事件解決
最後まで読んでいただければ光栄です。
魔神が、静かに俺を見下ろしている。
その表情は、無表情。
「無表情が一番怖いんだぞ?」
『ええ、わかっていますとも。』
アンセル…いや、魔神は答える。
魔神よぉ…、なんとかしてくれよ。
「魔神…アヴァランチだっけ、引っ込めない?」
『私は主の怒りを体現するもの。…だめですね。』
アンセルの怒りが収まらない限り、魔神もこの世にとどまり続ける…のか。
困ったな。
『そこの男をころせば、怒りは収まりますが。』
「でしょうなぁ。」
床でガクガクブルブルしているイリテをみて、俺はため息をついた。
殺しとく?
でも、人を殺すことは今までしたことがない。
…したっけ?
ドラゴンとか、魔獣とかは殺した…というよりかは、倒した。
でも、さすがに人は一人も死んでいないはず。
…アンセルとリンセルをさらった奴らも、部位破壊はしたものの一人も死んではいない。
「…それはダメだな。」
『そうですか。…残念です。』
なにが残念なの?
俺がそれを口に出す前に、イリテは氷の像になっていた。
「あ。」
『大丈夫です。死んではいません。内側から凍らせました、特に後遺症もなく溶けるでしょう。…3ヶ月ほど放置します。』
魔神が、ネタに満ちている。
マジで魔神が…げふんげふん。
「まあ、勇者問題はこれで解決!」
『…あ、はい。そうですね。』
当事者が微妙な顔をするな。
「……怒りは収まったか?」
『…そうですね。…では、また。』
俺が手を振ると、魔神はゆっくりとアンセルを地面におろしながら、霧散していく。
アンセルを抱き止め、力を入れる。
大惨事になりかけたとは言え、俺のことを思うがあまり暴走したことだ。
…今日は一緒にいてやろう。
かすかに、アンセルが動く気配。
そして、小さく目を開ける。
「…ラン君…。」
「ん?」
「ごめんなさい、迷惑かけました…。」
俺の首に掴まり、アンセルは涙をこぼす。
アンセルの体を左手で支え、右手で彼女の涙を拭う。
「…大丈夫だ。…俺のことを思ってくれてやったんだもんな。ありがと。」
アンセルは、怒られるのを覚悟していたのか、キツく目を閉じていたが…。
予想外のことに戸惑ったのか、俺の目をかなり微妙な目で見つめていた。
驚きが一周回って変なことになってしまったらしい。
苦笑して、彼女の頭をなでる。
「…迷惑なんかじゃないよ。…さあ、戻ろうか?」
アンセルの目を見つめ、銀色の髪の毛を見つめ。
俺は笑って、彼女を抱き上げたまま闘技場から出ていった。
------------------【???視点】
魔神を召喚できる少女。
その少女をそこまで動かせる、男。
しかも、【聖魔】のトレンドねえ…。
【聖魔】は、ラン・ロキアスが【光】・【闇】の、二つの属性を…または、それを含んだ複数の属性を使用するから。
しかも、それを混合させる魔法を、この前開発したのだから驚きだ。
ラン・ロキアスのデータはあり得ないほど少ない。
役所のデータベースに、管理者権限で入ってしまえば、普通の人間でも…紙数十枚の情報が出るというのに。
彼のデータ量は僅か紙ページ2枚。
明らかにおかしい。少なすぎる。
枢軸国の中心、ポラリスのデータベースでも無駄なら。
…まさかと思うが、3国にデータが分断されているようにしか見えなかった。
彼の存在は、どこまで重要視されているんだ?
仕方がない、…帝王に、直接聞いてみるしか、方法はない…か。
ありがとうございました!