王宮事情
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「ふにゃー。」
リンセルが、俺をみてトロンとしていた。
今し方正妻認定されたからだろうか、夢見心地だ。
おうふ、かわいいなあ。
「…いつ結婚するかわかんないのに?」
「…魔王討伐の途中? あと?」
「あとかな。…その少し前でもいいけど。」
リンセルが俺の膝でごろごろしていた。
…まあ、いいんだけどさ。
「クインさん、どうなるんだろう…。」
リンセルは学校の時の呼び方で定着させたようだ。
よかった。
様つけるのかなとか考えてました。
「…『普通』を取っ払ったような俺に、よく普通を求めている彼女がくっついてくるな。」
「そういうことじゃないよ。たぶん、『陛下』扱いじゃなくて、『クレインクイン』扱いしてくれたラン君に惚れたんだと思うよ?」
…俺、何も特別な事してないんだけどなぁ…。
むしろ、無礼な方だと思って…。
直すつもりはなかったが。
「俺よりもいい人なんて、いくらでもいるというのにな。」
「ううん、ラン君に勝てる人なんていないよ。」
愛するリンセルに即答され、すこし戸惑った。
正直言って、俺はそんなに大それた人でも何でも無いというのに。
…確かにふつうではないかもしれないが。
「強いし。」
「いや、それはリンセルみたいに、弱い人を守るためだろ?」
リンセルが顔を赤くした。
…俺、何か変なこと言ったっけ?
「優しいし。」
「これ、俺の一般的な態度だから、これ以上よくすることはできても悪くすることはできないよ。…だって、リンセルは俺の彼女じゃないか。」
ボッ。
リンセルの顔がさらに赤くなる。
すでに、熟れたトマトのようだ。
「…キスしてもいい?」
「どうぞ?」
リンセルが、俺の頬に唇をそっとふれる。
…俺は、リンセルの肩に手をおいて。
そっと押し倒した。
「…んぅ。」
幸い、ここはベッドの上だ。
スペースはある。
「…リンセルと出会えて、本当によかったと思っている。」
「…私もだよ? …入学式の日に、ラン君とお話ができてよかった…。あのとき、ぎくしゃくしていたら…。今は無かったのかもしれないね。」
そっと、唇をふれあう。
…今が一番幸せであった。
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「昨晩は、お楽しみでしたね。」
RPGに表示されそうな台詞を吐きながら、アンセルがにっこりと笑う。
ここはあれだ。前と同じ寮なんだけど、すこしメンバーが替わっている。
リンが『通常』の生徒と判断されたためか、別のクラスに行き。代わりにクインが入ってきた。
「…ああ、楽しかったよ。」
「今日は私ですか?」
「了解。」
ここでも『普通』だと思われないクイン…不憫だな。
しかし、昨日の態度をみている限り、このクラスでよかったらしいし。
「おはよう。ラン、アンセル。」
「おーおはよう。」
「おはようございます。」
噂をすればなんとやら。
クインがやってきた。
「元気そうだな。」
「ああ。今日はよく眠れた。」
「…王宮では、あまり寝れないのか?」
頷くクイン。
「王宮だと、決まった時間に起こされるし、決まった時間に寝ないといけないし、庭でほかの人とコミュニケーションをとることすら叶わないことだが。…ここは違う。」
まだ10時なんだけどな。
アンセルもだんだん早起きになってきたし。
「…王宮では9時寝7時起きだ!」
「小学生か!」
いかんいかん、ツイ突っ込んでしまった。
それほど、普通ではないと言うことか。
なんてこった。
「なんなんだその鬼畜。」
「…だよな…。」
ショボーンとしたクインをみて、すこし同情した。
…9時って。
俺、遅いとき飯食ってるぞまだ。
さらに遅いとき、まだカレルと訓練をしているぞ。
…ルークさんに勝てるくらいになったのは、俺の魔力量が多くなっただけなんだよ。
…カレルと戦って分かる。カレルは剣の筋も、その動きも。すべてが訓練され、精錬されてできあがったものだ。
たしか、カレルは剣術を習って23年と聞いた。
今28だから、5歳の時から訓練を始めていたこととなる。
…俺が勝てるわけ無いよ…は日本人の考え方だ。
俺は自由になった。カレルができるんだったら俺にもできるさ。
「まあ、また1年自由なんだろう?」
「…ああ。…ランとどこか行きたい。」
「俺限定っ?」
「…みんなと行きたい。…初めてできた、『友達』…だから。」
よし。
うつむいたクインの頭を撫でてやった。
ありがとうございます!