一年後
『セリシト魔法王国』、王都サウザンドライオの闘技場にて。
「ランー。そろそろいこっか?」
「おうリン。…本当にありがとうな。」
俺、紀伊嵐こと、ラン・ロキアスは隣でタオルを持っている知勉族の少女、リンナアイデル・パン・リーフ…通称リンに礼を言った。
なぜか。それは彼女が俺の命を救ってくれたからだ。
「…それにしても、ウェイカーって呼ばれても不自然じゃなくなってきたね?」
本来、醒眼族というのは筋肉が少なからずついているらしい。
その特殊能力、『アッパー』故。
俺は、1年前に死んだ。
そして、この世界にもう一度、生を受けたのだ。
「本当にありがとう。…リンのおかげだ。」
これは事実だ。
リンがいなかったら、俺は死んでいただろう。
転生してきた意味がなくなっていただろう。
「…もう! …明後日から学園生活だよ? 【クレアシモニー学園】に。」
そう…俺はこの1年間、リンにこの世界のこと。
この世界での魔法の勉学を教えてもらっていた。
ほぼ居候…状態にも関わらず、リンは…。
でも、そのおかげで俺は今、訓練に訓練を積み重ねて強くなったと思う。
前の世界では、喧嘩もしたことがあったから、そこに魔法というものを取り入れるだけだ。
「そういえば、【クレアシモニー学園】のこと知らないけど…。」
そういうと、リンは笑顔で教えてくれた。
「正式名称は【ポラリス国立クレアシモニー魔法能力学園】。魔法について勉強する場所で、17歳から。枢軸国3国から毎年、30ずつ推薦されて入るの。ラン君は、ちゃんと闘技場で成績を上げたからね。」
枢軸国、それはこのアルカイダスで「セリシト魔法王国」「カエシウス聖王国」「オウラン帝国」の三つのことらしい。
ほお、俺はここで訓練をひたすら繰り返したからか。
「…っていうのもあるけど、半分くらいは私の推薦かな?」
はいリンのおかげでしたー。
この子、見た目にしては恐ろしいほどの権力持ち。
なんてたって、曾曾祖父が大賢者。
つまり、この国の実質王だ。
半年前くらいに、リンに連れられて大賢者様のところに行ったけど。
どうってことはありませんでした。
ふつうのお爺さんでした。
…やってることはえげつないけど。
「よし。今日は早めに寝よう。」
「…今から寝ようとしてるでしょ?」
…ぐ、感づかれたか。
「今日は疲れたし、明日からあっちの寮で生活だろう?」
「うん、そうだけど? …ラン…許可なしに女の子の部屋、夜這いに行っちゃダメだよ?」
「いかねーよ!」
…とまあ、微妙な関係ながら俺とリンは結構は入り込んだ冗談まで言えるようになったわけで。
いや、つきあってませんよ!?
「ほんとおに大丈夫?」
「大丈夫だって。」
ほんと「お」って。
俺は信用ないのか?
「ううん、むしろランには性欲がないのかと思うくらい。」
「可愛いお嬢が性欲言うなて。」
まあ、エリシュは自由で温厚ってきいたし。
あ、リンが可愛いっていわれて気分をよくした。
「ふふーん♪ …そろそろ戻る?」
「ああ、そうしようかな。」
…しかし、思った以上に邪魔がいるぞ?
「…うぐ。」
リンが俺の陰に隠れる。
最近、闘技場で暴れてると噂の…。
「よぉ、ウェイカーの。」
「…何の用だ、ゼイル。」
なんて言えばいいのか。
この人は、エリシュ…なんだが。
リンに気があるらしい。
「金でも掴ませて、【学園】への切符を手に入れたか?」
「…俺が元無一文なの、知っているだろう…。」
そう…この世界で一番驚いたのが、通貨だ。
通貨自体はイデアという枢軸国共通通貨なのだが…。
数え方が日本円と一緒。
わお。
「あれ、ゼイルは落ちたのか?」
「…そんなことは関係ねぇんだよ! 俺はお前が入学できるのが気に食わねぇんだよ!」
あ、落ちたんですねー。
リンが何か言いたそうに俺をつついたが、無視した。
「なら、ここで決着をつけるか?」
「俺が勝ったら何かくれんのか?」
質問を質問で返された。
うーん。
「俺が勝利したら、これから一切俺と関わるな。」
「なら、俺が勝ったら、お前の入学を取り消せ。」
…だろうな。
ていうか、自己中にも程があるだろこいつ。
顔が整っていることで知られているエリシュ…なのに、顔が少々みにく…個性的なのもどうかと思うぞ。
「ちょっとそれは…!」
「止めとけリン。…勝てるさ。」
ゼイルの属性は【地】。
何とかなるだろう。
魔法は初歩的なものしか使えない、といわれているウェイカーだけど…リンのお陰でなかなかに使えるし。
「ルールは、【犠牲の腕輪】が破壊されたとき。ギブアップは認める。」
今回、特別に決闘の審判を闘技場の主であるアレルさんに頼んだ。
さすがアレルさん、威厳ある声で!
…まあ、公然の場の方が白黒はっきりするしな。
ちなみに【犠牲の腕輪】は、ある一定のダメージ…つまり致死量の一撃を一回だけ肩代わりするっていうもの。
魔法で作った防具の一つだと、リンがだいぶ前に教えてくれた。
「はじめっ!」
「【地】属性初級遠距離攻撃魔法、《茶球》」
最初に唱えたのは、ゼイル。
【地】の属性を纏った魔法の球が、こっちにやってきた。
大きさは野球のボールと同じくらいか。
しかし、遅い。
さすがに走る速さよりは速いものの、今の俺の瞬発力では、簡単だ。
身を翻して回避。それと同時にゼイルの近くまで踏み込む。
エリシュが魔法特化の種族とするなら。
ウェイカーは、瞬発力特化だろうか。
こちらからも、仕掛けますか。
「【闇】属性中級近距離創造魔法、《暗鎌》」
俺の手に、黒い「鎌」が、大鎌が握られるのが相手にも認識できたのだろう。
ゼイルの目が、見開かれるのがわかった。
俺の使う魔法は、魔法と言っても遠距離ではない。
魔法で近距離用の武器を生成し、駆使する。
これはエリシュの使えない方法らしい。
逆に、ウェイカーは遠距離ができないけど。
遠距離系魔法どころか、一般の便利系も『テレパシー』しか使えないけど!
そして、彼に向かって首を刈るように一振り。
一歩で彼の前まで移動していたから、彼はもちろん避けるのは不可能だ。
何かに阻まれたような反動とともに、ゼイルの腕輪が煙となって消えた。
はい、決着5秒で着きましたー!
「聞いてないぞ! 中級魔法を使うなんて!」
地団太踏むな、みっともない。
お前は子供か。
あ、……子供か、ごめん。
「だって言ってないからな。…条件通り、これから俺達には関わるな。」
「え、条件加えられていないか!?」
そんな雑音を後目に、リンをつれて闘技場から去る。
なんだか、拍手が聞こえた気がするけど…。
まあいいだろう。
「…びっくりした。」
「…だろうな。」
帰ってからの一言。
リンは、目をぱちくりさせて俺を見つめていた。
「…いつの間に。」
「一年の間に。」
これでも、リンに追いつこうと自分で努力してきたんだぜ?
…遠距離はぜんぜんだったけどな。
「しかも、鎌って。」
「…んー、ビビらせるにはちょうどよかったよね。」
「そういう意味じゃなくてっ!」
あのね、とリンは俺に説明を始める。
…なるほど。
ウェイカーは本来、初級魔法の発展系…剣の生成までしかできないのね。
基本的にトリッキーな芸当は、フライドの役目なんだと。
「でも、1年間ずっとエリシュとフライドの魔法だらけの生活環境下だからね…。」
「1年で変わったらみんな苦労しないよ…。…本当に、記憶喪失なの?」
…そうだな。
リンくらいには、事実を言った方が良さそうだな。
「…あれ、実は嘘なんだ。」
「え…?」
「本当は、記憶喪失なんて言う生やさしいものじゃない。…元々、俺はこの世界の者じゃないんだ。」
彼女に、1年前のあの日の出来事をはなす。
リンが固まった。
…嫌われたか。
…かと思ったら、泣かれた。
泣くなぁぁぁぁ…。
抱きつくなぁぁぁぁ…。
罪悪感増すだろ…!
「…先に言ってよ…。…それだったら、ちゃんともっと教えてたのに…。」
…揺るぎない優しさだな、リンよ。
リンの手をそっと取る。
「…1年間、黙っててごめん。」
「…ううん…、これからも宜しく…?」
次回から、第1章にはいります。
ちなみに…ヒロインはリンじゃないです。
ご感想、ご指摘、評価、イラスト等、お待ちしております。
長ったらしいプロローグ章を読んでいただき、ありがとうございました!




