偽装【camouflage】
カモフラージュって、フランス語なんですね…。
最後まで読んで頂けると光栄です。
「…アンセリスティア・フレイヤ・レイカー嬢……?」
そう、我らがアンセルである。
いつのまに、俺の真後ろにすり寄ってきたのかは不明。
音もなかったから、正直俺が一番驚いた。
「そうですね。…【聖魔の牙】ラン・ロキアス君に対して平民呼ばわりですか。…私とリンセルの、【正式】な婚約者なんですけど? あと、貴方が暴言を吐いたレザールはシルバ・エクアトゥールです。…これから、スレイプ家には【エクアトゥール】からの武器発注をさせないように私から要請しておきますので。」
見る見るうちに、スレイプ家のボンボンは顔が青くなってきた。
…アンセルの怒りを顕す冷気が、彼の足を凍らせているのも原因の一つかもしれない。
いや、この世界での貴族の場合、自分のところにどれくらい、優秀で多い武器を蓄えられるかでその優劣は決まるという。
…シルバの鍛冶屋からパイプが途切れると、スレイプ家の権力は一気に下落してしまうだろう。
「…アンセル、ナイスアイデア。」
「いえいえ。…ラン君とシルバ君をバカにした人を、私は許しませんから。」
シルバも納得らしい。
…終わったぁ!
一つの貴族が、ワガママ息子の暴言一つで潰れたぁ!
「い、いや、ちょっと待ってくれ。」
「待てませんし、待ちません。…婚約者に暴言を吐いた罪は、殺人よりも重いことを思い知らせるのに充分でしょう。」
…権力の公使の仕方がひどい…。
なんてことをしてくれたんでしょうだよ本当に!
「アンセル、学校で起こったことだし、家まで巻き込むことはないんじゃないか?」
一応、アンセルに妥協させよう。
スレイプ家のボンボンは、俺をみて驚いたようだ。
「こんなバカ息子のせいでスレイプ家が潰れたら後味悪いだろうしさ。…停学とかにした方がいいんじゃないか?」
「…ラン君がそう言うのなら…。」
おっとぉ。
ボンボンが立ち上がって鼻で笑ったぞ?
「さすが平民、自分の地位を…。」
「あ、やっぱり退学でいいですよね?」
…地位を分かってるかって?
俺がもう少し自分勝手だったら、スレイプ家の領地をレイカー家に吸収させるぞオラ。
------------------
「アンセル鬼だわー。」
「あのくらいでいいのです。」
本当に退学になっちゃったよあの子。
悲惨だろうなぁ…。
しかし、相手がレイカー家の娘なのでなにもいえない。
…ひどいなぁ、アンセル。俺は停学でいいかなって思ったのに。
シルバも、武器発注中止でよかったとかつぶやいているし。
この前あったときはそうでもなかったのに、何でいきなりシスコンになってるんだよ。
「シスコンは偽装に決まってるだろ。」
【ヴルム】からもどっているシルバは不機嫌なまま、つぶやいた。
「…イヴはああ見えてもまだ15歳だし、俺が転生してきて随分と世話になっているし…。だから、この学園に来るときに約束したんだよ。」
まあ、仕方がないだろうな。
イヴに話しかける。
「イヴ、大丈夫か?」
「おかげさまで…。」
少々顔がひきつっているが、大丈夫そうだな。
頭をそっと撫でてやる。
「ところで、シルバが《龍化》しても服はそのままだったんだな。」
「俺の翼は、背中から生えてないからな。…龍種的に、聖星龍-炎龍亜種の形態らしい。」
なんですかそれ。
なにそのかっこいい名前のドラゴン。
「神羅級の魔獣です。…太陽の方からやってくると思われており、神様の分身と呼ばれています。」
言うなれば天からの使者、というわけね。
…怖いわー。
しかも亜種かよ。
ありがとうございました。