獄炎龍 -インフェルノ・ドラゴン-
吹雪が、炎焔の渦が辺り一帯を包み、空間を洗浄するように地面を、空中をなでていく。
それらに触れたインフェルノリザードは、悲鳴を上げる余裕もなく凍り、そのまま炎焔の渦によって粉砕された。
また一瞬、ここが火山であることを忘れていた。
アンセルとリンセルの放った超高威力の『魔能力』は、見事に敵を全滅。
…しかし、そこで二人は膝を折る。
慌てて駆け寄ると、二人は苦しそうにしながらも、起き上がろうとしていた。
「…無理するな。」
「ラン君…私…がんばりましたよ?」
「…ふふ…、次は、ラン君が私たちを助ける番だね…。」
苦しそうに二人が喘ぐ。
特にリンセルは、行動すべてが弱々しい。
「…大丈夫なのか!?」
「…えへへ、ちょっと疲れただけ。」
と、俺にしがみつくリンセル。
後ろで、いつの間にか近づいていたガイロウがアンセルを抱き上げた。
「ひっ…!? …ガイロウさん…。」
男の感触に一瞬体を痙攣させるが、アンセルはガイロウの姿を認識すると何も言わなくなった。
なに、ガイロウってそんなに安心できるの?
顔は怖いのに。
「…疲れてんなら無理すんな。…ランが悲しむ。」
護衛、さすがである。
ガイロウが教会に向かうのをみて、俺もリンセルを抱き上げ、教会に向かった。
しかし…この胸のざわめきは何だ?
…何に、俺の感覚は…反応しているんだ?
さっきから、妙に身体が落ち着かないのだ。
「ラン君も、何か感じる?」
「…ああ。」
リンセルが俺の腕の中、俺の首に手を回して囁く。
その言葉に頷く。
…しかし、リンセル達をこれ以上動かす訳にはいかないだろう。
そのときだった。
「GURUAAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!!!!!」
地面がとどろき、何かのうなり声が、した。
インフェルノリザードなんて、比べものにならないほどの威圧。
火山の火口から、巨大な、生物が出現した。
「…獄炎龍?」
ガイロウが、信じられないものを見るような目で、ソレを見つめた。
赤い、火が吹き出すかのような身体、龍鱗。
深紅の顎。
青い、目。
「ラン君…私たちをおいて、逃げて。」
「んなこと出来るか!」
リンセルが鬼気迫る顔で俺から離れようとする。
しかし、弱々しいためもちろん、離れることはなかった。
彼女は『魔能力』使用時、魔力よりも体力を多く消費するようだ。
「あれに勝てる訳ない。…あれは伝説級の魔物よ…!」
「…まず、その基準がわからないんだが。」
…授業聞いてた? とあきれられた。
基本中の基本なのに、と叱られた。
ごめん。聞いてない。
「魔物にはその希少度、強さによってランク分けされていて。下から下級魔獣、上級魔獣、深淵級魔獣、伝説級魔獣、神羅級魔獣って決められているの! 龍は大体、深淵級よりも上のランクなんだから!」
深淵級の魔物一つで、カエシウス聖王国は【聖天馬騎士団】を出動させるくらいなの、とリンセルは俺に説明する。
【聖天馬騎士団】というのは、いわゆる軍の精鋭部隊の類だという。
はなして、とリンセルは俺に対して懇願した。
「私は元々、捨てられた命。…ラン君、幸せになってね。」
「その命を俺が拾ったんだよ! …失ってたまるか…!」
何のためにここまで来たんだ。
何のために、俺は守るって決めたんだ。
…リンセル達を救うためだろうが。
「んっ…。」
彼女の顔に唇を落とす。
…わずかな温もりと、甘い感触。
唇をはなして、リンセルを駆け寄ってきたギョウアンに任せる。
「…リンセルを頼むよ。」
「…あれと戦うつもりですか?」
ギョウアンが空を仰いだ。
火口付近からでてきたのだ、上を向かないと龍の姿は確認できない。
一つだけマシだと思ったのは、翼を持っていないことだろうか。
フライドではない俺は、空中戦闘は出来ないから。
「ああ、そのとおりだ。…リンセル。」
リンセルは、俺を見て、涙を流していた。
…その涙は、どの感情によるものか。
俺は知らない。
ただし、『超絶能力開花』の発動条件がそろったのは感じられた。
「これ、持っていって。…さっき、魔力いっぱい使っちゃったでしょう?」
彼女の手を握る。
魔力が、【火】属性の魔力が、暖かい感触とともに身体に浸透していった。
…あれ?
…俺は、一時的に【火】属性も使えるようになってしまったのか?
「ううん。属性は、一般的には1つの属性を極めるの。…本当は、全部使えるんだよ。」
こんな時も解説をどうもありがとう。
「勝ってね。…生きて、帰ってきて。」
「愛してるよ、リンセル。」
「GURUAAAAAAAAAaaaaaaaaaaa!!!!!」
再度、獄炎龍が吼えた。
…時間はないようだ。
「…さて…獄炎龍さんとレイカー家当主はどっちが強いかね。」
そんなことを考えながら、さっき魔力とともに流れてきた、【火】属性の魔法知識を頼りに、魔法を唱える。
「【火】属性上級近距離創造魔法、《焔迦剣》。」
豪ッ! と炎焔の剣が生み出される。
それを構え、俺は獄炎龍を見つめる。
勝てそうにはないが、やった方がいいだろう。
やったら成功する可能性は50パーセント。しかしやらなければ成功する可能性は0パーセントだ。
龍が、俺を見つめる。
その目を離さず、睨み返す。
…1パーセントでも可能性があれば、俺はやるしかないんだよ。
龍だー!
男のロマンだー!
ってことで、お楽しみください。




