表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
n番煎じの脇役令嬢になった件について  作者: 此花サギリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/24

第9話 幼き領主の覚悟

 皇帝モーリスアドルフとの謁見から数日後。

 グランテ領の執務室では、セレスティア女伯と夫のグラン、そして長女レスティーナが机を囲んでいた。


 窓の外には、整然と区画された街並みが広がっている。

 石畳の道路、整備された上下水道、煙を上げる工房、そして学校へ向かう子供達。


 それら全ては――


 **まだ十歳にも満たない少女の発案**から始まったものだった。


 


 「――という訳で、男爵位を二つ頂けることになった」


 父グランが静かに言った。


 レスティーナは紅茶を一口飲み、淡々と答える。


 「妥当な落とし所ですね」


 まるで大人の官僚のような落ち着きである。


 グランは苦笑した。


 「お前はもう少し驚いてもいいと思うぞ?」


 「驚く理由がありませんもの」


 レスティーナは肩をすくめる。


 「侯爵に陞爵(しょうしゃく)すれば社交が増えますし、魔の森の開拓は避けられません」


 「でしたら、**爵位を分散した方が効率的**です」


 完全に経営者の思考だった。


 


 セレスティアは静かに娘を見つめている。


 この子は幼い頃からこうだった。


 物事を感情ではなく**構造**で見る。


 それが恐ろしいほど正確なのだ。


 


 「それで?」


 レスティーナは机の上に紙を広げた。


 「魔の森の件ですが」


 そこには既に地図が描かれていた。


 グランは目を見開く。


 「もう調べていたのか?」


 「はい」


 レスティーナはさらりと言う。


 「ググル先生」


 


 〈はい、マスター〉


 彼女の頭の中に静かな声が響く。

 もちろんこの声は誰にも聞こえない。


 


 「魔の森の地形情報を再表示」


 〈展開します〉


 


 レスティーナの視界に、魔の森の詳細な地形図が浮かび上がる。

 この世界には存在しない精度の情報だった。


 それは彼女の恩恵(ぎふと)――


 **検索知識補助存在《ググル先生》**によるものだった。


 


 (本当に便利よね)


 レスティーナは心の中で呟く。


 


 「魔の森は危険な場所だぞ」


 グランが言った。


 「魔物も多い」


 レスティーナはうなずく。


 「ですので」


 彼女は紙に円を描いた。


 「**都市を作ります**」


 


 沈黙が落ちた。


 


 「……都市?」


 セレスティアが聞き返す。


 


 「はい」


 レスティーナは当たり前のように答える。


 「森を切り開くのではなく」


 「**森の中に都市を建てます**」


 


 グランは思わず吹き出した。


 「普通は逆だろう」


 「ええ」


 レスティーナは微笑む。


 「ですが普通の方法では百年かかります」


 


 彼女は地図を指差した。


 


 「まず**街道**を作ります」


 「次に**防壁都市**を三つ」


 「最後に中央都市」


 


 それはまるで軍事作戦のようだった。


 


 「防壁都市?」


 セレスティアが尋ねる。


 


 「はい」


 レスティーナは言う。


 「壁で囲んだ都市です」


 「そこに兵士と職人と農民を住まわせます」


 


 「農民?」


 


 「ええ」


 レスティーナは笑った。


 


 「魔の森の土壌はとても豊かです」


 「魔力が濃いですから」


 「**薬草栽培に最適**です」


 


 グランは目を細めた。


 


 「……薬草都市か」


 


 「それだけではありません」


 レスティーナは続ける。


 


 「魔物素材」


 「薬草」


 「木材」


 


 「**資源の宝庫**です」


 


 そして静かに言った。


 


 「魔の森は危険です」


 「だから誰も開拓しない」


 


 「つまり」


 


 「**独占できます**」


 


 部屋が静まり返った。


 


 セレスティアはゆっくりと息を吐く。


 


 「……あなたは本当に十歳?」


 


 レスティーナはにっこり笑う。


 


 「まだ九歳ですわ」


 


 グランは頭を抱えた。


 


 「末恐ろしいな」


 


 レスティーナは気にせず続ける。


 


 「それと」


 


 「男爵領の場所ですが」


 


 「ここにします」


 


 指差した場所を見て、セレスティアの目が細くなった。


 


 「……そこは」


 


 「はい」


 


 レスティーナは静かに言う。


 


 「**スー公爵領の隣です**」


 


 グランが吹き出した。


 


 「お前……」


 


 レスティーナはにこりと笑う。


 


 「だって父様」


 


 「盗人は**隣で成功されるのが一番悔しい**でしょう?」


 


 セレスティアは思わず笑った。


 


 「ふふ……」


 


 「本当に」


 


 「私の娘ね」


 


 その頃――王都では。


 


 スー公爵家が。


 


 **没落の入口**に立っている事を。


 


 まだ誰も知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ