禁術:魔剣
「ひょ?」
リーダー格の男が素っ頓狂な声を上げる。
「…禁術魔法を見るのは初めてか。」
今ではなんだかんだ言って、《闇魔剣》2本分の魔力消費か。
いや、結構疲れる。
気を失いそう、っていう訳ではないけど。
…なんていうか。空気が重く感じられる。
酸素がほしい!
「いや…ね、それを唱えられたからって、実体化することは…!?」
彼の言葉を聞かずに、地面に手をおく。
手の影が広がりさらに大きくなり。
倉庫を包み込まんとする、大きな闇。
そこから。
ズズズ、と巨大な魔剣が現れたのだ。
闇の化身とも見て取れる、強大な赤黒いオーラを纏ったその剣の名前は《闇夜魔神剣》
禁術の最上級と言われる、創造する魔法。
それを地面から抜き、男を見つめる。
「…驚いたか?」
「…おい! いつまで女と戯れてるんだ! こいつを殺せ!」
リンセルとアンセルに手をかけていた男たちが、俺を見つめた。
こいつら、どこのヤンキーだよ。
本当に…なんていうかね。
腹が立つね!
『ほら、アッパーも発動しちゃいなよ!』
そう簡単にいうな、リューよ。
最後の手段だ。…アッパーは。
『ええ? …まあ、いいけど。』
リューが俺の頭のなかで呟く。
と同時に。
男たちが、5人ほどこちらに殴り掛かってきた。
「…ふんっ!」
剣は、重かった。
俺の身体を鉛にするように、重量がのし掛かってくる。
その中で、俺は【敵】を視認した。
『右斜め前から1発くる。』
リューの言葉を聞き、身体をスライドさせるようにして後ろに逸らす。
そして、その言葉通りに拳はやってきた。
「ふんっ!」
直線で解き放たれた威力は、俺の肩より少々上を狙っている。
そこから一気に肩を落とし、下から左手で男の腕を掴む。
…昔柔道で習った技だ。
そのまま地面に叩きつける。
…左手だけは少し強引すぎたか。
そして、次に横から火の玉を射出してきた男に向かって、魔剣を薙いだ。
《闇夜魔神剣》は、【容赦】という2文字を知らないようだ。
そのまま、火の玉はおろか、3人目の襲撃者の手を切り裂いていた。
…わ、驚きの切れ味。
指が3本飛んだ。
「うがあああああああ!!!」
断末魔の声が聞こえる。
が、気にしない。
二人に手を出した奴は…それなりの罰が必要だ。
一旦距離をとり、リューの空間把握能力に任せる。
『次、後ろから2人が【光】属性の初級魔法。』
リューに教えられ、後ろを振り返ることもせずに遠距離魔法を切り伏せる。
《闇夜魔神剣》が、いっそう赤く光ったような気がしていた。
脈動するかのように、それは赤く点滅、黒いオーラが、一段階濃くなった。
『その次。…左方向から、さっき蹴って吹き飛ばした男が襲撃に来る。』
了解。
もう一回蹴って倉庫の壁に叩きつける。
ズドン、という鈍い音とともに、…男は泡を吹いて地面に倒れ込んだ。
『前から2人、遠距離系の攻撃。』
お前はどこのスーパーコンピュータだ。
射出された魔法球をよけるようにしながらも、相手を見据えて走り出す。
剣の柄で、思い切り鳩尾を貫くと。
男は、倉庫のドアを貫通し、どこかに飛んでいった。
「く…!」
「アンセルとリンセルに手を出していなければ、何も起こらなかったのに。」
後ろから、音も立てずに近づいてきた男を逆手に持ったままの剣で斬る。
相手が【犠牲の腕輪】をしていたのはよかった。
失神するだけですんだ。
『はい、残りはリーダーだけだよ…!?』
リューが絶句する。
前を向けると、リンセルが唇を押しつけられていた。
「おっと、これ以上近づいたら、どうなるかわからないよ?」
駆け出すとすると、男はナイフを持ってリンセルの喉元に突き立てていた。
…まんまとしてやられたな。
…リュー。どうする?
『下がって。』
下がれと!?
リンセルを見殺しにしろと!?
『良いからさがれ!』
頭の中に、リューの叫びが響きわたる。
なぜだ!?
俺はリンセルを見捨てるつもりはない!
『言うことを聞け! …考えはちゃんとあるんだ!』
その言葉を、信じるほかなさそうだな。
渋々ながら後ろに下がると、男はニンマリと笑ってリンセルに話しかける。
「君たちの王子様は、君を見捨てちゃったみたいだね…。」
「…ラン君…?」
完全に泣いている。
その顔は、絶望に満ちている。
…こっちを、見つめないでくれよ…。
『こう唱えるか、僕に声帯を貸してくれるかな?』
なんだよ、許可があれば乗っ取れるのか!?
聞いてないぞ、そんなこと!
『君の身体を使えるのは、1日1分程度だよ! …救いたいなら、ちゃんとしろよ…! 僕だって、リンセルを救いたいんだ。…リンセルがその目をするの、一番いやなんだよ!』
その言葉に、リンセルに対する気持ちが、ありありと浮かんでくるような気がした。
本当に少しでいいんだな!?
『30秒あれば充分だ。』




