無限の吹雪
最後まで読んでいただければ光栄です!
少女の息を確認して、ほっと一安心。
髪の毛…。
クリーゼの髪の毛は深い青。
…しかし、この娘の髪はかなり薄い。
雪の中、白い砦の中で青みがかかっていることが確認できるが、ふつうに『銀髪です』といっても差し支えがないくらい薄い。
…睫長いな…、ってそういうことじゃないな。
凍死する可能性もあるだろう、半袖ショートパンツだしこの娘。
そっと抱き上げて、中で保護しよう。
首と足の方に手を伸ばし、抱える。
「…こんばんは。」
「あひっ!?」
少女がいきなり声を発したため、俺は思わず奇声をあげてしまった。
のぞけば、赤い目の美少女。
「…イケメンさん、だれですか?」
「いや、君が誰だよ。」
透き通るような声だった。
少女は首を傾げ、俺に顔を近づけてくる。
「ヒョウガ。」
「名字は?」
「…ないです。」
深追いはしないでおこう。
彼女に向かって、自分の名前を告げる。
たぶんこの調子だと俺のことは知らないはずだ。
「ラン・ロキアスだ。」
「…【聖魔の牙】さん、よろしくです。」
…知られてた。
「いらっしゃい、【無限吹雪】。」
俺がヒョウガを食堂に運ぶと、ルークさんが立ち上がって声を掛けた。
「…着地したときに力つきちゃいました、えへへ。…【聖魔の牙】さんがいてくれなかったら、凍死してました…。」
「動けないようだから、もう少し抱いてあげてくれ、ラン君。」
「この人なんですか?」
俺の質問に答えたのは、ユニコルノ部隊長だった。
「…君たちの部屋に加わる仲間だけど?」
「え。」
この少女が?
よく見てみると、ヒョウガはきょとんとした顔で俺を見つめる。
ちなみに、高身長である。
アンセルと同じくらいだろうか。
…参ったな、アンセルも氷使うんだけど。
「キャラ被りしないので大丈夫です、イケメンさん。」
「…心読むなよ。」
「ふふ。…私は絶対にキャラ被りしませんよ、イケメンさん。」
「…恥ずかしいから、その呼び方やめてくれる?」
そしてルークさんに仲が良いなと笑われる。
「それにしてもどういうことだ? 仲良くなるなんて結構珍しいことなのに。」
「…そういう気分ですよ。」
どういう気分なんだよ。
…こっちからは不思議ちゃんなんだがこの子。
「イケメンさん、おねがいしまーす。」
「何を?」
「愛の巣まで連れてってください~。」
愛の巣!?
目を見開いて驚く俺に、今にも吹き出しそうなルークさんが話しかけてきた。
「彼女が人に懐くのはとても…珍しいことなんだ。」
「…なぜ?」
「それは、彼女と交流を深めて彼女の口から聞いてくれ。」
…攻略しろと、今言われたような気がする。
マジかぁ。
攻略ってどうやってするんだ?
俺、前の世界ではそういうゲーム…してないぞ?
俺はイラスト派なんだ。
二次元に恋なんてしないもの。
「イケメンさんイケメンさん、愛の巣に連れてってください。」
「まだ続けるか。…とりあえず、朝までは待てよ。」
「…一緒に寝ましょう!」
………。
危機感がこの子にはないのだろうか。
…大丈夫かな、俺は君が心配だよ。
「寝ましょ? あの、私こうで…動けないですし、イケメンさんに添い寝してもらいたいです。」
「…だまってろ。」
そんなことしたら確実に…。
リンセルに殺されちゃう!
「…で、結局ここで寝るんですか? イケメンさん。」
「本当は個々で寝たいんだがな。」
ユニコルノ部隊長からは、一つしか毛布をもらえなかった。
そのため、ヒョウガを出来るだけ暖めることにする。
俺は魔法で何とかしたいんだけど…。
寝たら効果が切れるため寝れない。
…それにしても、端整な顔立ちである。
…おうふ。
「ところで…警戒しないんだな。」
「…下心を露わにして襲いかかってきたら、容赦なく変態さんに格下げですっ。」
毛布の固まりになりながら、ヒョウガは物騒なことを呟いた。
寝起きのアンセル…じゃない!
彼女自身はもっとミステリアスだ。
一見ほわほわして無防備に見えるが、その内側から何か…別の物を発散しているように見える。
覇気…?
「…そんなに見つめないでください~。」
…正直言って、この子めちゃくちゃガード堅い。
仲良くなったような感じが表向きにはしているが、結局社交辞令だ。
内側から怯え、みたいな物が感じられる。
「無理すんなヒョウガ。」
「…大丈夫です、イケメンさん優しそうですから。…って、イケメンさんも心読めるんですか?」
「まあ、感情が感じ取れる程度かな。」
声とか、表情とか、近づいたときの身体の反応とか。
ルークさんやユニコルノ部隊長さんには反応を示さず、自然体に近いのに、俺に対しては変に積極的である。
「…あの…苛めたりとか…、しないでください…ね?」
「おうよ。」
返事をすると、ヒョウガは安心したように身体の力を抜いて。
「襲っちゃだめですよ?」
と念を押されて。
眠りについたようだ。
ありがとうございました。




