二人で買い物
モモが目を輝かせながら雑誌を見ている。
「はぁ、こんなアクセサリーいいですよねぇ……」
ため息までつく始末だ。
どれと思い、その雑誌を見ようとするがモモに妨害されてしまう。
「モモさんや。なんで邪魔するのかな?」
「ご主人さん。女の子の本は夢と秘密がつまってるんですよ」
なるほど見られたくないらしい。
「それならば」
日ごろ鍛えた想像力を発揮しよう。
ヒント1:分類はアクセサリー
ヒント2:モモは犬妖
ヒント3:見られたくない類のもの
「なるほど、首輪か。流石にそれは特殊な趣味だと思うぞ」
「ご主人、寝言は寝てる時に言うんですよ?」
笑顔のモモさんの額には怒りのマークが見える。
「いや、モモさん。モモさんならきっと似合うって!」
「ご主人はモモを首輪つけて散歩させるような鬼畜外道だったんですね……」
しばしの沈黙の後、どちらからともなく笑い出す。
「モモがそのアクセサリー欲しいのなら今度見に行かないか?」
「先に言っておくが、高いのは無理だぞ」
モモはキョトンとした顔を見せた後、顔を染めてもじもじし始める。
「ご主人……、なにか企んでるんじゃないでしょうねー」
「何を勘ぐる。可愛いモモの為だからな、コレくらいはするさ」
「もー、そんな恥ずかしい事真顔で言わないでくださいよ!」
赤くなったモモも可愛いものだ。
結局、今度の週末に駅前でウィンドショッピングをする事にする。
モモはそれ以来始終ご機嫌で、晩飯のおかずが1品増えていた。
「はー人も車もいっぱいですね」
「モモはこの辺りまでは来ないのか」
「一人で出歩くのは家の周りだけですよ」
駅前をモモと歩きながら、そんな会話をする。
「縄張り、見たいな感じなのかな。一人だとあんまり遠出はしたくないですよ」
だから、とモモは続ける。
「今日はご主人と一緒に来られて嬉しいです」
えへへと笑うモモの笑顔は眩しくて、つい目をそらせてしまう。
「そうだモモ。買いたい物の場所はわかってるのか?」
「はい、バッチリです。ちょっと奥の方にある店なので、しばらく歩きますけど」
余所見をしたのが悪かった。
反対側から来た通行人を避けようとして、バランスを崩してしまう。
しかしモモが受け止めてくれたおかげで何とか転ぶ事は免れた。
「悪いな、モモ」
「ご主人、ちゃんと前を見てくださいよ」
俺をしっかりと抱き留めたままモモは言う。
「財布とか大丈夫ですか? 足はひねっていませんか?」
「確認するために放して欲しいかな」
流石に公然と抱きついているというのは、人目をはばかる。
しぶしぶと言った感じでモモは離れるが、その手は名残惜しそうだ。
「腕を組む」
「え!」
モモの顔が輝く。
「のも恥ずかしいから駄目だ」
「ですよねー」
しゅんとなるモモも可愛い。
「だけど、手ならつないでいいぞ」
そう言って、モモの手を取る。
「さ、案内は頼むぞ」
促すと、モモは何も言わず足を速める。
その時の表情は、見る間でもない事だろう。
モモに引かれてやってきたのは駅から離れた裏路地にある、怪しげなビルが建て並ぶ地区だった。
「モモさんや、場所は間違っていないかい?」
「大丈夫ですよ。……たぶん」
「今たぶんって言ったよね!?」
「こっち、……かな?」
「無視しないでー。あと疑問系ですよー!」
不安はない。犬妖のモモのことだから何かあっても自分の身は守れるだろう。
しかし、如何わしい看板が並ぶような通りをモモと歩くという行為が理性を縛り付ける。
「ありました。ここです!」
モモの指した先には、
「休憩5000円」
「ちっ、違いますよ! その隣です!!」
「さあ行きますよ!」
モモは有無を言わせぬまま俺を引きずり、休憩の看板をスルーして隣のビルへ入っていく。
「で、ここに居ると」
モモにつれられてきたのは、安ホテルの隣に建っていたミリタリーショップだった。
様々な銃器や迷彩服などの軍需物資が並ぶ、一般人にはちょっと入りたくないような類の場所だ。
「モモ、こんな所につれてくるって言う事は」
「はい、ご主人。私が欲しいのは……」
『ドッグタグ』
軍隊で使われている認識票の事。
名前や所属などの個人情報などが載っている。
犬の名札に似ていることから付けられた通称
「うん、犬だしな」
「なにか失礼な納得の仕方をされた気がしますが」
モモは買ったそれを早速首からぶら下げて磨いている。
「本当は首輪でもよかったんですけどね」
「うーん、俺はそっちの趣味は無いからなぁ」
本当に気に入っているのだろう。モモの様子は嬉しさというのを体現している。
「モモはミリタリーの趣味なんてあったんだな」
ふと思って聞くが、その答えは意外なものだった。
「いえ、ぜんぜん興味ないですよ。コレが欲しかったんです」
「欲しかったのはモモがモモである証」
あやかしは、名を得る事で個を得る。
だからモモは、モモである証を認識票という形に求めたのだろうか。




