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後輩シリーズ

かむばっく後輩

作者: ニコ

四年前に書きました! 友人に「折角あるんだから投下しろよ」と言われて出しました! うわぁ!

 俺達は両親に捨てられた。

 何か理由があったんだろうとか、そんな事を考える事も馬鹿らしくなるぐらい唐突に。いきなり、忽然と。両親は家から消えた。

 幸い俺と奈緒は親戚の家に居られる事になったけど、姉とは離れ離れになってしまった。


「ごめんね、二人とも、まだこんな時期なのに……ごめんね」


 いつにないしおらしい表情を見せたお姉ちゃんを覚えている。右手はまだ何も分かっていない様子の小さな奈緒と繋ぎ、左手は俺と繋いでいた。

 姉は高校生で、どういう風の吹き回しか両親は彼女の卒業まで寮暮らしするだけの金は残していた。


「おねーちゃん! 俺のぎむきょういく、あと五年で終わるんだよ! そしたら俺、ちゃんと金かせぐから! 待っててよ! 俺、またちゃんと皆で暮らせて、おとうさんとおかあさんも帰ってこれるようにするから!」


 子供の意見だった。純粋で、真剣で、ひたむきで、そして幼稚だった。

 出来る訳がないだろう。お姉ちゃんの卒業までの時間、タイムリミットは三年だったのだ。それにもし働けたとしても、自分だけの稼ぎで人間三人暮らしていけるはずがない。どうしようもなかった。

 お姉ちゃんは、やっぱりらしくない寂しい笑顔だった。


「駄目、ちゃんと高校いきなさい。すぐ働き出すと、今のあなたじゃ仕方ない仕方ないって思いながら働く事になっちゃう。そんなの、許しません」


 そんな事出来るわけないと、言外に否定されたと理解できた。

 手を振って、隣県の学生寮へと入寮する為にお姉ちゃんは電車に乗った。改札の向こうで、ずっと手を振っていた。

 流れる涙を、奈緒が拭ってくれた。


***


 懐かしい、夢だった。

 思い出したのは今日学校で進路相談があったからかもしれない。古臭い傷だ、恥ずかしい。

 あの後、バイトで忙しかった姉とはほとんど手紙のやり取りだけになってしまっていた。彼女の寮は携帯電話の持ち込みも禁止されていたのだ。

 そしてその後の就職先は海外。外資系の何からしいがよくは知らない。どうやらかなり活躍しているようではあるが、やはり海を隔てているのが壁を作るのか連絡も減ってしまった。

 彼女は覚えているのだろうか、いつか一緒に暮らせるようになろうと言ったあの日の事を。


「……お姉ちゃん」


「何?」


 目の前に女が居た。


「うえぇ!?」


「朝だよ、朝だよたっくん。起きようよ。大丈夫? 立てる? 一人で大丈夫? ねぇ、どうして黙ってるの? 本当に大丈夫?」


「だ、大丈夫です、大丈夫ですからっ!」


 朝日が眩しい、どうやら日の出の光らしい。

 ベッドの横から覗き込んでいたのは、綺麗な女の人だった。髪は流している、化粧もしていない。そんな家でリラックスしているような姿でも綺麗だと分かるぐらいに目鼻立ちが整っている。服は、子供っぽいウサギ柄のピンクパジャマだった。

 これは、お姉ちゃんの、服……? あぁそうだ、寮に持っていけない分は俺達がこの家に置いておいたんだ。どうせすぐに帰ってくるよ、なんて自分を励ます為に。そう思えば、妙にかび臭いぞこの服。もしかして着たのか、七年間納屋にしまってあったあれを、洗濯せずに着たのか。

 いや、というか、そもそも……


「……おねえ、ちゃん?」


 上手く舌が回らない。でもそんなたどたどしい言葉に、目の前の女性は笑った。あぁ、目が覚めてきた。七年も間が空いてしまったけど、この顔は、見間違えようもなく――


「日本への転勤が決まったの……これからは、一緒だよ」


 これもまた夢じゃないかと、そう思った。でも布団の上から抱き締めてくれるお姉ちゃんの身体の温かさがこれ以上なく現実的で。

 あぁ、お姉ちゃんが帰ってきた。お姉ちゃんが帰ってきた!


***


一日後。


「……死ぬ」


 さぁ、前置きは終了だ。さぁ、俺の人生があんな甘ったるい雰囲気に包まれるわけないじゃないか。あそこまではプロローグだ、そうだ、お待たせしたないつもの喧騒!


「死ぬって何がですか先輩? 昨日はお姉さんが帰ってきたってすごく喜んでたではないですか」


 後ろ行くは葉山ちゃん。つまりは下校時間だ。ちなみにこの会話だけ聞くと彼女も丸くなったかと思えるのだが、実は自分で手錠を締めて後ろに回すセルフSMをやっている、人目憚らず。なんというか、救えねぇ。


「大丈夫ですよ、誰かに見られたら先輩にされたって言いますから。いいですね、これ! 女を守る嘘から始まるラブストーリーですよ!」


「しらねぇ、勝手にやってろ」


「もーぅ、自分で手首の関節外す所が快感ですのにー」


それはこの前「あふん」とか言ってたから察しただから黙れ。 


「目隠しもしたいんですけど、そうすると歩けませんし……誘導していただいて構いませんか?」


「構うよ。まずそのご丁寧に名前の書かれた首輪を離せよ」


「あとはギャグでも噛ませて頂くとかんぺ「布団が吹っ飛んだぁ!」


 ギャグをかましてとりあえず大人しくさせる。あぶねぇ、良い子は真似するしない以前に耳を塞げ。


「さて、前振りはここまでにしておいて」


「ねぇ俺、前振りだけで心折れそうなんだけど? もう逃げていいかな? いいよね?」


 そうなると放置プレイと言って喜ぶだけだが――まぁ、閑話休題。

 今は家の事を心配するべきだ。


「ところで先輩、死ぬとは一体どういう事でしょう? 先輩の死の危機は私が肩代わりして差し上げたいと常々思っているのですが」


「性癖なければ格好いい台詞だよね、それ……いや、死ぬは大袈裟かもしれないんだけどさ、久々に帰ってきたお姉ちゃんが過保護すぎてやばい」


「はぁ」


 曖昧に頷いてみせる葉山だが、アレは実際に見なければ分からないだろう。過保護という言葉のさらに上の定義を作りたい気分にさせてくれるアレは……もう、やばい。


「で、葉山ちゃん。そのお姉ちゃんから今日は君を呼ぶようにって言われてるんだけど」


「は、はわぁ!? 何ですか、家族ぐるみで責めですか!? 視られちゃうんですか、あられもない姿を視られてあぁしかし両手足は縛られて隠す事もできないのだった……ッ!」


「途中でトリップしてる所悪いんだけど、なんか話があるらしくて。よく家に来る女の子が居るって言っちゃったから、その関係かもしれない」


「そうだとすれば私もいかなくてはいけない」


 急に隣に並んだのは八雲京だった。こいつもこいつで神出鬼没である、忍者じゃないのに。

 ちなみに、今の彼女は勿論制服。こうして同じ服着て並ぶと、葉山との対比が凄い。背とか、胸とか、本当にでかいんだよな、こいつ。


「まぁ唐突に現れた事は置いといて、八雲京ちゃんはあんまり俺の家来ないだろ? 関係なくねぇ?」


「その認識は甘いと言わざるを得ない、先輩。お姉さんの認識として、葉山は彼女と思われているやも知れない。ならば、ややこしい話題を切り出されないように葉山の友達として私も連れて行くべきでは?」


「あー……そんな気はしてたんだけど、やっぱそうかなぁ」


 八雲京は第一印象があれだったからかなり駄目な奴にも思えるけど、実際にはそこまでぶっ飛んでいなかったりする。葉山のMがライフワークなら、八雲京のSは趣味って感じ。


「ふ、ふふ、ふふふふふ。長い間離れていた姉の前で身悶えするような会話をされて羞恥プレイを受ける先輩……」


「おい、聞こえてんぞ」


 まぁ、タチが悪いことには変わりないんだけど。


***


「ただいまー」「お邪魔しますー」「ごわすー」


 結局、二人とも連れてくる事になった。ちなみに最後の台詞は八雲京ちゃん、しかも抑揚なかった。新手のボケだ。

 そして――どうやら玄関を開ける前からそこに待機していた様子の姉。きっちりと化粧をして、スーツを着込んで、廊下で正座している。ちなみに、いつもこれ。


「はぁーん! お帰りなさいたっくんどうぞ後輩さんたち! ねぇ、お茶飲む? 色々揃えてみたんだけどねぇたっくんはどんなのが」


「あ、いや、いいから。先に居間行っといて」


「あ、じゃあお風呂はいるお風呂? ずっと学校で疲れてるでしょねーぇーねぇー!」


「いや、お客さん来てるのにお風呂はないでしょ」


「じゃ、どうどう? 学校で何か変わった事なかった? 変わってない事は? ねぇねぇ何があったのー?」


「あぁ、うん。その辺りは夕食の時にね」


 そのままなおも喋り続ける姉。二人を先に上げて自分も玄関に上がるが、お姉ちゃんが全力で足にしがみついてきた。そのままずりずり居間へ。


「とまぁ、ここまではわりとまともなんだけど……」


「先輩、私が言うのもなんだがまともの定義がおかしくなってきてる」


 自分を客観視できる八雲京さんのご意見だった。だがあえて言おう、お前らのせいだ。

 とりあえず、奈緒は友達の家に遊び(という名の避難)に行っているらしく今は居ない。とりあえず我が家自慢のダイニングキッチンな二人を通す。


「ねぇねぇたっくん、お茶は私にお任せでいいの?」


「あ、うん。お願い……します」


 そんな訳でお姉ちゃんがキッチンへ。その隙に、三人で会議の体制をとる。


「あの先輩、あの人そこまでおかしくないですよね? 夜になると女王様に覚醒して血に飢えるんですか?」


「生活に支障をきたすほどではないと見受けるが。夜になると絶対服従の雌犬にでもなるのか?」


「お前ら自分と逆の性癖を否定すれば自分が肯定される訳じゃねーんだぞ」


 人間の悲しいサガだった。自分の対極である相手を否定しても自分が正しいとは限らないのである。つまり俺はノーマルだ。


「まぁ、なんだ。とりあえず例を挙げて話すと――」


***


 お風呂に入っている時。

『あ、なに私に言わないでお風呂入ってるの? 駄目だよ、ちゃんとまだ湯の温度調整してないんだからたっくんのお肌が大変な事になったらどうするの! え? なっちゃんが先に……って駄目だよちゃんとお湯変えないと汚れちゃうでしょもうなっちゃんもなっちゃんで「自分で洗う」なんてもう……! え、たっくんも自分で……? 仕方ないなぁ、じゃあ隣で教えてあげる』


 夕飯の時。

『あ、ちょっと待ってたっくんそれまだ熱いよ! ふーふーしてあげるからって駄目食べちゃ駄目! もう、たっくんはいつまでも危なっかしいよ! 私が食べさせてあげるからちょっと待ってね! 先に奈緒ちゃんのお食事だから! あ、その間に今日なにがあったか教えて? 大丈夫、どんな事でもお姉ちゃんに任せて!』


 夜、布団に入った時。

『ねぇたっくん大丈夫? 眠れる? いやでも、でもでも、いつ眠れなくなるかわからないし! 眠るまでおてて握ってよ? 歌は欲しい? あ、睡眠薬も持ってきてるけど使わない方がいいからね! あ、おトイレは大丈夫? おしめと尿瓶持ってきたよ! ……え、でも万が一って事もあるしぃ。あ、でも布団汚しても大丈夫だから! ちゃんとおねえちゃんが洗ってあげるから、恥ずかしくないよ!』


 朝、起きた時。

『おはよう! え? うん、寝てないよ。いつたっくんとなっちゃんに何かあるかなと思うと眠れなくて……あ、お昼も何かあったら呼んでね、大丈夫だから! おトイレは大丈夫? 今なっちゃんが入ってるから、私が何とかするよ? 大丈夫? そう、それじゃご飯だね! あ、学校の用意は全部済ませておいたから! んじゃ、口開けて! なっちゃん帰ってくるまでに歯磨きしよ!』


***


「――と言った感じなんだ」


「凄まじきチャイルドプレイですね」


「あまりノーマルではない言葉を使わないでほしいかな」


 あと、いくら幼児扱いでもこれはないだろう。なんといっていいか分からないけれど、とりあえず生活に支障をきたすことだけは確かだ。


「しかし先輩、もしかするとお姉さんもといあの女は先輩がチャイルドプレイの羞恥に震える姿こそを糧とし生きているのかもしれない……!」


「さっきからボケに回るかツッコミをするかハッキリしようよ君は」


 黙っていると思えば八雲京ちゃんはこれだし。そういえば生活に支障をきたしていると言えばこの二人もだよ畜生め。


「しかし先輩の危機となれば私達の使命である」


「皆の盾たる守護者協会、あなたの平穏守ります!」


 しかし、どうやら協力はしてくれるようだ。なんかキャッチコピーみたいなの出してきたし。なんかあの文言を以前守護者協会の公式HPで見た気がするし。しかし世界を守る組織がYH○O検索で出るとかどうなんだ。秘密だったりとかしないのか。

 いや、まぁ、そんな事はいいんだ。問題は……


「どうやってお姉ちゃんを止めるんだ……? 二人とも強いのは知ってるけどさ、今度は暴力でどうにかなる問題じゃないよ?」


 例えば侵略宇宙人が来たとか血に飢えた悪魔が地上に現れたとかなら全面的にお任せしてしまう訳だが、この二人武力以外はどうなのだろう? っていうかバレンタインのバレちゃんをどうにかできなかった時点でわりとお察しくださいな性能なのかなやっぱり。

 俺の視線の訝しげな事に気付いたのか、二人は同時にすっげぇいい笑顔でサムズアップ――言葉を返す。


「殺る!」


「洗脳する」


 お前ら人の姉をなんだと思ってるんだ。

 しかし目を見れば、こいつら全然冗談で言ってねぇ。真面目にこの結論を導き出してやがるどうなっているんだ忍者と魔法使い。目の前に立ち塞がる問題は全てジェノサイドするのが守護者協会流だとでも言うのか。


「皆ー、お茶はいったよー」


「お姉ちゃん今来ちゃ駄目ー!」


 制止する間もなく――にこやかにお盆に乗ったお茶を運ぶお姉ちゃんに向かって、二人はいきなり飛びかかった! やべぇ!


「今こそ東方の神秘と西洋の魔術が手を組むとき! 唸れ疾風、舞えよ鉄拳!」


「目の前の全てを砕く。あちょー」


「くっ、こいつら謎の詠唱してるくせに超早ぇ!」


 あと怪鳥音やる気ねぇ!

 ご存じ、俺は魔王がどうたら以外はまったく普通の人間である。あいつらがお姉ちゃんに肉薄する間に、振り向くのとツッコミをするので精いっぱいだった。なんという事だ……実の姉が命の危機に晒されているというのに、俺は変な事を口走る事しか出来ないというのか!

 悲劇を覚悟する俺だが――しかし、突然に姉の姿が掻き消える。


「わぷっ!」「ぬ……?」


 そしてそこに居たのは、頭からお茶を被った二人だけだった。あとお盆とコップ。

 理解が追い付かない、一体どうなったんだ。葉山ちゃんと八雲京ちゃんも目を丸くしていたが、次第に状況を把握していったようで。


「きゃああああああ! 先輩、見ないでくださいっ」


「ぎゃああああああ! 大股開いてこっち来んな!?」


 葉山ちゃんはこんな時も平常運転だった。何やら自分の身体が今どうなっているか滔々と語っているようだがあーあー聞こえなーいの構えでとりあえず情報シャットダウン。そして逃げる。転んでもただでは起きないどころか、転びながら迫ってくる恐ろしい女だ、葉山ちゃん……。

 そして対称に、部屋から出ていく八雲京ちゃん。


「先輩、お風呂借りる……」


「え、あ、うん。やっぱり打たれ弱いんだ……」


 サディストの弱点であった。なんかもう超テンション下がってる。

 しかしこれは一体どういう事なんだ……? 飽きたのか「忍法早着替えー」とか言いながら器用に濡れた服から衣擦れの音をさせている葉山ちゃんはどうでもいいとしてってそれどうやってんだすげーな。まったく意味はないけどスゲーな。

 いや、うん。おいといて、お姉ちゃんは一体どこへ……?


「はーっはっはっはっはっは!」


 とりあえず衣擦れの音にもあーあー聞こえなーいで対抗していたら、それを貫くほどの高笑いが聞こえてきた。

 で、窓の外に居たのはなんかむっちゃ露出の多い服の美人だった。露出が多いというか、ビキニっぽい鉄の鎧的なものとか着けてるぐらい? それにマントとか、あとはなんか髑髏っぽいのに角を付けた被り物。とりあえず「悪だー」って感じの美人さん。いや、美人というか……


「……お姉ちゃん?」


「お姉ちゃんではない! 私はネクロビューティだ!」


「あ、はい。ネクロビューティさん」


「……ん、あ、いや、やっぱりネクロビューティお姉ちゃんだ!」


「あ、はい。ネクロビューティお姉ちゃん」


 お姉ちゃんであった。何やってんだこの人。

 その時、何故か俺の服に着替えている(もうここについては突っつく気力もない)葉山ちゃんが叫ぶ。


「あぁー! あれは守護者協会の魔法少女達と日夜戦いを続けるダークノワールXの大幹部が一人、ネクロビューティ!」


「今度は随分と迂遠だな……!」


 魔法少女とかもいるんだ……みたいないつもの反応以前に自分の姉がそんなアホな世界に居る事が悲しいわ。いや、こういうのも大事だとは最近思っているがこれ敵の方じゃん。なんで敵に居るんだよお姉ちゃん。


「あの、ネクロビューティお姉ちゃん……なんで貴方はこんな事を?」


「ふっ、愚問だな。我らダークノワールXの目的は蒐集せしオドを無限獄のタルタロスゲートに結集、その奥に居る超魔界王ギガデスゴッデス様を復活させ無限魔力により世界を変えることだと知っているだろう?」


 知らねーよ。あと理解出来ねーよ。


「私の目的は、無限魔力によりたっくんを我が手中に収める事……!」


 世界征服風味に言わないでくださいお姉ちゃん。

 そうか……長い間離れてたもんなぁ。俺も会いたかったけど、お姉ちゃんは思い募ってこんな事までしちゃったんだなぁ……二重に泣けてくる。


「あ、ちなみに葉山ちゃん。超魔界王ギガデスゴッデスと俺の魔王って関係あるの?」


「そうですね……声優推ししているアニメのキャラとその声優ぐらいの関係でしょうか?」


 まったくもってよく分からない例えだった。

 まぁそれは置いといて、お姉ちゃんを野放しにすれば結局俺が無事でも地球が火の海に包まれる可能性があるのか。その辺りはまぁなんだ、頑張れ魔法少女諸君。


「で、なんで出てきたんですかネクロビューティお姉ちゃん」


「え、あ、うん。なんかね、殺されそうになったからつい勢いで」


 素に戻らないでくださいお姉ちゃん。

 一通り話し終わった所で、お姉ちゃんは窓からよっこいしょと部屋の中に入った。そして葉山ちゃんと対峙する。


「ふっ、どうだ葉山とやら。私の仲間になるのならたっくんの半分をくれてやってもいいぞ?」


 どこまでも世界征服扱いの俺だった。


「は、半分ですって! 半分も他人に渡すとは……貴方、愛がありませんね!」


 あぁ、うん。真っ当と言えば真っ当な意見だ。しかしお姉ちゃんは腕を組んでやたら偉そうに葉山を見ている。しかしお腹すべすべだなぁ、すげぇプロポーション保ってるなぁお姉ちゃん。


「何を言うんだこの忍者風情がいいか半分というのは身体を他人の好きにさせる代わりに心は常に私のものであるという事だたっくんも男の子だからないつか私の手を離れて家庭を築くだろうしかしその時になってもやはりたっくんはお姉ちゃんからは離れられないのだだってねだってねたっくんはもう本当に甘えん坊さんで本当に私の事を考えてくれてるんだよそうだよ身体は離れても心はずっと一緒だったんだよだってねだってね思春期の男の子がさ遠く離れたお姉ちゃんに6576文字も手紙一通に書いてくれるとか心が籠もってるよねなっちゃんはね女の子だから心を男の人に盗られるのは仕方ないのだからたっくんはねずっと私のモノなんだよだからずっと私のモノでもたっくんがなんにも不自由しないよう私はたっくんの為に居るんだねぇたっくん!」


「え、あ、はい」


 早口すぎて何言ってるか全然分からなかった……でも葉山ちゃんがドン引きしてる……一体何を言ったんだお姉ちゃん……。


「先輩……こいつ、狂ってます!」


「お、お前が言うなよ」


 思わず言った感じの言葉に思わず返してしまった思わずコンボ。


「と、とりあえず! 先輩は渡しません! 私は先輩のモノです!」


「あ、君はたっくんのモノ、たっくんは私のモノ、円満解決じゃない?」


「あ、そっかぁ」


 円満解決してしまった。狂ってるとか言った次の瞬間に。いっつもいっつも展開早いよお前ら。最近たまに口をはさむのを初めから諦める事がある。


「そういう訳にはいかない。先輩は私のモノ」


 しかしそれを阻止するのがやっぱりというか八雲京ちゃんだった。そしてやっぱりというか俺の服を着ていた。

 葉山ちゃんとお姉ちゃんが戦闘態勢になり、それに真っ向から向かうように腰を落とす八雲京ちゃん。おい魔法どこ行った。


「ふっふっふ、ついに私達が争う時が来たようですねってあれこれ別に敵対しなくてよくないですか私」


 不敵に笑いながらすすすと何気なく端によって三つ巴の体勢になる葉山ちゃん。初めから気づけ。


「はっはっは。この私に逆らおうとは愚か者め。手下を連れてきていないのでちょっと不安だが相手をしてやろう」


 何故か弱みを見せるお姉ちゃん。帰ってください。


「ふ、ふふふ……ふふふふふ……?」


 特に口上がないのか手持無沙汰に笑っている八雲京ちゃん。無理しなくていいよ。


「おらー! ちょっと遅れたけど恵方巻きを食べる恵方をちゃんと確認して無言でもぐもぐする全国の良い子の為に馳せ参じた節分ちゃって痛っ! あ痛っ! ご、ごめんなさい痛いです痛い!」


 なんか鬼が来たので豆投げて帰ってもらった。時期的にも展開的にもあまりにも遅すぎる登場である。終盤になって来られても、その、困る。

 ちなみにまぁここから激闘が始まる訳だが、俺はやっぱり気絶しちゃうのでした。


***


「お兄ちゃん……今日から、寝るのも一緒だね……」


 奈緒の声がねっとりと絡みつく蜘蛛の糸のような響きを帯びているが、これは部屋が狭くなる憂いのせいであろうか。なんとかしてあげたいが、何ともならないのが現状だ。

 現在、俺と奈緒はあの家からほど近い所にあるアパートの一室にいる。どうやら守護者協会の息がかかった場所のようで、家賃その他諸々はあちらが受け持ってくれるという事だ。有難すぎる。

 さて何でそんな事になったのかというと、ぶっちゃけ家が壊れたからだ。何があったのかは知らないが、葉山ちゃん達は全治二週間ぐらいのわりと酷い怪我を負っている。


「ねぇ、お兄ちゃん……私幸せだよ……あの女達も入院しているし、鬱陶しいお姉ちゃんもいないもの……私達二人のお城よ、ここは。うふふふふ」


 相変わらず、奈緒はタガが外れたように笑い踊り気丈に振る舞っている。くぅ、俺がもっと経済力に満ち満ちていればこんな辛い目にあわさずに済んだのに……!

 あの後、お姉ちゃんは日本を去った。どうやら此度の不祥事のせいでまた海外へと飛ばされるらしい。守護者協会的にはコロコロ宿敵が変わられても面倒くさいらしいが俺の知った事ではない。というかあのお姉ちゃんはホント一体なんだったんだ。

 まぁ、とりあえずは平和なんだ。平和に生きよう、この二週間を……そう思った時、不意に震える携帯。何の疑問も持たず、あぁ何の疑問も持たずに開いたさ。

 お姉ちゃんからであった。


『たっくん! 海外での仕事だけど今度は韓国でのお仕事なんだ! 近いし、飛行機代も安いし、たまには帰るね! 具体的には、一か月に一回以上!』


  あぁ、お姉ちゃんが帰ってくる。お姉ちゃんが帰ってくる!

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