第8話 天使降臨と母の憂い
こんにちは。
恩恵なし令嬢として名を馳せつつある、**レスティーナ・フォン・グランテ**です。
はい、後ろ指をさされています。
まあ、貴族社会において女神から恩恵を与えられないというのは、それなりに珍しいらしく。
陰口を叩かれるのは仕方がない。
……もっとも、私自身はあまり気にしていないのだけれど。
そんな私も**九歳**になりました。
そして――
**妹が生まれました!!**
ええ。
弟のアスランも可愛いけれど、妹も可愛い!!
**可愛いはジャスティス!!**
ということで。
**子供服リターンズ**でございます。
今までも子供服は色々と作ってきた。
けれど、正直なところ。
男の子用の服ばかりだったのよね。
……いや、別に女の子用の服が嫌いだった訳じゃないのよ?
ただ。
**気が乗らなかっただけで。**
今まで紳士服と婦人服は両親をモデルにしてきたし、子供服は私と弟のアスランがモデルだった。
そして何より――
**アスランが可愛い。**
もう本当に。
とんでもなく可愛い。
だから色々とデザインしてしまったのだ。
しかし。
妹の**マリアンヌ**が生まれた瞬間。
私は確信した。
**天使が降臨した。**
と。
これはもう、全力で着飾らせなければならない。
〈ググル先生!ググル先生!!〉
私が心の中で呼びかけると。
〈マスター、どうされましたか?〉
落ち着いた声が返ってくる。
これが、私が祝福の儀で手に入れた恩恵の一つ。
**ググル先生**である。
〈日本の最新ベビー服のデザイン画を見せて頂戴!!〉
〈……盗用はどうかと思います〉
難色を示された。
しかし私は負けない。
〈ここは地球じゃないのよ〉
〈著作権は無効よ!文化盗用じゃないわ!文化の尊重よ!!〉
ググル先生は深いため息を吐いた。
〈……画像を展開します〉
その瞬間。
私の目の前に**半透明のボード**が展開された。
もちろんこれは他人には見えない。
完全に私専用の画面だ。
「ふぅ〜ん……」
私はボードをスワイプする。
「色々あるわねぇ」
可愛いデザインをお気に入り登録して、紙に書き写していく。
フリル。
リボン。
レース。
ベビー帽子。
ワンピース。
小さな靴。
うん。
**最高だ。**
「お嬢様、それはマリアンヌ様のお洋服ですか?」
後ろで控えていたジェイが声を掛けてきた。
「そうよ」
私は即答した。
「マリアンヌに着せるの。あの子は私の天使ですもの!」
「どれを着ても似合うに決まっているわ!!」
完全に顔が緩んでいる自覚はある。
アスランの時も色々な玩具や絵本を作ったけれど。
今回は違う。
だって。
**ググル先生がいる。**
情報量が桁違いなのだ。
これを使わない手はない。
〈……〉
……今、何か呆れた気配がしたけれど。
きっと気のせいだろう。
私はデザイン画をまとめて、お母様の元へ向かった。
◇◇◇
私の娘、**レスティーナ**はとても賢い子だ。
幼い頃から数多くの料理や道具、小説を生み出してきた。
我が領地がここまで発展したのは、間違いなくこの子のおかげだろう。
今ではグランテ領は――
**第二の王都**
と呼ばれるほどになっている。
芸術と食の聖地。
そう呼ばれる領地を作り上げたのは、十歳にも満たない私の娘なのだ。
もっとも。
その事実を知るのは王族と私達家族だけ。
世間では、全て**グランテ家の功績**として処理されている。
だからこそ。
私は思っていた。
祝福の儀で、娘はきっと**素晴らしい恩恵**を得るだろうと。
けれど。
現実は残酷だった。
レスティーナには――
**何の恩恵も与えられなかった。**
貴族社会ではそれは醜聞になる。
陰口も増えた。
後ろ指を指す者もいる。
娘は平然としているけれど。
本当は傷付いているはずだ。
そんな時。
娘を救ったのは――
もう一人の娘。
**マリアンヌ**だった。
レスティーナは妹をとても可愛がっている。
そして今も。
色々な玩具や服を開発している。
その様子を見ながら、私は別の苛立ちを抱えていた。
**スー公爵の娘。**
あの娘が。
レスティーナの発明を。
**全て自分の功績だと主張している。**
腹立たしい事この上ない。
愚かな公爵はそれを信じ、権利を寄越せと騒いできた。
もちろん。
私は国王陛下と王妃様に**お願い**して黙らせた。
……少しだけ脅したけれど。
しかし今度は別の問題が起きていた。
陛下が――
**グランテ家を陞爵させる**
と言い出したのだ。
「お母様?」
考え込んでいた私に、レスティーナが声を掛けた。
「顔色が良くありませんわ」
「私直伝のマッサージでもいかが?」
優しい子だ。
「政務が終わったらお願いしてもいいかしら?」
「もちろんですわ」
レスティーナは微笑んだ。
そして。
鋭く言った。
「何かお困りごとでも?」
……やはり賢い子だ。
私は少し悩んでから言った。
「陛下がね」
「グランテ家を**陞爵**させると言っているの」
レスティーナは目を瞬かせた。
「それは良い事では?」
普通はそう思う。
けれど違う。
「北の魔の森」
私は言った。
「開拓させるつもりなのよ」
レスティーナはすぐ理解した。
「……なるほど」
「あと社交も増えるわ」
私はため息を吐いた。
「面倒なのよ」
レスティーナは苦笑した。
「ぶっちゃけましたね」
「だって跡を継ぐのは貴女よ」
私は真顔で言った。
「社交が増えれば、口さがない者も増える」
するとレスティーナは少し考えて。
ぽつりと言った。
「……それなら」
「陞爵ではなく**男爵位**を頂くのはどうでしょう?」
「男爵位?」
「ええ」
レスティーナは言った。
「このままでは弟と妹は平民になります」
「まず弟の爵位を確保しましょう」
「欲を言えば子爵ですが……」
「そこは自力で陞爵すれば良いですもの」
そして笑った。
「マリアンヌが嫁ぐ頃までに爵位を用意できれば良いでしょう」
……。
本当に。
この子は。
**恐ろしく賢い。**
「旦那様と相談するわ」
私は微笑んだ。
「陞爵ではなく、爵位を貰う方向で」
「ありがとう、ティーナ」
レスティーナも笑った。
「どういたしまして、お母様」
私達は笑顔を交わし。
再び執務へと戻ったのだった。




