部品は金を生む。そして、肩書きを利用して詐欺を行い、終われる身になった。最初は些細なミスの埋め合わせのためについた嘘がドンドンと膨らみ、空に浮かんだ。膨らみ続ける嘘に自分自身が麻痺した瞬間、それは破裂し、俺は地に落ちた。おまけに重要な開発情報をライバル企業に売ってしまい、産業スパイとなってしまった。このため、俺は裏社会の一部を怒らせることになった。
まさか、我が社があんな所と繋がりがあるとは。俺の方が騙された気分だ。
俺は今、ある映画会社が作った遊園地にいる。人の少ない場所に逃げることも試したが、逆に人ごみにまぎれたほうが、自分が誰かを忘れることができる。遊園地ではある映画のキャンペーンをしていた。元スパイが組織に追われる話らしい。・・・・・・見たくない映画だ。
これからどうしようか。俺は考えた。いっそのこと自首したほうがいいのかもしれない。捕まれば刑務所だが、裏社会の奴らに捕まれば命がない。それに逃げるのにも疲れた。もう楽になってしまいたい・・・・・・だが、それができないから今の状態なのだ。
その時、声が響いた。
「見つけたぞ! このスパイめ!」
長身の男が立っていた。理性的で自信に満ちた顔立ち、引き締まった肉体。そして時代がかったチェック柄の外套と鹿撃ち帽の服装。傍らにはえらく可愛いメイド服の少女が立っている。
「な、なんだお前は」
俺の問いに男ははチッチッチッと指を振った。
「私の名前は山道・螺紋。ズバリ、日本一の名探偵だ」
もうだめだ・・・・・・俺は膝をついた。・・・・・・これで良かったんだ。
「あの・・・先生・・・本当にこの人ですか?」
傍らにいたメイド服の美少女・・・・・・いや、助手の杏少年は手元の写真を見ながら言った。
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「欲しかったな、クマタコぷーちゃん」
去っていくパトカーを見つめ、探偵は呟いた。