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醒眼族の異世界学園覚醒譚  作者: 天御夜 釉
第2部、第2章 学園に帰ったら、色々事件が起こってしまい困r(以下略)
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図書館事件3

最後まで読んでいただけたら光栄です!

 現在、俺は大変な危機に陥っている。



 普通ならば内側からドアノブを回せば開くのだろう。

 しかし、運悪く内側のつまみは錆びついて全く回せない。つまりこの扉は外側からしか開かない。

 さらにこの客の少ない図書館の一番奥の場所だ。

 誰かが気づいてくれる可能性は極めて低い。


 たとえ奇跡的に発見されたとしても、この少女と一緒に密室に閉じ込められていたというだけで変な誤解が生まれるかもしれない……。

 俺が閉じこめたとかな!


「あの…スゴイ汗ですけど大丈夫ですか?」


 いきなり声をかけられたので、驚いて飛びのいてしまった。

 その反動で本の山に突っ込み頭の上に小さな文庫本がいくつか落ちてきた。

 ジンジンする頭をさすりながら、問い返す。


「そうか? 別に普通だ。」


 そう言いつつ額に手を当てた。

 口では普通などと平然と言っては見たが、かなりの汗がにじんでいる。

 それもそのはず、この書庫はいたるところに本が敷き詰められていて、かなり狭かった。

 そして暑い。ここ書庫だろ。ちゃんと温度調節しろよ。

 と思ったが、魔法で何とかしているんだろうと思って文句は言えなかった。


 アヤヒメとの距離が1メートル…1メーティラあるかないかという近さだからだ。

 薄暗い書庫の中でも彼女の顔ははっきりと見えるほど色が白く、綺麗な瞳をしていた。


「とりあえず、どうしましょうか?」


 彼女が困った顔で聞いてきたので、お互いに自己紹介することを提案してみる。

 するとアヤヒメは軽くうなずいて、簡単な自己紹介をしてくれた。

 そして俺も自己紹介をする。







 その後、他愛もない、とぎれとぎれの会話が続き…かれこれ2時間くらいしただろうか、会話がプツリと切れてしまった。

 長い沈黙が続く中、出入り口の扉の近くで人の足音が聞こえる。


「誰か来たんですかね?」


 アヤヒメはそう言って立ち上がろうとする。

 しかし長い間座っていたアヤヒメは、足が思うように動かず、立ち上がることができず前方に倒れこんだ。

 もちろんその前方にいるのは





 ……俺だったぁ…。


「ひゃっ…!」


 小さな悲鳴と共に、俺はアヤヒメを抱きしめるような形で支えていた。


「あ…ゴメンなさい。」


 アヤヒメが小さな声でそう言った。


 俺の脈拍が急速に早くなって行くのがすぐにわかった。

 その時、キィィと黒い扉が開く音が聞こえ。

 その扉の前に立っていたのは…入学前のグレイシアだった。



 ……終わった。

 誰にも聞こえないくらい小声で呟いた。


「…ゆっくりどうぞ…。」


 グレイシアはそう言って扉を閉め…。


「待ってくれ!」


 急いで扉に駆け寄り、閉まるのを阻止する。

 あと数センチといった隙間に指を突っ込み扉は止まった。


「……別にもう覗いたりしませんので、好きなだけ抱擁なりキスなりしてください。」


 いつも何かにおびえるようにボソボソとした口調で話すグレイシアが感情交じりの声を出すのは非常に珍しい。

 このまえ、クインにキレた時以来か。


「…グレイシア…、怒ってる?」


 恐る恐る聞く。


「そんなに怒ってないです。ラン様も男の子ですし…。英雄は色を好みますし。」


 グレイシアはそう言いながら、扉を全力の力で閉めはじめた。


「痛い! 痛い! 指が折れるぅぅぅ!!」

「折れても問題ないですよね。」


 恐ろしく低い声が耳に届いた。

 すると俺の背後でアヤヒメが手を上げて、違いますと大声で叫ぶ。

 その声を聴いてグレイシアが力を弱めた。


「グレイシア様、これは私が転びそうになった所をラン様が支えてくれただけで決して抱き合っていたわけではないんです。」


 グレイシアは少し考えコクリと小さくうなずき、再び力ずくで扉を閉めはじめる。


「痛い! 痛いって! アヤヒメの話聞いてなかったのか? あれはたまたまで、痛!」

「どうせ口裏合わせてるんですよね!」


 グレイシアが叫ぶ。

 ちなみに、魔法を使おうとする余裕もないほど痛いため、集中することすらできない。


「んなわけないだろ、てか本当に指が折れるよ!」

「…じゃあ私を抱きしめられます? というよりそもそも、その娘、レイカー家の侍女じゃないですか。」


 グレイシアが消え入りそうな声でつぶやく。


「…。わかりました。」


 即答で返すと同時に再び指が潰される激痛が体中を走り抜けた。

 俺は最後の力を振り絞って、叫んだ。


「なんでやねん!」


 すると扉が静かに開いた。

 自分の指を見てみると第二関節より先が真っ青に変色している。


 俺とアヤヒメは約4時間ぶりに外に出た。


「さあ、抱きしめてみてください……。」


 グレイシアはそう言って俺に近づいた。

 ……なんか怒ると性格が大胆になってるような気がする。

 しかも、こういうシチュで抱きしめるのは、少し緊張してしまう。


 俺は一度深呼吸をして、グレイシアの肩に手を伸ばす。

 ……何だか背後から妙な視線が……。

 俺は振り返ってアヤヒメに視線を向けた。


「悪いけど、どっか行ってくれる?」


 アヤヒメは慌てて近くの本棚の影に歩いて行った。

 そして本棚の影からわくわくした目でこちらを見つめている。

 立ち去る気は毛頭ないらしい。

 ……人が見てると思うと余計にやりずらい。


「早くしてください、私そんなに暇じゃないんですよ?」


 グレイシアが怒りをむき出しにしたように言う。

 俺だって暇でこんなことしてる訳じゃないんだけど。


 再び両手をグレイシアの両肩に乗せる。


「ラン様、頑張ってください。」


 そんなささやかなアヤヒメのエールが聴こえた時には、もう顔から煙が吹きそうな気持ちになっていた。


 ぎゅ。


 俺はグレイシアから離れた。

 するとグレイシアはうつむき、息を漏らす。

 次の瞬間顔を上げ、ニッコリと笑った。


 グレイシアは満足そうに笑うと背を向けて立ち去る。

 その後をアヤヒメが追いかけようと走り始めた。











「……ったく、散々な一日だ。」


 頭を軽く掻きながら独り言をつぶやく。

 今日の空はとても澄んだ色をした青空だった。とても気持ちの良い風が頬を撫でる…。


 空を見上げると小鳥が花びらを巻きながら空を飛んでいた。

 おそらく、下級魔獣のフラワーウィングだ。


 鳥は風の力がなければ遠くまで飛ぶのは難しい。それは魔獣でも同じことで。

 途中で力尽きてしまう。風が吹くから鳥は高く遠く飛ぶことができる、また鳥が羽ばたくことで風が生まれる。

 俺とグレイシアだけではない。俺とみんなの関係がいつかこんな互いが存在するから生きていける…、そんな関係になるだろうかと、ふと欲を出して考えてみた。






 次の日の夕方、ミレイからメールが届いた。内容は、


「この写真、2万イデアで買わない?」


 と書かれたメールの下には…俺がグレイシアを抱きしめた、写メが貼り付けられていた。

 お前も彼女だろ。

 でも、ちょ、ま…。







 俺は端末をベッドの上に放り出し、金を卸すため急いで夕日が射す中、銀行に向かって走っていった。


ありがとうございました。

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