第3話 これが料理『カレー』!!②
急遽、昼食の席に並べられたのは、私が考案した――ということになっている**カレー**だった。
だが、初めて見る者にとっては、どうしても見た目の印象が強いらしい。
テーブルに置かれた皿を見て、父は露骨に眉をひそめた。
「……ダン、これは本当に食べ物かい?」
嫌そうな表情で料理長に問い掛けている。
無理もない。
茶色いどろりとした料理が皿に乗っているのだ。
見慣れない者からすれば、警戒するのも当然だろう。
だが料理長のダンは、自信満々で答えた。
「はい。レスティーナお嬢様が考案された**カレー**という料理です」
その口元は、ほんの少しだけ緩んでいる。
――ああ、これ。
絶対に「残してくれたら俺が食べる」って思ってるわね。
だってダン、さっき厨房で三回もおかわりしてたもの。
両親は顔を見合わせた後、ゆっくりとスプーンを手に取った。
そして、意を決したように目を閉じ――カレーを口に入れる。
数秒の沈黙。
次の瞬間。
「あら、美味しいわ」
母が驚いた声を上げた。
そして父も目を見開く。
「……美味い!!」
その反応に、私は満足そうに頷いた。
ほらね。
見た目はともかく、味は保証付きなのよ。
「お父様、お母様」
私はナンを一枚手に取った。
「このパンにカレーを乗せて食べると、もっと美味しいですよ」
そう言ってナンの上にカレーを乗せ、ぱくりと食べる。
もぐもぐ。
うん。
やっぱり最高。
すると父が目を丸くした。
「て、手掴みなのか?」
母は隣でくすっと笑う。
「あらまぁ」
父は困惑。
母は楽しそう。
実に対照的な反応である。
まあ、貴族の食事は基本的にフォークとナイフ。
手掴みなど作法違反もいいところだ。
「こういう食べ物なんです」
私は肩をすくめた。
「もし嫌でしたら、いつもの料理をお出ししますわ」
実は一応、通常の昼食も用意してある。
万が一の保険だ。
だが父は少し考え――
「……まあ、家の中だけなら問題ないか」
そう言ってナンを手に取った。
母はすでに楽しそうに食べ始めている。
「うふふ、美味しいわぁ」
父もカレー皿を自分の前に引き寄せ、豪快に食べ始めた。
どうやら完全に気に入ったらしい。
しばらく食べた後、父がふと口を開いた。
「これは……特許が取れるんじゃないか?」
さすが商家の出身で成り上がった貴族。
目の付け所が違う。
「ええ」
私はにこりと笑った。
「ジェイに特許申請の準備をさせていますわ」
そして続ける。
「それと、一週間後には**柔らかいパン**もお出しできます」
すると父は、特許よりもそちらに反応した。
「……柔らかいパン?」
まるで未知の生物でも聞いたかのような顔である。
「パンは固いものではないのか?」
心底不思議そうな父に、私は優雅に微笑んだ。
「柔らかいパンがあれば、色々な料理が作れますもの」
サンドイッチ。
ハンバーガー。
フレンチトースト。
ああ、夢が広がる。
「もちろん食べてみて、お口に合わなければ私専用にしますわ」
うふふ、と愛想よく笑っておく。
すると母が嬉しそうに言った。
「私は柔らかいパンを食べてみたいわ」
「ええ、ぜひ楽しみにしていて下さいませ」
私は胸を張った。
美味しいパンを用意することを、ここに約束しよう。
――そして一週間後。
私は再び厨房に立っていた。
前回と違う点がいくつかある。
まず、私専用の**踏み台**が設置されていること。
そして、子供でも作業できる**専用スペース**が用意されていることだ。
……うん。
完全に私専用厨房になりつつある。
今回も助手はヨルである。
「今日は柔らかいパン作りよ」
そう宣言すると、厨房の空気が少し緊張した。
だが実際のところ、パン作り自体はそこまで難しくない。
むしろ――
「今日はもう一品作るわ」
私はエプロンを整えた。
そして胸を張って宣言する。
「**とっても簡単パンケーキ**を作りましょう!」
ジェイとヨルが同時に首を傾げた。
「パンケーキ……ですか?」
そう。
この世界には**お菓子という文化がほぼ存在しない**。
甘い物といえば――
砂糖の塊。
フルーツ盛り合わせ。
以上。
……なんて原始的。
文明の発展には甘味文化が必要なのよ。
「これも特許申請しましょう」
私はジェイに言った。
「材料と作り方、全部メモして頂戴」
ジェイはすぐに紙とペンを取り出した。
「では始めるわよ」
小麦粉。
卵。
砂糖。
牛乳。
そして酵母。
材料を混ぜて、生地を作る。
熱した鉄板に流し込むと――
じゅう……。
甘く香ばしい香りが広がった。
「良い匂いね」
私はうっとりと目を細める。
ふわふわに焼き上がったパンケーキを皿に重ねる。
そして次の工程。
「せっかくだから、生クリームとフルーツを乗せましょう!」
ダンには生クリームの作り方を教えてある。
ヨルにはフルーツをカットしてもらった。
「お嬢様、出来ました!」
出来立ての生クリームが運ばれてくる。
……これは危険だ。
見ただけで生唾が出る。
「ヨル、パンケーキにフルーツを乗せて。その上に生クリームよ」
ヨルは真剣な顔で作業を始めた。
パンケーキ。
フルーツ。
生クリーム。
完璧な布陣である。
そこで私は言った。
「ダン、蜂蜜はあるかしら?」
ダンはすぐに差し出す。
「ありますよ」
私はスプーンですくい――
とろり。
蜂蜜をかけた。
「美味しい魔法は蜂蜜よ!」
これで完成である。
「私と、お父様、お母様、ジェイの分は頂くわね」
皿を四つ確保する。
「残りは好きに食べて頂戴」
そう言って私はパンケーキを抱え、両親の元へ向かった。
ちなみに。
このパンケーキは大好評だった。
あまりの美味しさに厨房では――
**パンケーキ争奪戦**が起きたとか。
起きなかったとか。
……まあ、きっと起きたのでしょうね。




