デルエクス
【ゼニス】というのは、この世界の言葉で【普通ではない】・【卓越者】というのを指す。
たとえば俺みたいに規格外だったり、実力が若きし頃からズバ抜けていたり。
俺にとっては、この世界が普通じゃないけど。
「ところで、どうしたんだい?」
「…『アッパー』について、詳しく頼む。」
カレルは、普通ではない。
なにが普通ではないか。
彼は、ウェイカーとエリシュの混種族なのだ!
でも、好奇の目にさらされないように、一般ではエリシュとして名は通っている。
「『アッパー』なー。まあ、どこまで至ってる?」
「13日前に、発動は出来た。…でも、俺は何で発動できたのか分からないんだ。」
そう答えると、カレルは目を細めた。
「ああ、ランレイ戦か。…俺も遠巻きながら見てたけど。…おそらく飽くまでも俺の推測だと、『自分の大切な人が涙をこぼして助けを求めたとき』だと思うな。確か、リーフさんが泣いたときだろう?」
頷く。
確かに、あのときはリンが泣いた瞬間に紋章が光った。
「…確かに、自分の発動条件は知っておくべきだな。…あと、ウェイカーは複数個『アッパー』を持っていたりするから、それも覚えておいた方がいい。」
俺は3つ持ってる、とカレルはどや顔をしてきた。
なんか、ムカつく。
「ほかの種族のそういう能力は?」
「んあ、サイコルは『魔能力』だろ? あとフライドは『飛行』でエリシュは『詠唱短縮』…かな。サミュリはご存じの通り『身体武器化』。ケレイジは『雷迅速』…。」
へー。
種族ごとにそれがあって。
それぞれに条件や制限があったりするのか。
『詠唱短縮』も、訓練が必要らしいからなぁ…。
「『詠唱短縮』ってのは、その通り詠唱を短縮する物だな。初級・中級の魔法の分類詠唱を省略できる。」
うへ、すごい便利。
いいなぁ。
「でも、それを使うにはそれ相応の実力も必要だからね。…リーフさんは可能としても、ほかの人はそう行かないんじゃないかな。」
リン…チートキャラ?
っておもったけど、よくよく思い返せば爺さんが大賢者様だもんな。
そこから、30分くらい、俺はカレルの講義を聴いていた。
「ごめん、お待たせ。」
「いえ、気にしないで。」
時間を忘れていた。
慌ててリンセルの元に駆け寄ると、リンセルは笑顔で首を振る。
※付き合っておりません。
って、そんなことは良いんだよ。
「今日は学園の外に行くんだって?」
「うん、殆ど学園の中で生活はできるんだけどね。」
んなこといいながら、どうやらリンセルは菓子を作りたいらしい。
…さすがにそれは外に出るべきか。
「ラン君って、【デルエクス】に乗れる?」
「んあ? なんだそれ?」
何のことを指しているかわからず、聞き返すとリンセルは不思議そうな顔でみた後、ポンと手をたたいた。
「あ、記憶喪失だったね…。ごめんね、【デルエクス】っていうのは、人工魔力で動く車両のことだよ。…転移魔法はエリシュとフライドしか使えないから…。ほら!」
リンセルの指さした方を見ると、…【Δ】に【Χ】を重ねたようなバイク型の車両が走っていくところだった。
でも、宙に浮いてるからアレかな。
ホバークラフトみたいな感じかね。
「…免許とか、いるのか?」
「めんきょ? …むぅ、パスポートカードのことでいいのかな? …ラン君、たまにオウラン帝国の言葉を使うから一瞬分からなかったよ。」
ウスギリといい、寿司といい。
オウラン帝国は日本に限りなく近いのかな。
…行きたくなった。
どちらかというと、『セリシト魔法王国』はヨーロッパの小都市と、森林を巧く融合させたみたいな感じだ。
ちなみに、【パスポートカード】は【PK】と訳されるらしい。
「【デルエクス】のPKは、うーん。ウェイカーなら、すぐに取得できるんじゃないかな!」
それ、どんな理論だ。
しかし、可愛い。
おいこの天使可愛すぎるだろどうにかしてくれよ!
挑発的じゃないのが唯一の救いか。
発音も可愛い。
すべてが可愛い。
「お菓子の材料を買いに行くがてら、役所に行って取りに行く?」
え、そんなに簡単なのか!?