第19話 三日城壁作戦
夜の魔の森は静かだった。
だがその静寂の中で、魔の森開拓都市はまるで戦場のように騒がしかった。
「丸太運べ!」
「杭を打て!」
「もっと土を持ってこい!」
松明の火が夜を照らし、数百の影が忙しく動き回っている。
丘の上からそれを見ていたレスティーナは腕を組んでいた。
隣にはジェイ、そして帝国監察官アルトが立っている。
アルトが静かに言った。
「本当に始めたのですね」
レスティーナは笑った。
「三日城壁」
ジェイが苦笑する。
「普通なら半年ですね」
レスティーナは言う。
「普通ならね」
丘の下では巨大な丸太が運ばれていた。
魔の森の木は太い。
それを切り倒し、先端を尖らせ、地面に打ち込む。
**木柵城壁**。
石の城壁ほど強くはない。
だが防御には十分だ。
アルトが聞く。
「高さは?」
ジェイが答えた。
「四メートル」
アルトは眉を上げた。
「三日で?」
レスティーナは肩をすくめる。
「人海戦術よ」
人口二百七十。
そのうち働ける者は百五十以上いる。
全員が作業すれば――
不可能ではない。
その時だった。
ユラが駆け上がってくる。
「レスティーナ様!」
「どうしたの?」
「北側の伐採終わりました!」
レスティーナは頷いた。
「いいわ」
ジェイに言う。
「第二線作りましょう」
アルトが驚く。
「第二線?」
レスティーナは森を指した。
「罠」
ジェイが笑う。
「落とし穴ですね」
レスティーナは頷いた。
「そう」
森の中に穴を掘る。
底には尖った杭。
簡単だが危険な罠だ。
アルトが腕を組む。
「防御戦の準備ですね」
レスティーナは答えた。
「時間稼ぎよ」
森の向こうではスー公爵軍五百が野営している。
だがまだ動いていない。
理由は簡単だ。
帝国監察官アルトがいるからだ。
アルトは言った。
「彼らは攻めません」
レスティーナは頷く。
「ええ」
「でも」
アルトが聞く。
レスティーナは続けた。
「圧力はかけてくる」
兵糧攻め。
包囲。
威圧。
それが公爵軍の狙いだ。
だが――
レスティーナには別の計算があった。
「ジェイ」
「はい」
「商人は?」
ジェイは答えた。
「すでに三組」
レスティーナは笑った。
「いいわね」
アルトが聞く。
「包囲されているのに?」
レスティーナは言った。
「だからよ」
アルトが目を細める。
レスティーナは続けた。
「都市はね」
「人が集まる場所」
「だから」
指を立てる。
「止められない」
アルトは小さく笑った。
「なるほど」
その時だった。
遠くでラッパが鳴った。
ジェイが森を見た。
「動きました」
レスティーナも見る。
森の奥。
スー公爵軍が整列している。
松明の列。
数百の兵。
アルトが言った。
「夜襲?」
レスティーナは首を振る。
「違う」
軍はゆっくり前進していた。
そして町の前で止まる。
騎士が一人前へ出た。
赤いマント。
豪華な鎧。
前回の騎士だ。
騎士は叫んだ。
「レスティーナ・フォン・グランテ!」
レスティーナは門の前へ歩いた。
騎士は言った。
「最後通告だ」
レスティーナは腕を組む。
「聞くだけ聞く」
騎士は叫んだ。
「逃亡農奴を引き渡せ!」
「さもなくばこの町を封鎖する!」
レスティーナは笑った。
「もうしてるでしょ」
騎士が怒る。
「五百の軍だ!」
レスティーナは静かに言った。
「帝国監察官がいる」
騎士の顔が歪む。
レスティーナは続ける。
「攻めたらどうなる?」
騎士は黙った。
レスティーナはにやりと笑った。
「答えなさい」
騎士は歯を食いしばった。
「……帝国への反逆」
レスティーナは頷いた。
「正解」
アルトが後ろで腕を組んでいる。
騎士は怒りで震えていた。
レスティーナは言った。
「だから帰りなさい」
騎士は叫んだ。
「覚えていろ!」
そして軍は森へ戻っていった。
レスティーナは振り返る。
城壁建設は続いている。
丸太の壁が少しずつ伸びていく。
アルトが言った。
「あとどれくらいですか」
ジェイが答えた。
「三分の一」
アルトは呟く。
「一晩で」
レスティーナは笑った。
「まだ二晩ある」
アルトは彼女を見た。
小さな少女。
だがその瞳には迷いがない。
アルトは言った。
「レスティーナ」
「はい?」
「あなたは本当に」
少し間を置く。
「都市を作るつもりですね」
レスティーナは当然のように答えた。
「最初から」
そして丘の下を見る。
松明の光。
働く人々。
少しずつ完成していく城壁。
レスティーナは小さく呟いた。
「三日後」
「この町は」
「本当の都市になる」
森の向こう。
スー公爵軍五百が不気味に待っている。
だが同時に――
魔の森の開拓都市でも
**奇跡の建設が続いていた。**




