背負えるもの2
少女は、好きな人に縋ることすら許されない
最後まで読んでいただけると光栄です。
「…ランは、前の世界はどんな人だったんだ?」
「…そうだな…少なくとも、こんなにいい体もいい顔もしてなかったな。」
モブの顔。運動系なのか文化系なのかよくわからない身体。
普通だ。限りなく普通で、特に部活も入っていなかった。
普通ではなかったのは、可愛い幼なじみがいたことか。
「今の世界と、前の世界はどっちの方が好きだ?」
「…好みの問題じゃないと思うぞ? …でも、戻りたいとも思わないな。…この世界、背負うものがいくつも立て続けに出来たからな。」
自由だし。ここ。
この世界の方が暮らしやすい。
「ラン。…本当に、宮廷入りしないのか?」
「…俺は自由が好きだ。」
簡単に答える…が。
クインは、すがるような目で俺を見ていた。
…その顔は、心なしか…幼い少女の泣き顔を連想させた。
「…どうしてもか?」
なんだろう、とても断りづらい。
さらにいうと、クインは両手を俺の首に回していた。
監視の目がないとはいえ、やりすぎだ。
彼女の細い手が、俺の首を這う。
…いや、這うと言えば言い方がひどい。
「クイン、お前を泣かせたってなれば俺完全に死刑だから。」
「…でも、好きだ。」
「あ゛…。その話を持ち出すか。」
…最終手段に出てしまったぞ陛下よ。
そんなこと言ってしまってもいいのか?
俺、どうしても自由がない生活が嫌いだから肯定する理由がそもそも見あたらないんだが。
気の毒だ。どうやって考えても、クインが気の毒だ。
…本人のことなのにな。
「…ごめん、そうだとしても、俺は宮廷に入るつもりはない。」
「…どうしてくれれば、承諾してくれる? 金か? それとも、私の身体か?」
「…自由だ。…宮廷にはいると、自由がなくなるのは目に見えている。自由に言いたいことをいえて、自由にどこにでも行けると言ったような生活がしたいんだ。」
クインがうなだれた。
「…私が抜けると、王宮には跡取りがいない…。だからといって、グレイシアを犠牲にするわけにも行かない…。でも…ランが好きだ…。」
普通だったらよかったのに、とクインはつぶやく。
何度も。
何度も。
「…俺のどこが好きなんだよ。」
「どこもかしこもすきだ。」
陛下…。
そういう対応に困る反応はやめてくれ。
頼むから。
しかも目は潤んでいる。
…ちょっと。
ちょっと待ってくれ。
「…ラン様?」
キター!
助け船キター!
グレイシア流石!
ナイスタイミングで!
「…ラン様、何を…。」
どん引きされてる。
まって、これには深いわけが…。
「お姉さま! ラン様に色気を使うのはおやめください!」
「…グレイシア…。待ってくれ。…私は…。」
グレイシアはクレインクインに怒っているようだ。
…え、ここで姉妹喧嘩?
「…お姉さまが、ラン様に対してただならぬ感情を抱いているのは承知の上ですが! …少しは…控えてくださいよ。」
「…すまない。…本当にすまない。」
クインはいっさい何も反論しなかった。
出来なかったのだろうか。
…手が震えているのがわかった。
「クイン。」
「…いいんだ。すこし気を落ち着かせてくるな。」
走り去ってしまったクインを、俺は見つめることしかできない。
「ラン様?」
グレイシアの呼びかけに、俺は返事すら返すことが出来なかった。
------------------【クイン視点】
「はぁ…っ。」
どれくらい走っただろうか。
…どれだけ、私は…。
偽善者なのだろうか。
普通に生まれたかった。
普通に生活して。
普通に恋して。
普通に働いて…。
生まれてこのかた、一度も…。
願いが叶えられることはないと思っていた。
なのに、ランは。
…普通にしゃべりかけてくれる。
陛下とではなく、同年代の少女として…。
…なんで。
なんで私は…。
こんなに、自分が惨めに思えてしまうんだ…。
ご閲覧、誠にありがとうございました。
これからも、よろしくお願いします!