第4話 特許申請
父に口を酸っぱく言われ、ついに**特許申請**を行うことになったレスティーナです。
現在、我が家の応接室には**商業ギルドの職員**が来ています。
いやぁ……。
**貴族って良いですね。**
何が良いって?
そりゃあもう――**上から目線が許されるところ**ですよ。
最高ですわ。ええ、本当に。
今日は父同伴で、特許申請と、さらに**店舗設営の相談**まで行うらしい。
なんでも、
「ティーナの料理は金になる」
という理由で、話がトントン拍子に進んでしまったのだ。
私としては、自分と家族が美味しい物を食べられればそれで満足だったのだけれど……。
**ジェイが張り切ってしまった。**
あの子、完全にやる気満々なのよね。
結果として、料理革命が事業になりつつあるのである。
まあ、悪い話ではないけれど。
「お初にお目にかかります」
私は椅子から立ち上がり、優雅に一礼した。
「父グラン・フォン・グランテが嫡子、レスティーナ・フォン・グランテですわ」
外面用の**猫を引っ被りモード**である。
すると向かいに座っていた男性が穏やかに微笑んだ。
「初めまして、レスティーナ様」
落ち着いた低い声。
「貴女様にお目通りするのを心待ちにしておりました」
彼は胸に手を当て、丁寧に礼をした。
「私は商業ギルドのギルドマスターを務めております、ダニエルと申します」
四十代くらいだろうか。
落ち着いた雰囲気に、少し渋みのある顔立ち。
――いわゆる**渋メン**である。
「小さな淑女殿に出会えたこと、女神ケーリュケイオンに感謝を」
……うん。
目の保養。
非常に良い。
私のテンションが少し上がった。
「ではダニエルとお呼びしますわ」
にこりと笑い、隣に立つ青年へ視線を向ける。
「隣の方は?」
だって――
**ものすごく美形なのだ。**
ジェイに負けず劣らず整った顔立ち。
これはもう、あれである。
**BでLな物語が一本書けそう。**
この世界、まともな読み物って聖典くらいしかないのよね。
いっそ恋愛小説を書いて流行らせようかしら?
そんな妄想をしていると、ダニエルが紹介した。
「こちらは私の息子、オリンです」
青年は一歩前に出て、丁寧に礼をした。
「初めまして、お嬢様」
柔らかな声だった。
「ダニエルの息子、オリンと申します。以後、よろしくお願いいたします」
その所作は非常に洗練されている。
貴族と言われても違和感がないほどだ。
「よろしくね、オリン」
私はにこにこと微笑んだ。
だが、その隣で父は顰めっ面をしている。
「では、先に特許申請をしてもらおうか」
さっさと本題に入った。
「畏まりました」
オリンは書類を取り出す。
そして少しだけ私を見て言った。
「今回、特許申請をされるのはレスティーナ様で間違いありませんか?」
その視線は、ほんの少しだけ疑っている。
無理もない。
五歳児が料理の発明者と言われたら、普通は疑う。
父の目尻がピクリと吊り上がった。
これは危険信号だ。
私は父の手を、きゅっと握った。
すると――
父の顔が一瞬でデレっとした。
……うん。
この人、本当に顔芸人だと思う。
「そうだ」
父は胸を張る。
「私の可愛く賢いレスティーナが開発した料理や菓子の特許申請だ」
ドヤ顔である。
完全に親馬鹿である。
オリンは書類をめくりながら言った。
「ふむ……いくつか種類がありますね」
「当然だ」
父は即答した。
「ティーナは天才だからな!」
……はいはい。
父の親馬鹿はさておき。
オリンは少し考えるように言った。
「ただ……材料と作り方だけでは味の想像が難しいですね」
父の眦がまた吊り上がりそうになる。
危ない。
私は父の手を**ぎゅっぎゅっ**と握った。
鎮火成功。
「うふふ」
私は笑った。
「オリンの言う通りですわ」
そして手を叩いた。
パン、パン。
するとメイド達が料理を運び始める。
テーブルの上にずらりと並ぶ料理。
カレー。
ミートスパゲティ。
ピザ。
パンケーキ。
「試食して頂きましょう」
にっこり。
「商品になるかどうか、判断して下さいませ」
父は腕を組みながら言った。
「私はミートスパゲティが好きだな」
そしてすぐ続ける。
「いや、カレーも好きだぞ!」
さらに続ける。
「ティーナの料理はどれも美味しいから甲乙つけ難い!」
……はい、親馬鹿確定。
私はジェイに話を振る。
「ジェイは何が好き?」
ジェイは少し考え、
「私はピザですね」
と答えた。
「とろっと伸びるチーズが何とも……」
あ、この顔。
**完全に食べ物を思い出してる顔だ。**
ジェイ、最近食いしん坊になってきたわね。
その時だった。
「え゛?」
変な声が上がった。
ダニエルだった。
カエルが潰れたみたいな声である。
オリンも困惑している。
「あの……」
恐る恐る聞いてきた。
「チーズは……教会から購入されたのですよね?」
……あ。
私はきっぱり言った。
「いいえ」
「自家製チーズですわ」
その瞬間。
ギルマス親子が**同時に頭を抱えた**。
……あれ?
やらかした?
私は父を見上げる。
「お父様」
「私、何か悪いことをしましたかしら?」
父は苦笑した。
「ティーナは悪くない」
そして説明する。
「チーズ製法は教会の専売特許なんだ」
なるほど。
門外不出というわけね。
私は少し考えた。
「他にも独占している物はありますか?」
これは重要である。
せっかく作っても売れなかったら意味がない。
父は指折り数えた。
「ワイン製法」
「エール製法」
「石鹸」
「……そのあたりだな」
私は大げさに驚いた。
「まあ!」
そして悲しそうな顔をする。
「お母様のために香りの良い石鹸を作りたかったのに……」
父がすぐ反応した。
……チョロい。
「大丈夫だ、ティーナ」
父は力強く言う。
「新しい製法として特許を取ればいい」
「多少揉めるだろうが、教会に一割払えば納得する」
ほう。
なるほど。
私は首を45度に傾け、ダニエルを見る。
ダニエルは深く頷いた。
「教会への根回しは私が行いましょう」
そして言った。
「特許料が入るなら、断る理由はありません」
うん。
話が早い。
「では」
私は微笑んだ。
「チーズとワインとエールも試して頂きましょう」
メイドが運んでくる。
チーズ。
ワイン。
エール。
父は嬉しそうにグラスを取った。
久しぶりの酒である。
「……これは」
ダニエルがエールを飲んだ瞬間、驚いた。
「コクがありつつキレがある……!」
「本当にエールですか!?」
私はにっこり笑った。
「新しいエールですわ」
「名前は**ビール**とします」
そしてワインとチーズを勧める。
「こちらもどうぞ」
ダニエルはさらに驚いた。
「これが……ワイン?」
「チーズも美味しい!」
私は説明する。
「今回はフレッシュチーズです」
「今後はブリ・ド・モーとミモレットも出しますわ」
ミモレットは蒸したジャガイモの上に乗せてある。
ちなみに――
**蒸す料理法もこの世界には無かった。**
だからそれも特許申請済み。
こうして。
**五歳児主導の特許申請会議**は、順調に進んでいったのである。




