散歩
最後まで読んでいただければ光栄です!
『らんにいおはよぉ…。』
エレメの声で目が覚めた。
目を開けると、エレメが頭を俺の頬にこすりつけていた。
エレメは紅龍の虹龍亜種らしい。
つまり、龍だ。
「おはよう。よく眠れたか?」
『りんせるねえが、だきしめてくれた…。』
起き上がり、リンセルがまだ寝ていることを確認する。
エレメが俺の首に前足を回した。
エレメの言葉は脳に直接届く。
つまりはテレパシーのようなもので、エレメは人語を俺たちに伝えることができる。
最近、リンセルは毎日エレメを抱いて眠る。
時には、俺をも巻き込むこともある。
まあ、イヤな気持ちはしないんだけどな?
『らんにい、どこかいこ?』
「そうだな、散歩に行くか?」
「うん!」
時計を確認すると、5時。
今日は学園があるが、朝の散歩くらいは許してくれるだろう。
なにせ、時間は有効に使わないといけないのだから。
「ちょっと待ってろ。…着替える。」
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というわけで、散歩にきた。
エレメは俺の肩の上だ。
体長は標準サイズの枕ほど。
ぶら下がっているものとしては大きい物のたぐいに分類されるんだろうか。
気にはしていない。…なぜなら、彼女の存在というのは、俺の娘に近い関係に当たるからだ。
「やっほー!」
後ろから声をかけられる。
振り向くと、そこにはクリーゼ・シックザールの姿があった。
薙がれるように延びている蒼い髪の毛と、くりっとした目、健康的な褐色の肌が特徴の…美少女である。
「ラン君も元気だねえ。こんな朝早くにエレメちゃんとお散歩?」
ちょーだい、と手をのばされたため、渡す。
エレメはすっぽりとクリーゼの腕の中に収まった。
「朝の散歩もたまにはいいかなってさ。」
「そうだね。…僕も普段はこんな事をしないんだけどね。」
彼女、僕っ娘である。
それはそれで愛らしいんだが。
「クリーゼ、今日の授業はなんだ?」
「えっと、決闘訓練がある程度かな? 今日はほとんど実習で、その次に魔法訓練。」
「俺、単位取れてるから出なくてもいいかな?」
いいわけないよー! とクリーゼ。
俺は…カレルを始め先生方に「おまえは強すぎる」と言われて魔法訓練は卒業までの単位をすべてもらっている。
…つまりは自由参加というわけだが。
「ラン君が授業に出席してくれないと、僕のモチベーションが下がっちゃうよ…。」
「それは一大事だな。」
クリーゼのモチベーションが下がると、暴れ出す。
…暴れないでいてほしいものだが。
『くりねえぇ…。』
「どうしたー?」
エレメの頭をナデナデするクリーゼ。
『おなかすいた…。』
「あー…。飴ちゃんでいいかな?」
『んーぅ。』
ソフトキャンディだった。
ドラゴンは雑食の肉食よりらしいから、きっと多分恐らく大丈夫だろう。
昨日、炭酸飲料を飲んでいたくらいだし。
「可愛い…!」
『くりねえ、おいしいよー。』
…クリーゼはエレメにメロメロなようです。
可愛いのは確かに可愛いんだけどな。
「今日はエレメちゃんも学校?」
『うんー!』
…この子のかわいさ、異常みたいだ。
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「「幼龍だー! 可愛いー!」」
これはあまり嬉しくない誤算。
エレメのせいで、結構目立ってしまう。
エレメのおかげで、なんだかこの前までは俺に寄りつかなかった人たちもそばに寄ってくるけれど。
お前等はお呼びじゃねぇんだよ…。
「…そろそろ授業だ。」
対照的に、俺のテンションは下がるばかりだ。
エレメが可愛いことは分かっているんだよ!
俺の娘(?)だからな!
…親ばかとか言わないでくれ。
「おい、移動教室だぞ。」
カレルが教室に入るなり、そう告げる。
「全員、闘技場に集合。…ランはどうする?」
「出席はする。…決闘したい人がいるのなら、相手にはなるよ。」
自分から決闘をふっかけるなんて更々したくないのでね。
「よし、エレメは俺とだ。」
『りょかーい…。』
エレメの返事は、心なしか少し疲れているような気がしないでもなかった…。
ありがとうございました!