闘技場
「おはよう。」
「おはよー!」
「…元気だなリンセル。」
「ふふ、そうかな…?」
しばらくすると、ウスギリが起きた。
それにつられたのか、リンとアンセルも。
アンセルは明らかにテンションが低そうだ。
…どうしたんだろうか。
「…アンセル、大丈夫か?」
「…寝不足。」
アンセルは心なしか、今までよりもさらに口数が減っている。
…おい、大丈夫か…?
「ねえ、私今日遊びに行くね?」
リンが宣言した。
ああ、たしかヘレナと遊びに行くとか何とか言ってたり言ってなかったりだっけ?
…自分で言ってて混乱してきた。
「あ、あとこれ。」
カードホルダーを渡される。
…後で確認しよう。おそらく【パスポートカード】だ。
「ウスギリは?」
「学園長に呼ばれてる。」
「え? なんだって?」
学園長に呼ばれてるだとう!?
「んあ、叔父だから。あまり知られてないけどね。」
「OJIIIIII!?!?」
取り乱してすまぬ。
意外すぎたんだ。
でも、そう思えば同居人、誰も普通の人いないんだよ。
俺もふつうじゃないしさ。
「アンセルは?」
「…寝る。」
「じゃあ、リンセル出かけようか。」
リンセルが輝くような笑顔を見せるとともに。
アンセルが鷹のような目でリンセルを睨んだ。
「…やっぱり、私…ラン君と二人でどこかに行きたい。」
「…え。…さっき…寝るって…。」
リンセルが、ぎゅっと拳を握った。
…姉妹喧嘩はやめてほしい。
「ラン君…私とって言ってくれたのに…。」
「…気分が変わったの。…貴女は昨日一緒にいたし、いいんじゃないの?」
アンセル。
普段からそのくらい感情を出してくれ。
怒っていたとしても、今が一番魅力的だ。
「…先に言っておくが、話し合いが決まらなければ一人で出かけるから。」
周りに闘技場あるかな。
そろそろ小遣いがほしいし。
闘技場…、普段は太陽の日にトーナメントが行われていて、一勝したら500イデア、2勝したら2000イデア…って賞金が上がっていく。
それと、一般では一勝500イデア均一というのもある。
『セリシト魔法王国』では、魔法に秀でているエリシュとフライドが過半数を占めていて、魔法の飛ばし合いが一般的だったけど…。
ここなら、もっと色々な人がいるはずなのだ!
戦いたい戦いたい…。
「にゃ、ほら、ラン君闘技場に行きたそうな顔してるし!」
洞察力たかっ。
たっか!
いや、集団タップダンスじゃないよ?
「…確かに、戦闘種族っぽいわね、さすがウェイカー。」
アンセル、その蔑んだような顔は何!?
リンセルは逆にキラキラしてるけど!
「行こう行こう!」
「…じゃ、私パスする…やっぱり寝る。」
野蛮じゃないようだね。
…アンセル、色々とごめんよ。
「…むぅ、お姉ちゃんのことばっかり考えて。」
だから高いって! 洞察力!
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「おお、ここが『都市国家ポラリス』の闘技場か。」
役所のビルの最上階。
天井を作られていないこの場所に、巨大な闘技場は作り出されていた。
「おっきいね…。」
リンセルは、行きの途中からさりげなく手を握ってきていた。
…ほっそ。
柔らかい。
長手袋越しに伝わる温もり…。
…おいそこのロリコンって呟いた奴!
「おい、あれってレイカー家の…。」
「リンセルスフィア嬢じゃないか? こんな所に来てくれるとは!」
「でも、だったら隣の男は誰だ?」
「噂を聞いたことがある。…『クレアシモニー学園』入学当日に、ギリス・ランレイを打ち負かした奴だ!」
「あのランレイを!?」
「ああ…、『上級創造系魔法を唯一扱えるウェイカー』らしい。『超絶能力開花』も覚醒済みっていう…。」
うお、なんか話題がリンセルから俺に切り替わってる!
俺って…やっぱり異質?
「…早く登録に行こ。」
「登録の場所、知ってるのか?」
「うん、ここも【PK】取得制だから。」
パスポートカード、よく聞いてみれば身分証明書のようなものだった。
俺は持っているはずがなかったのだが、リンがすでにあの1年間で申請していたらしい。
さっきのカードホルダーに、入っていた。
「…本当に、便利だよなぁ…。」
「…記憶喪失でも、さすがに持ってるかと思ったけど…。」
うん、まだリンセルには教えていません。
異世界からきました、って言って「はいそうですか」と言ってくれる人はリンくらいしかいないと思うんだ。
「お、出身国ちゃんと『セリシト魔法王国』になってる。」
「…ふふ…見て見てー。」
リンセルがPKを見せてくる。
見せてきていいのか?
身分証明書だぞ?
「へ、へー。」
「むぅ、分かってない顔してる。」
そういう意味じゃなくて!
レイカー家って、凄い名家じゃないか。
「[神憑き]ってなに?」
「ん? …アルカイダスで特に有名な名家ってことだけだよ? 気にしないで。」
うん、気にしない。
それに、リンセルも闘技場・女性部門で何回か優勝してるしさぁ…。
いいなぁ…。
可愛いだけじゃないんだよな…。