異世界
「……はっ。」
気を失ってからどのくらい時間がかかっただろうか。
…まだ腰が痛い。
どうなってるんかな、これ。
『あー。あー。マイクテストマイクテスト。』
音量でかい!
頭が割れる!
『おっと、すまん。スロツ=トールだ。』
でかいって! 音量下げろって!
『…あ、すみません。…どうだ? …アルカイダス大陸は。』
そういわれて慌てて見回す。
どこみても木、木、木。
完璧に森だ。
『ここはおそらく、ネフェリティスの森だな。』
そこから、スロツは俺にこの世界の簡単な説明をしてくれた。
これからも、俺のサポートに入ってくれるという。
…必要なときだけじゃだめかな?
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「…いくら歩けば、森のはしに着くんだろうか。」
道はちゃんと整備されている。
…日本の山にも、こんな感じの自然公園があったような。
たしか、アメリカとかに行くと山脈で自然公園とかあるんだよな。
…疲れた。足が棒になりそうだ。
ていうか眠い。
ここで寝たら…死ぬか?
獣のうなり声が聞こえてきた。
地の底から響くような、声。
それが俺の鼓膜で認識するとともに、俺の背中には寒気が走ってくる。
…俺か。
せっかく転生したのに…。
ここで死ぬのか?
ガサガサッッ!!!!
右か左か。
それとも前か、後ろか!?
わからない。
だけれども…怖い。
背後に…視線…ッ!?
そこでなにをみたか、俺には認識できなかった。
黒い影。
そして俺は…意識を失った。
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さざ波の音が聞こえる。
爽やかなにおいも。
それに…なんだろうか。
女の子の良い香りもする…。
って。
女の子の良い香り!?
「はぅあ!? …起きたんだね…おはよう? …聞こえてる?」
目を開けると、目の前にいたのは緑色の髪の毛をした、少女(?)だった。
目は若干垂れ目気味。
耳はすこしながい。
…マンガとかでみるエルフ…みたいな。
声は透き通っていて、すこし幼げ。
…かわいい。
ちなみに、今さっきは顔文字で言う[><]みたいな顔をしていた。
なんですかこの天使は。
「…あぅ…。えっと、お名前は?」
…さて、これはどうするのだろうか。
前の世界の、『紀伊嵐』でいいのか。
それとも、スロツに聞くか。
『んあ? …名前か。…ラン・ロキアスでスロットは出てたぞ?』
それも運か。
なるほど、運か!
「ラン・ロキアス…のはず。」
「のはずって…。ふふ、私の名前はリンナアイデル・パン・リーフ。リンって呼んでね? ちなみに種族はエリシュ。」
イエスチース、リンちゃん。
かわいいな、この子。
エリシュ…、エルフに語感が似ているな。
…そんな感じのが多いのだろうか。
「…ここはどこ?」
「え…。」
いきなり、戸惑われてしまった。
何か変なこと言っただろうか。
「…もしかして、記憶喪失だったりする?」
この世界にも記憶喪失って言う言葉があるのか。健忘ってやつ。
…そうだということにしておこう。
うなずくと、リンちゃんは困ったように耳をヒクヒクさせた。
「…どこまで覚えてる?」
「…知識全部抜け落ちたみたいだ。一応話の仕方はわかるみたいだけど…。」
はい、最初っからこの世界の知識は持ち合わせておりません。
リンちゃんは、すぐに状況を察したようだ。
ちょっと待ってて、と部屋を出ていく。
…あ、はい。
なんていうのか。
日本語通じるんだなって。
ていうか、ここ完璧アパートだよね!?
…女の子の部屋だよ。
前の世界では、一度も女の子の部屋にはいることなんてなかったからなぁ…。
「お待たせ。」
…なんでこの子は、俺に警戒心を持たないのだろうか。
男だぞ!? 俺男だぞ!?
と、何かに気づき、リンちゃんに聞く。
「鏡、貸してくれない?」
俺が鏡を頼んだのは、きちんと理由がある。
転生前、スロツの体で回したあれだ。
容姿が相当良いってでていたような気がする。
関西弁で。
「…やっぱりねえ。」
鏡は、この世界には存在するようだ。
それよりも。
…前の世界で下の下だった俺のルックス。
…パネエ。
うん、なんでリンちゃんが警戒しないのかわかったよ。
ホストとして、俺十分にやっていけるよこの顔。