不安
どうぞお読みください!
------------------【リンセル視点】
私とお姉ちゃんは、ラン君と別れて車に乗っていた。
…ラン君と、すぐ再会できるって信じながらも、どこか…不安が。
お父さんは強い。
考えられないほど強い。
…なのに、ラン君は歩みを止めてくれない。
…私たちを助けるために…。
「…あれが、ラン・ロキアス。」
「何が言いたいのです?」
「…いえ、マスターとお嬢様を虜にしている男を一目見たいと思いまして。」
お姉ちゃんのことを「マスター」と呼んでいるのは、ゼロ=オールって呼ばれるサミュリ。
いろいろと諸事情あって、今の状態に至っている。
…お姉ちゃんは何かに感づいたみたい。
「…まさか。」
「【あの日】の防衛戦に、私も参加しますが。…この調子だと、余裕そうですね。」
…余裕?
魔法も使えない、貴方が、余裕っていえる根拠はどこにあるのか。
また、その自信はどこからくるのか。
私は、我慢できずに口を挟んだ。
「…ゼロ。貴方の判断は間違ってるよ。」
「根拠は?」
「…ギリス・ランレイと、リュー君を殺した人たちを、ラン君は打ち破ってるから。」
ゼロ=オールの目が見開かれるのを雰囲気で感じながらも、私は話すことをやめない。
…ラン君は、今まで私が見てきた中で、特異だから。
…ほめ言葉です!
「そもそも、貴方はサミュリで魔法が使えない。相手は3しゅ…4種族混血。」
「失礼ですがお嬢様。…魔法が使えない、ということはハンデになりません。…私は、マスターに【遠近両用護衛型】として、改造されています。」
たったこの前、4種族混血になっちゃったんだっけ。
…ラン君の身体、紋章だらけになっちゃう…。
また身体のどこかが機械になっちゃったり、翼が生えたりするのかな。
…なにそのキメラ。
…レザールとカラミタは見たことないから知らないっ!
「…後で泣きを見てください。…サイコル・ウェイカー・エリシュ・ケレイジの4種族混血に加え、【火】・【氷】・【光】・【闇】という4属性を扱える人は、彼しかいませんから。」
お姉ちゃんが、ゼロ=オールの背中をにらみつけながらつぶやく。
…ラン君、貴方は常軌を逸してるよね。
…でも、そんなラン君も大好きだよ。
…本気で好きだからね…?
「…楽しみにしています、マスター。」
彼の口調は、皮肉めいたものだった。
…バカにしてるんだね。
4時間くらい【デルエクス】が走っていると、あたりは雪景色に変わっている。
…そろそろ、カエシウス聖王国。
…今の季節だと、銀色の世界に変わっているんだろうなぁ…とか考えたり。
ラン君とこんなところ、散歩してみたいなーと思ったりもする。
「…。」
「綺麗…。」
…雪が、私の感情を表しているようで。
…なんだか、寂しい気持ちになった。
ラン君…今頃、なにしてるのかなって。
いつもラン君のことを考えちゃうの。
大好きだから。
「泣いても、何にもなりませんよ。」
「…わかってるよ…お姉ちゃん。でも、なんでだろうな…。普通のお嬢様だったら、今頃ラン君と…って考えたら…。」
無意識にこぼれてた涙を指でこする。
こんな顔、ラン君に見せられないや。
…ラン君、心配するから。
「このあと、幾らでも時間はありますよ。…ラン君を私は信じています。」
「ラン君…、最後に、大好きって言いたかったよ…。」
そう思いながら、【デルエクス】の外をもう一度見やる。
空は、相変わらずの雪景色。