第99話 帰郷の贈り物
北方領の開拓都市での慌ただしい日々をひとまず区切り、私は久しぶりに家族の元へ一時帰宅することにした。
書類や商会の帳簿を片付け、次の施策を頭に描きつつも、心の奥には家族の顔を思い浮かべる喜びがあった。
(父は最近、都市の経済報告を楽しみにしているだろうし、母は相変わらず宝飾や仕立ての話に夢中だろう。マリアンヌとアスランは……まだ幼く、ちょっとした贈り物でも喜んでくれるはず)
帰宅前、私は手早く贈り物の準備を進めた。北方領の都市での商会活動の合間を縫い、各自に似合うものを選んだ。
父には地酒ビールと日本酒の飲み比べセット。父の嗜好に合わせ、香りと味の異なる酒を揃えた。
母には三連パールのネックレス・指輪・イヤリングのセット。控えめでありながら存在感のある品を選び、母の品の良さを引き立てることを意識した。
妹マリアンヌにはお絵描き帳と色鮮やかなクレヨンのセット。まだ幼い彼女が思う存分、自由に創作できるように上質なものを用意した。
弟アスランには滑らかに書ける万年筆を贈る。文字を書くことに興味を持ち始めたばかりの彼には、インクの流れやペン先の感触を楽しんでもらえるはずだ。
すべて自分で選んだ、手渡し用の贈り物。北方領でのネットショップの存在は家族には秘密にしている。あくまで「都市で見つけた素敵な品」として渡すつもりだ。
誰にも知られぬ形で、都市と家族の間を結ぶ私だけのささやかな橋だ。
家に到着すると、久しぶりの門をくぐる。
「……ただいま」
声に少し力を入れる。門番も目を見開き、にっこりと微笑む。
家の中に入ると、父は書斎の机で資料を確認していた。
「おお、レスティーナか。久しぶりだな」
笑顔で迎えられ、心がほっと温まる。
私は微笑みつつ、父に地酒ビールと日本酒の飲み比べセットを手渡した。
「父、少し試してみてください」
父は箱を開け、香りをかぎながら目を輝かせる。
「これは……面白そうだな。北方領で見つけたのか?」
「ええ、街で見つけたものです。香りや味を比べて楽しんでください」
父はグラスに注ぎ、一口味わう。
「ほう、なかなかの選択だな。さすがレスティーナ」
次に母のもとへ向かう。居間で刺繍をしていた母は、私の手にした小箱に気づき、顔を上げた。
「まあ、レスティーナ。何かしら?」
「母、これを……」
三連パールのネックレス・指輪・イヤリングのセットを差し出す。
母の目が瞬時に輝き、思わず息をのむ。
「まあ……こんな素敵な……! ありがとう、レスティーナ」
箱を開けると、真珠の輝きに母は手を伸ばし、指輪をはめ、ネックレスを首にかけ、イヤリングを耳に飾る。
「あなたのセンスは本当に素晴らしいわ」
妹マリアンヌの部屋へ向かうと、彼女は小さな机でお絵描きをしていた。箱を見るや否や目を輝かせる。
「わあ、絵本とクレヨンだ!」
「マリアンヌ、自由に使っていいわよ」
早速クレヨンを取り出し、ページに色を塗り始める。
「レスティーナ、お姉ちゃん、大好き!」
私も微笑む。
(まだ幼いけれど、ちゃんと成長している……)
最後にアスラン。
彼は机に向かい、ノートを開いていた。
「アスラン、これを使ってみて」
万年筆を手渡すと、彼は少し驚いた顔をする。
「わ……これ……すごい!」
インクを吸わせ、紙に線を引く。滑らかに流れるインクに、目を輝かせる。
「手紙も書けるね!」
「ええ、自由に書いていいのよ」
アスランは夢中で文字を書き始める。
家族全員が、私の帰宅を喜び、それぞれの贈り物に触れ、笑顔を浮かべる。
私は商会や都市での忙しさから少し解放され、家族の温かさを噛み締める。
食卓には簡単な朝食を並べ、父と母は私の北方領での活動を興味深く尋ねる。
「都市の市民は順調に増えているのか?」
「ええ、市民の生活や商会の稼働を見ながら施策を進めています」
父は頷き、母も「なるほど、あなたはやはり賢いわね」と微笑む。
マリアンヌはクレヨンで描いた絵を見せ、アスランは万年筆で書いた文字を披露する。
家族の笑顔に囲まれ、私は心の底から安堵する。
(北方領での都市運営も大事だけれど、家族との時間もやはり大切……)
窓の外では、まだ冬の冷たい風が吹く。
しかし家の中は暖かく、笑い声と歓声に包まれていた。
私が選んで用意したささやかな贈り物が、家族の心を喜ばせ、私の心も満たしてくれる。
そして、再び北方領の都市へ戻る日がやってくる。
家族の笑顔と温かさを胸に、次の都市発展や商会の施策に向けて――
十三歳の私は、確かな手応えを胸に、静かに旅立つのだった。




