クレインクインとグレイシア
どうぞお読みください!
今、俺は微妙な気持ちで王宮の中につれられていた。
目の前でカレルと楽しそうに話をしているのは、カエシウス聖王国…聖王陛下のクレインクイン・ゲイボルグ・クライノートである。
外見は美しい少女だ。本当に未成年なんじゃないかと思ってしまうくらいだが…。
顔から何まで、すべてが整っている。いや、整いすぎている。
白い、とにかく白い。
髪の毛から目から。肌まで白い。
…まって、どっかで見たような気がする。
「カレル・アテラット…うむ、話は聞いているぞ。【クレアシモニー学園】の若手ナンバーワン。」
「ナンバーワン…いえ、若手が3人しかいないんですが…。」
「そうか。…私もあそこの生徒だからな。」
生徒ぉ!?
…なるほど、もしかして、この前男女ペアで俺たちとすれ違った片方か?
…疑いの目でみつめていると、聖王陛下はこっちを見てにっこりと笑った。
…うへえ、ふつくしい。
普通の男なら1秒で陥落する。
…だが残念だったな! 俺はまだマシだ!
「ん、本名を隠して登校しているが? …今度会ったときに教えようか?」
「それ、機密情報…。」
「大丈夫だ、クライノートは前代のまま、まだ入れ替わっていないという状態のはずだ。私も学生の身分であるからにして、最後まで在籍しろとの父上からの指示でな。」
前聖王陛下、むちゃくちゃな指示を娘に出しますな。
…それにしても、ちゃんと適応できているのか?
「ロキアスの強さは、直に見てきたから分かるぞ。…できればカエシウスに欲しいくらいだ。」
傭兵として、と言われた。
欲しいって言われても…。
俺、特定のどこかの国に所属するつもりはないし。
誰かに仕える気はないし。
そんなことを考えながら歩いていると、一人の少女を見つけた。
現聖王陛下に話しかけようとして、躊躇って、下を向く。
もう一度顔を上げて、話しかけようとして、躊躇って、下を向く。
もう一度顔を上げて、話しかけようとして、躊躇って、下を向く。
…これが延々と続いている。
…コミュ障?
「…?」
「ああ、第二王女で妹のグレイシアだ。すこし引きこもり気味でな。」
俺の視線を感じ取ってか、紹介してくれる。
…ひきこもりかー。ヒッキーかー。
容姿は陛下と同じくらい麗しいのにね。
こうやってみると、リンセルとアンセルを思い浮かべるな。
どっちも白いし。キャラかぶってるし。
「…ようこそ、カエシウスへ。」
ぼそっとグレイシア王女がつぶやいた。
うん、可愛い。
…王女にこんなこと思っちゃいけないんだろうけど、可愛い。
「グレイシア、すまんが、この二人の部屋を探してくれないか?」
「…それは、王宮内ですか? 姉様。」
「うむ。」
王女が俺たちに礼をして、なぜだか俺と一瞬目を合わせて、にこっと笑って。
どこかに行った。
「…う、そんなに畏まらなくてもいいぞ、ロキアス。同級生なのだからな、敬語は必要ない。」
「…了解…?」
同級生?
…うん、本当に学園内にいるんだな。
探そう。
「ずっと思っていたことだけど…。なぜ、俺たちをそんなに?」
「信用するか、か?」
はぁ、とため息。
そして俺をしっかり見つめる。
目力すげえ。
「『セリシト魔法王国』の大賢者、マレイグ・パン・リーフから信用できる人間だと言われているからな。枢軸国同士、一人の王が言ったことは信用する決まりとなっている。裏切ったら、ポラリスが管理する仕組みだ。」
ポラリス。…小都市国家だと思ったら、すごい役割を担っていた。
「ロキアス、君にはすべきことがある。それは何か?」
「…?」
「…アンセリスティア・フレイヤ・レイカーと、リンセルスフィア・フレイヤ・レイカーのふたりを救うことだ。【聖魔の牙】よ。」
…なるほどね。
広まっているわけね。
…俺の噂。
「【伝統】とはいえ、カエシウス聖王国の国民を一人でも無駄に死なせてはならない。…一週間後まで、何でも必要なものがあったら遠慮なく言ってくれ。」
「実に言い出しにくい。」
宝玉を鑑定して欲しいし、他の能力も知りたい。
「…安心しろ、ここにいる間は最重要要人として登録しておくから。」
「…そういう問題じゃないよ。」
うん、そういう問題じゃないんだ、分かってくれ。
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簡素だけど、豪華さがにじみ出るような部屋に通された。
…うん。すごいねここ。