姑息
サミュリ、という種族は魔法が使えない。
つまり、彼はずっと俺に近づいて、近接攻撃を繰り返す…んだけど。
「おっと。」
当たらない。
しかも、魔法じゃないから一昨日のゼイルの魔法よりも遅く見える。
「いや、これ、1個もいらないと思うんだ。」
「減らず口をたたく暇はあるのか?」
ある。
いや、これは…いつでも相手をぶっ叩ける。
軌道が余りにも単純すぎる。
それに、それがパターンとして入っている。
3週くらい見て、その後はそんなに気にしなくても良くなった。
ルルルルルの学園長が、興味深そうにうなずいているけど。
うん、だんだん女子の歓声も小さくなってきたけど。
「えっとあのー。そろそろ決めていいかな?」
「ふんっ!」
ランレイは答えず、大きく横にチェンソーを薙ぐ。
やっとイレギュラーな攻撃だけど。
それをジャンプで避ける。
イヤッホーゥ!
「何故だ…何故当たらない!」
「いや…瞬発力あるし。」
あるしお寿司。
いや…うーん。
サミュリって、頭いいんじゃないの?
あれか、時間切れであっちは攻撃を繰り出したのに、こっちは攻撃してないからあっちが有利って思わせる作戦かー。
きたねぇ。
マジ嫌い、こういう人。
彼の一瞬の隙で、思い切り跳躍する。
「【闇】属性上級近距離創造魔法、《闇魔剣》。【闇】属性上級近距離創造魔法、《闇魔剣》」
「なんだってー!?」
…うおおおおお。
体力めっちゃくちゃ削られた。
魔力を使うのには、必要だからねえ、体力も。
いや、エリシュみたいな遠距離なら魔力で事足りるんだけど、近距離はそうも行かないらしい。
つかれた。
なんていうの、2本作り出すときは単純に2回削られるから…。
【犠牲の指輪】を一つ、地面に落として《闇魔剣》で突き刺す。
「あ、体力戻った。」
「は?」
あ、これはサイコルとウェイカー、フライドしか使えない方法だよ。
いや、真似しても意味ないって。
一昨日ゼイルと決闘するとき、アレルさんが教えてくれた、裏技だ。
誰にも装着していない状態で、【犠牲の腕輪】を破壊すると、中に内蔵されていた防御膜が、体力・魔力になってそこから一番近い人に取り込まれるっていうヤツ。
ウェイカーとサイコル、フライドは、体力・魔力を酷使する種族であるために取り込もうとするけど。
サミュリは魔力がそもそも存在しない、つまりは魔法を使えないし、ほかの種族も一般的に片方しか使わないから、取り込もうとしないらしい。
「…ってことで。」
ランレイに対して一気に突進する。
相手もチェンソーを鳴り響かせる。
が、単純すぎる。
これなら、銃火器を積んだ方がいいと思うぞ。
守りも単純か!
まあ、サミュリは生まれたときからサイボーグらしいけど。
そこは異世界なのね。帝王切開しか無理そうだね!
「んぐぅ!?」
右手の《闇魔剣》をチェンソーと打ち合わせて、左手の《闇魔剣》で腹を突く。
一回二回、三回。
反動からそのまま、次にむかったらギリスはさすがに慌てたようだ。
簡単に言おう、致命傷を肩代わりするだけで本当に痛いぞ。
リンとの最初の魔法訓練…。
殺されかけました。
うん、あれは絶対にトラウマ。
モニターをみると、残り1分の相手の【腕輪】は残り1個か。
俺は最初からつけてないから2個のままだ。
「や、やめてくれ!」
もう一突きしようとしたら、慌てて声をかけられる。
一瞬手加減した、俺は次の瞬間後悔した。
ランレイが手を挙げると、猿ぐつわを噛まされたリンが出てきたからだ。
「…何のつもりだ。」
「降参したら、離してあげてもいいよ。」
手錠で繋がれている。
それに、何かの石が埋め込まれている。
「ああ、これ? …きれいでしょ。手錠で繋いでいる人の魔法を封じる手錠だよ。」
ランレイがリンの頬を撫でる。
…学園長が何も言わないのは、これも決闘では付き物らしいからか。
さすがに、度を超したら雷が落ちるんだろうけど。
リンが泣きそうな目で俺を見つめてくる。
…ちょっとキレそうです。
殴っていいですか?
「美しいよね、さすがって感じだよね。」
「リンを離せ。」
「だから、降参しろと言っている。」
頭脳戦も決闘のうちか。
…リン…。
「…降参しない限り、どうなるか分からないぞ?」
リンが俺に対して首を振る。
…もう、いいんだよ。
そんな顔で俺をみないでくれ。
…俺に、助けを求めないでくれ。
俺はただの…。
「本当に、お前卑怯だな…!」
ウスギリがキレ気味に叫んだ。
「なんだよ、ゲン。…君が俺に声をかけないでくれるかな。」
「…お前がアイラを監禁・暴行したのは知ってるんだよ!」
…はぁ?
リンが、その言葉を聞いて恐怖からか、涙をこぼす。
俺の紋章が、黒いウェイカーの証が、光った。
不思議と、どういう意味なのかはわかった気がする。
『…今すぐ助ける。』
リンに『テレパス』を送り
そして俺は、宣言した。
「…『アッパー』、発動。」




