選択
リンちゃんに、この世界のことを聞いた。
見事に、現代社会とファンタジーが融合した世界だった。
魔法科学、というものが存在しているらしい。
なんというか…ああ。
「えっとね、この世界には6つの種族が存在するの。エリシュ、ウェイカー、フライド、サイコル、サミュリ、そしてケレイジ。」
俺に見せるように、リンちゃんはノートに6つの単語を書いていく。
…日本語じゃないですかやだー。
どれだけご都合主義なんですか。
…俺は誰に向かって敬語をはなしてるんだ。
「エリシュが私ね。ランが多分、ウェイカーだと思うの。」
「それって、どこで分かるの?」
リンちゃん、体近すぎ。
…理性がやばい。
華奢な彼女の体…。
「えっと…エリシュは、ごらんの通り耳かな? ウェイカーは二の腕に腕輪のような紋章が…あった、これね♪」
可愛い。
ええ…、いったいどこの天使かね、この子。
そして自分の二の腕をみやると、左右同じ、複雑で幾何学的な黒い紋章が見えた。
…なんだか、おぞましい。
「色で、貴方が持っている属性が分かるの。【火】は赤、【水】は青、【地】は黄、【風】は緑、【光】は白、【闇】は黒…ってね。」
あ、僕闇ですか。
ちなみに、この国のことも聞いた。
ここは『セリシト魔法王国』という国で、簡単に言えば、世界樹が多い茂っている環境に寄り添うように、町を作ったって感じか。
なんてたって、ここはすごい。
水道もあるし、ガスもある、電気もある。
…ガスは「火属性を含んだ魔法の大気」で、電気は「光属性と火属性、どちらかのエネルギー」らしいけど。
「車ってないんだね。」
「クルマ? …んと、テレポートの魔法があるし、技術の進歩とともになくなっていったねー。」
昔はあったらしい。
…んー、あらゆるエネルギーが魔法関連に変わっているのか。
「質量保存の法則」の「し」の文字もないらしい。
「それより…さ?」
ぐいっとリンちゃんが顔を近づけてくる。
「これから、どうするの?」
…返事に困った、どうしよう。
リンちゃんに迷惑はかけたくない。すでに3日ほど世話になってるし。
だが、出ていったところで、俺に居場所なんてあるのか?
ここはリンちゃんのようなエリシュと、翼の生えたフライドが主な国民である『セリシト魔法王国』だ。
転成されて3日目。
この世界のことなんてまるで知らない。
「…二つ選択肢があるよ?」
リンちゃんが、俺に対して2本の指を立てた。
「一つめ、私と旅にでる。」
…いきなり度肝を抜かれました。
なんということでしょう。
「大丈夫。…私が、ちゃんとサポートするから。」
…下の仕事もかな?
…いや、邪なことを言っちゃだめだ!
俺の命の恩人なんだから。
「二つめ。1年間訓練を受けて、私と魔法学校に行く。」
「え?」
…え、今なんて言った?
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「ダメ?」
ああ。そうやって誘惑しないでくれたまえよ。
かわいいなあもう!
「2番目、って…?」
そうだ。
説明を求める。
「一年間、ここ『セリシト魔法王国』で、エリシュの訓練を受けて、来年に有名な学園に入学するの。」
ほう、この世界にもきちんと年という概念はあるようだ。
ないと困るもんな。
カレンダーもかかっている。
数字は、アラビア数字。
おお、都合が良くて分かりやすいぞ!
さらに言うと、その学園は無償らしいし。
「でも、これ以上迷惑かけるわけには。」
「気にしないで。…私、一人は退屈だったし。…世界を旅するのも良いかもね。」
ジイっと見つめられている。
髪の毛よりも少し明るい、翡翠色の目。
俺は、選択を迫られていた。