第5話 店舗経営
チーズを含む教会専売だった品を除き、料理や菓子の特許料は**三割**という条件で申請することになった。
名義自体はグランテ家に帰属する形だが、私が将来結婚して家を出る際には、**特許名義が私個人へ移る契約**も同時に交わしてある。
ふふ。
将来設計というものは、きちんと考えておかないといけないのよ。
ちなみに、教会の専売特許であるチーズ関連については、父とダニエルが「何とか説得する」と言っていた。
その内容がまた面白い。
特許料は**四割**に設定し、
三割をグランテ家、
一割を教会へ支払う。
これで納得させるつもりらしい。
しかも、もし教会が首を縦に振らなかった場合は――
**名前を変えて登録する。**
という抜け道まで用意してくれていた。
いやぁ……。
内心で私、**高笑い**してしまいましたわ。
やっぱり貴族の政治力ってすごいわね。
さて。
特許申請の話が一段落したところで、私は次の話題を切り出した。
「次は、お店を出したいと思っておりますの」
にこにこと微笑みながら言う。
すると――
ダニエル親子が**苦虫を噛み潰したような顔**になった。
……あらあら。
何を考えているか、手に取るように分かるわ。
私はくすりと笑った。
「うふふ」
そして言う。
「貴族の娘が道楽で店を出して、大損して、商業ギルドを巻き込む――」
「そう思ってらっしゃる?」
二人の顔が同時に引き攣った。
図星らしい。
わぁ。
**見事なシンクロ**。
思わず感心してしまったわ。
まあ、普通はそう思うでしょうね。
もし私が逆の立場なら、絶対そう思うもの。
だが、私は続けた。
「1階は飲食店」
「2階は雑貨」
「3階は服飾と宝石」
「4階と5階は従業員寮」
さらりと言う。
「どこか良い場所はないかしら?」
ダニエルは少し眉を上げた。
「……商売の知識はおありで?」
私は微笑んだ。
「経営は私がします」
そして続ける。
「とはいえ、店長は商業ギルドから紹介して頂きたいの」
「専門知識は専門家に任せるのが一番でしょう?」
つまり。
**丸投げ宣言**である。
すると二人は同時に頭を抱えた。
まあ、そうよね。
変な人物を紹介したら、ギルドの信用問題だもの。
私はさらに付け加える。
「未亡人でも、子連れでも構いませんわ」
するとダニエルが顔を上げた。
どうやら心当たりがあるらしい。
「……一人おります」
「まあ、本当?」
私は目を輝かせた。
「貴族との取引もありますから、ある程度の礼儀作法は必要ですが……大丈夫かしら?」
ダニエルは苦笑した。
「問題ありません」
「ただ……子育てを理由に現役を退いておりまして」
なるほど。
つまり**優秀だけど引退した人材**ね。
それなら問題ない。
むしろ理想的。
私は頷いた。
「子供については託児所を作る予定よ」
ダニエルとオリンが同時に目を見開いた。
「職業婦人を雇用するのも良いでしょう?」
「同じ境遇の女性がいるなら雇いたいわ」
そして付け加える。
「もちろん男性でも歓迎よ」
「年配の方でも事務職なら問題ないわ」
「商業ギルドが身元保証してくれるなら大歓迎です」
つまり――
**人材は幅広く募集する**ということだ。
その時、私は小さく呟いた。
「託児所には教師も必要ね」
それを拾ったのはオリンだった。
「子供に教育を?」
不思議そうな顔をしている。
私は当然のように答えた。
「ええ」
「どうせ時間が余るんですもの」
そして笑う。
「教育して、成長したら私の商会で働いてもらえばいいでしょう?」
つまり。
**青田刈り**である。
オリンは目をぱちぱちさせていた。
私は父を見る。
「お父様」
「平民教育に理解のある教師を雇って下さいませ」
そしてダニエルへ。
「保母役の女性も探して頂戴」
「子育て経験者だと嬉しいわ」
こうして、私の商会計画は**本格始動**したのである。
商会名について父に聞かれたので、私は少し考えて答えた。
**メモワール。**
フランス語で「記憶」という意味だ。
人々の思い出に残る店になればいい。
そんな願いを込めた。
そして第一号店の名前は――
**スヴニール・メモワール。**
直訳すると「思い出を記憶する」。
……ちょっと安直?
でも響きは悪くないと思うの。
商業ギルドから紹介された店舗は、かなり古い建物だった。
だから私は即決した。
**解体。**
そしてグランテ家お抱えの**ドワーフ建築工房**に依頼し、
地下1階から5階までの大型店舗を建設することにした。
いやぁ。
**お金がすごい勢いで飛んだ。**
でも大丈夫。
巻き返しは十分可能だと思っている。
ちなみに。
父とダニエルの働きにより――
チーズ、ワイン、エール、石鹸については
**特許料一割**で販売許可を勝ち取った。
教会も完全拒否は出来なかったのだろう。
もし断れば、名前を変えた商品が市場を席巻する。
そうなれば教会の商売が崩壊する。
結局――
**渋々承認**という形になった。
店が完成するまでの間、私は従業員教育に力を入れた。
礼儀作法の徹底である。
新しく雇った教師、**セシル先生**はとても優秀だった。
厳しいが、公平。
平民を見下すこともない。
ちなみに、彼女は私の家庭教師の紹介で来てもらった。
……つまり完全なコネである。
ある日。
ジェイが質問してきた。
「お嬢様」
「店舗の護衛はどうされますか?」
私は首を傾げた。
「え?」
「伯爵家が運営する商会にちょっかいを出す馬……」
「……愚か者がいるの?」
ジェイは静かに頷いた。
「ええ」
そして言った。
「スー公爵家の令嬢、メアリー様が最近商会を立ち上げたそうです」
……あ。
その名前。
聞き覚えがある。
「商売敵、というものかしら?」
ジェイは冷静に答えた。
「情報漏洩は無いと思います」
「ですが破落戸を使う可能性はあります」
「護衛は必要でしょう」
なるほど。
ゲームの悪役令嬢、**メアリー・スー**。
散財癖のある高飛車令嬢だった記憶はある。
でも商会運営なんてしていたかしら?
私は少し考えた。
「困ったわね」
「スヴニール・メモワールは上流階級向けの店なのよ」
ゴツい護衛は雰囲気に合わない。
するとジェイが提案した。
「見目の良い護衛を雇うのはどうでしょう?」
「……客引き?」
「それもあります」
ジェイは淡々と続けた。
「ですが、むさ苦しくない警護として有効です」
……なるほど。
**イケメン護衛隊。**
悪くない。
でも心当たりがない。
そう言うと、ジェイが一歩前に出た。
「僭越ながら」
「私の知人を紹介してもよろしいでしょうか?」
私は首を傾げる。
「ジェイの友達?」
「十五、六歳くらい?」
つまり新米騎士かしら。
するとジェイは頷いた。
「ええ」
「友人と、その兄や知人にも声を掛けるつもりです」
年齢層は少し広いらしい。
私は微笑んだ。
「分かったわ」
「ジェイ、お願いね」
そして一つ条件を付ける。
「最低でも班長を倒せる実力は欲しいわ」
そう伝えた後、私は紅茶を口に運んだ。
今日もまた、優雅な一日である。




