夜中
最後まで読んでいただければ光栄に思います!
俺は、寝息をたてるリンセルとエレメを見つめていた。
深夜だ。少なくとも、寮からは何も音はしない。
『ままー…。』
エレメは、完全にリンセルを親として認識している。
そして、俺もか?
分からなくなってきたな。
リンセルは、エレメを娘として認識できるのだろうか。
俺はできるが。
リンセルを信じるべきだろう。
「…エレメ…。」
ぎゅう、とリンセルはエレメに抱きついている。
幼龍は、鱗の間に毛も生えているため、ふわふわしているのだ。
「生まれてきてくれて、ありがと…。」
リンセルは、死ぬために今まで生きてきたと思っていたらしい。
…結果的に、俺が救った形になるんだろうか。
とにかく、彼女は今…どんな気持ちで生きているんだろう。
俺は、彼女を救えているんだろうか。
救いきっていないというのなら、とんだクソ野郎だろう。
…あれだけ豪語して、結局は口だけかと。
「…リンセル…。」
感情が押さえきれなくなる。
寂しくなる。
罪悪感で、心がいっぱいだ。
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「…何をしているんですか?」
寮の屋根で星を眺めていると、不意に後ろからアンセルの声がした。
「星を見てる。」
「…となり、かまいません?」
「おう。」
アンセルが俺に寄りかかる。
「綺麗な星ですよね、…ラン君は、前の世界はどうだったんですか?」
「…前の世界は、工業が発達して星なんて見えなかったよ。」
いや、中心部がひどいだけか。
「…それは残念ですね。…ラン君は、前の世界に戻りたいですか?」
「…アンセルや、リンセルやみんなが、一緒にきてくれるというのなら。…俺はどこにだって行くよ。」
どこだって、という言葉にアンセルは笑う。
「…私もです。ラン君についていきますね…?」
ああ…頼むよアンセル。
俺はまだまだ弱い。
だからこそ、その弱い部分を情けないけどフォローしてほしい。
「…私、一度記憶喪失になった方が、ラン君のこと…好きになれているようですね。」
「記憶、戻ってるのか?」
アンセルは、頷いた。
「…黙っていてごめんなさい。…でも、ラン君ともう一度…関係に亀裂が入るのはイヤなんです。」
「アンセルはアンセルだ。…大丈夫だよ。口調はどうするんだ?」
「元には戻りません。…ラン君と、2度私は出会いましたから。」
…アンセルの顔に、すこしだけ憂いの表情が浮かぶ。
その表情はいったい誰に向けられたものか。
「…ずっと、ラン君のそばにいますから。」
「…ああ。」
ラン君も、そばにいてください、とアンセルはつぶやいた。
「…ここで誓えますか?」
「ああ。…この世界に存在する神に誓えるよ。」
前の世界では、神なんていないと思っていた。
しかし、今は違う。
スロツ=トールという存在から俺の、この世界での人生は始まったのだから。
「…安心しろ。…な?」
「はい。」
ありがとうございました!