決着
「『アッパー』、発動。」
俺は、1年前、何故死んだかを思い出した。
幼なじみの少女と喧嘩したのだ。
泣かせてしまったのだ。
そこのショックから、俺は謝る。
逃げる。
で、フラフラと歩いていたら、鉄骨に貫かれた。
…全部、自業自得だから。
だからこそ、この世界では、俺のせいで泣かせたくなかった。
助け、求めてほしくなんてない。
でも…。
大切な人が、涙を流すくらいなら。
…俺は…!
戦う。
「『アッパー』…だと?」
リンを泣かせる?
…散々姑息な手を使ったのに、まだそんなことをするのか?
許さない。
絶対に、許すわけには行かない…。
《闇魔剣》を消去して、拳を握る。
「これでも食ら…え…?」
ランレイが射出したチェンソーを。
俺はそのまま掴む。
…スーパーサ○ヤ人になった気分だ。
そのまま握りつぶす。
手すら傷つかない。
チェンソーが原形をとどめなくなり、ランレイの顔がゆがむ。
「あ…ああ…。や、やめてくれ…。許して…!」
絶望の喘ぎ。
それが逆に俺の逆鱗に触れる。
「許せると思うか?」
射出したチェンソーから垂れている糸…これ、ナ○レのあれだろ。
それを見つけるなり、思い切り引っ張ってこちら側に寄せ。
渾身の力込めて腹を殴りとばす。
闘技場の端から端まで吹き飛ばし、チェンソーと彼の腕は完全に分断された。
彼の最後の【腕輪】が、砕けて霧散する。
…『アッパー』発動時は、おそらく殴りで人を殺せるんだな。
…いや、さっきの剣戟が影響してるか。
その間に、リンに近づく。
「……。」
「何も言わなくていい、待ってろ。」
涙を拭ってやる。
そして、猿ぐつわをはずし、手錠を引きちぎる。
あっけなく千切れた。
魔法封印の石って聞いたから、『アッパー』もかと思ったが、違うみたいだね!
「…何もされてないか?」
「うん…、ランっっっ…。」
頭を撫でてやる。
と、後ろで動く気配。
相手はすでに腕輪がない。
俺が勝っているんだが…。
彼に向かって俺が跳躍するのと、
ルルルルルの学園長が発言をするのが同時だった。
「…ラン・ロキアス君。…決闘は終わりました。」
「……。」
俺は返事をする気も起きなかった。
胃が煮えくり返る思いだった。
「そこのギリス・ランレイ君に関しては、理事会で然るべき対処をします。…ここは一旦、引いてください。…あと、あなたには期待できそうです。」
…対処がしょうもないものだったら、そのときにまた殺せばいいかな。
そんなことを思いながら、自分に対して唱える。
たぶん、発動だから解除っていえば元に戻るはず。
「『アッパー』、解除。」
そして俺は、気を失った。
目を開けると、自室の天井が見えた。
…いや、俺どうしてたんだっけ。
あ、『アッパー』を解除したら、ぶっ倒れたのか。
…だめだな、もっと訓練しないと。
「…ラン? 起きたの?」
心配してくれているような、そんな声が聞こえる。
思えば、手は包まれているような感触がした。
「ラン君? …私たちのこと、分かる?」
幼げなかわいい声だ。
首を右の方に向けると、リン、アンセル、リンセル…ウスギリが勢ぞろいしていた。
「…多分。」
「そっか…よかった。」
げ、力が入らない。
「…かっこ良かったよ。……君に似てた。」
…誰に似てたんですか、俺。
しかも、アンセルがかっこいいとか言うな。
無表情だから感情が分からんわ。
「おねーちゃん、それは言っても意味ないよ。」
「…ごめん。」
ウスギリは、俺の方を笑顔で見つめていた。
気になったことを、おそるおそる聞いてみる。
「…アイラって、誰?」
「…ああ…、アイラは俺の幼なじみだ。…もう、死んだ。」
一気に部屋から言葉が消えた。
ウスギリは、悲しそうに言葉を続ける。
彼の顔は、歪んでいた。
今にも泣き出しそうだった。
「美しくて、可愛いサミュリだった。 俺のことをずっと気にかけてくれて、とても献身的だった。でも、それは俺が11歳のときまでだった。」
彼の手は、堅く握られている。
「彼女の武器は、目だった。…普段は黒いけど、武器化するときは赤く変わって相手がどうやって動くのか、俺に教えてくれた。でも、その能力を欲しがったランレイに弱点を付け入られて、誘拐された。」
その間、リンセルは涙をにじませながら、俺の額に乗っているタオルを交換する。
…妙に体が熱いと思ったら、熱か。
それより…、あの時殺しておけば良かったな。
「警察が、ランレイの家から遠く離れた小屋でアイラを見つけたとき、すでにアイラは無惨な姿で捨てられていた。目も当てられなかった。病院の魔術師が癒しの魔法をかけても手遅れで、彼女は俺の目の前で死んだ。…最後に『ごめんね、大好きだったよ』っていう言葉を残して。結局、ランレイは『力』を手に入れられなかったし、結局…!」
抵抗したんだろうな、とウスギリは呟く。
「俺は、遺族からそのあとに、彼女が俺のことを大切に思ってくれていたことを聞いた。で、形見は彼女のパーツと…」
俺に対し、ウスギリは一本のネジを見せた。
少し特徴的なネジだ。…ウスギリはこれを自分のブレスレットに組み込んでいるらしい。
「このペンダントだ。」
その中身は、金髪の少女の写真だった。
機械的な印象はいっさいなく、本当に可愛い。
サミュリには、見えなかった。
「だから、本当はあのとき、…乱入しようかと思ったけど。…そんな必要はなかったな。…ありがとう。」
俺は、何もいえなかった。
…重すぎる。
…と、アンセルが口を開く。
「…おかん、ご飯。」
「ちょっとは空気読めよ!」
しかし、怒っている様子はなかった。
ただ、優しい目でアンセルを見、立ち上がる。
「今日は寿司にするぞ。」
うお、この世界に来て食えるとは。
ウスギリ…、すごいなお前。
あと、気を失っていたのが4時間くらいでよかったです。
次回から第2章です。
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。