思念
ここは…どこだ?
闘技場で、たしか俺は禁術を使って…。
倒れたはずだ。
魔導書…、偶然見かけて。
俺は、今全然知らないところに来ていた。
…いや、知っている。
『ネフェリティスの森』…だ。
俺がこの世界に生まれ落ち、リンに命を助けられた場所。
セリシト魔法王国、王都サウザンドライオにほど近い巨大な森。
…さっきまで、クレアシモニー学園にいたのに、なぜ?
歩けども歩けども、森は出口を俺に指し示してはくれない。
…今なら、俺はあの日襲いかかってきたものに勝てるだろうか。
ガサッ…!
後ろから音。
俺は反射的に、後ろを向く。
背後を取られると、戦いでは確実に不利になる。
しかし、俺は言葉を失った。
そこにいたのは、俺に似た人だったからだ。
顔も似ている、さらに言えば体格すら似ている。
男は、俺を見て俺に近づいてくる。
不思議と、恐怖は感じなかった。
闘わないといけない、というイメージもなかった。
ただ、俺と似ている。
同類のような、気がして。
「…へー。君がラン・ロキアス…。いや、紀伊嵐か。」
「…なぜ、俺の名前を知っている。」
声は俺よりも、少し幼そうだった。
しかし、それは何かを品定めするかのように、口調は淡々としたものだった。
謎の少年は、俺を見てくすりと笑う。
森は、音を失ったかのように沈黙している。
そして、少年は口を開いた。
「…僕は何でも知ってるさ。君が日本人だったことも、3種族混血だと言うことも。アンセルとつき合っているということも。…僕は、彼女たち、彼たちの心の中で生き続けている。」
その言葉に、思い当たる人物が一人。
アンセルの心から離れない一人の男。
カレルの弟分の一人。
「…リュー・ウルガ…?」
「そう。…初めまして、僕の名前は零牙寺劉だ。」
「…なるほどね。…僕と同じことをしようとしているのかい? …言っておくと、歴史が繰り返すというのなら、この後君は死ぬ。」
…はい?
いや、いきなり死ぬって言われて平然としていられないだろう。
「一応、予知は出来る。…残念ながら、すでにリンセルもアンセルも捕まっているようだね。」
言葉は淡々とした、感情のないものだった。
しかし、彼は両手を血が出るくらいに握りしめていた。
「…また…、僕を殺した輩たちのようだね。…さすが、実力さえあれば入学できる【クレアシモニー学園】だよ。…2年前に僕を殺した50人中…、48人。」
「…俺は、そいつらに勝てるのか?」
そんな事聞きたくなかった。
俺の問いに対して、リューは首を傾げて見せた。
「五分五分、と言ったところかな。…今の君じゃあ、無理だね。…魔力と体力を著しく消費して、立つこともままならない君は、行ってもタコ殴りにされて死ぬ。…でも、それは君一人で行った場合だ。」
リューが、ニヤッと笑った。
…その顔からは、何も読みとれない。
「…僕が、君にこれから力を貸す。…君は、【光・闇】属性を操るウェイカーになるんだ。」
「何だって?」
それはつまり…あれ、どういうことだ?
「…簡単に言えば、僕が一つの人格として君と体を共有し、君のサポートをしよう。…残念ながら、君の身体を乗っ取るということは出来なさそうだが。」
残念とか言うな。
…ビビるだろうが、ヤメロ。
しかし…なぁ。
そんな都合のいい話があるのか?
「さあ、どうする?」
「いや、その言い方は信用できない。」
なぜ? とリューは小首を傾げた。
「人格との契約を取り消せるのは、身体の持ち主だけだよ。…僕は君に対して何も出来ない。…つまり、気に入らなければ切り捨ててもいいってことだよ。」
「そんなに単純明快なことか?」
「疑り深いんだね。」
リューがため息をついた。
そして、俺に向かって…。
「【光】属性最上級遠距離攻撃魔法、《波導球》ッ!」
いきなり大技をぶっ放した。
「バカ野郎…!!!」
「当たっても傷一つつかないよ!」
草木をなぎ倒して、誘導されているかのように俺について来る《波導球》を、必死の思いで逃げる。
しかし、…当たった。
でも、攻撃はダメージを与えるどころか、俺に体力と魔力を供給していく。
「え?」
「…僕はもう死んでいるからね。…魔力は全部君のものになる。」
…なんですかそのチートは。
「で、どうだい?」
「…まだまだ信用できない所はいくつかあるけど…スロツがでてこない限りは大丈夫なんだろうな?」
「スロツは僕の相棒でもあるからね。…さて、行こうか。」
リューが俺に右手を伸ばす。
その手を握った瞬間。
俺の意識は覚醒した。
起きあがると、いつもの清潔とした部屋だった。
…カレルの自室か。
「…うぅ。」
「ラン…っ!?」
目を腫らしたリンが、抱きついてきた。
しかし、その慌てぶりは尋常ではない。
…まさか…。
「アンセルとリンセルは?」
「これ…。」
まさかだった。
…リュー、お前の言うことは合ってたんだな。
『もちろんじゃないか、ラン。今、僕は君であり、君の絶対的な味方なんだから。』
リンから差し出された紙には。
【アンセリスティア・フレイヤ・レイカーとリンセルスフィア・フレイヤ・レイカーは預かった。一人で来い。】
というメッセージと、そして…。
場所が明記されていた。
「…行ってくる。」
「ダメ…! …絶対に殺される…っ!」
リンが俺を制止しようとして、起きあがる俺を押し倒した。
…まさか、これに反抗も出来ないほど体力がないとは。
でも。
「行かせてくれ…!」
「絶対に許さない。…だって、ランの代わりはいないもの。」
ぎゅ。
抱きつかれた。
……ハーレム作れる予感。
「…俺の代わりは確かにいないのかもしれないな。」
「だったら…!」
「でも、リンセルとアンセルの代わりもいないよ。」
リンの力が、抜けた。
その目から、涙が溢れる。
…泣かないでくれ。
俺のせいで、苦しまないでくれ。
腕の紋章はすでに光っている。
『アッパー』の発動条件が揃ったのだ。
…それは、リンが今でも俺の大切な人だと言うことを指し示していた。
「…ランが死ぬのは…イヤだ…。」
「死なないよ。…絶対帰ってくるからさ。」
そういって、立ち上がる。
…よろけそうになったが、突発的にリューが体力を限界まで回復させてくれた。
『さあ、行こうか?』
「…一人で来いってなぁ…。」
もう、一人じゃあないしな。
振り返って、リンに手を振る。
「…行ってくるよ。」
「…ラン? …いってらっしゃい。」




