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n番煎じの脇役令嬢になった件について  作者: 此花サギリ


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第18話 五百軍迫る

 森の奥から響く太鼓の音は、低く重く、地面を震わせるようだった。


 丘の上からそれを見ていたレスティーナは、ゆっくりと目を細めた。


 木々の隙間から見える旗。


 赤地に金の紋章。


 スー公爵家の旗だ。


 そしてその数は――


 多い。


 明らかに多い。


 隣に立つジェイが静かに言った。


 「……五百」


 レスティーナは頷いた。


 「ええ」


 前回は二百。


 だが今回は五百。


 完全に本気だ。


 丘の下では見張りの鐘が鳴り始めた。


 カン、カン、カン――


 その音に人々が顔を上げる。


 すぐにざわめきが広がった。


 「軍だ!」


 「公爵軍が来た!」


 「五百だって!」


 恐怖の色が広がる。


 だがレスティーナは振り返って言った。


 「ジェイ」


 「はい」


 「住民を広場へ」


 ジェイはすぐに頷いた。


 「分かりました」


 やがて中央広場に人々が集まり始めた。


 二百七十人。


 子供も老人もいる。


 不安そうな顔。


 震える手。


 レスティーナは木箱の上に立った。


 全員の視線が彼女へ集まる。


 小さな体。


 だが声はよく通った。


 「みんな聞いて」


 ざわめきが止まる。


 レスティーナは森の方を指した。


 「スー公爵軍が来てる」


 人々が息を呑む。


 レスティーナは続けた。


 「五百」


 広場に重い沈黙が落ちた。


 やがて誰かが呟く。


 「……終わりだ」


 だがその瞬間。


 レスティーナが言った。


 「違う」


 全員が顔を上げる。


 レスティーナは笑った。


 「終わりじゃない」


 そして言った。


 「**始まりよ**」


 人々が戸惑う。


 レスティーナは続けた。


 「この町は今」


 「帝国の暫定都市」


 広場の端で、帝国監察官アルトが腕を組んで見ている。


 レスティーナは指を立てた。


 「つまり」


 「帝国の土地」


 ざわめきが広がる。


 レスティーナは言った。


 「公爵が攻めたらどうなる?」


 ジェイが答えた。


 「帝国への反逆」


 人々が顔を見合わせる。


 レスティーナは頷いた。


 「そう」


 「だから」


 「奴らは簡単に攻められない」


 ユラが手を上げた。


 「でも……」


 レスティーナが見る。


 ユラは言った。


 「五百ですよ」


 レスティーナは笑った。


 「だからこそ」


 そして言った。


 「**時間を稼ぐ**」


 ジェイが頷く。


 「城壁ですね」


 レスティーナは指を鳴らした。


 「正解」


 丘の下にはすでに木柵が作られている。


 だがまだ低い。


 レスティーナは声を上げた。


 「今から城壁を作る!」


 広場がざわめいた。


 「今から!?」


 レスティーナは頷く。


 「そう」


 「三日で」


 ジェイが苦笑する。


 「普通は一年です」


 レスティーナは笑った。


 「普通じゃないから」


 そして叫んだ。


 「男は全員作業!」


 「女と子供は石集め!」


 「鍛冶班は釘を作れ!」


 「伐採班は丸太!」


 人々が動き始める。


 恐怖はまだある。


 だが――


 動けば恐怖は薄れる。


 レスティーナは丘の上に戻った。


 アルトが言う。


 「大胆ですね」


 レスティーナは答えた。


 「合理的よ」


 アルトが聞く。


 「勝てると思いますか」


 レスティーナは笑った。


 「戦わない」


 アルトが目を細める。


 レスティーナは森を見た。


 「公爵軍は攻めない」


 「攻めたら帝国問題」


 アルトは頷いた。


 「確かに」


 レスティーナは続ける。


 「だから威圧」


 「包囲」


 「兵糧攻め」


 アルトは腕を組んだ。


 「では?」


 レスティーナは答えた。


 「それまでに都市を完成させる」


 アルトが小さく笑った。


 「無茶だ」


 レスティーナは肩をすくめた。


 「転生者だから」


 その時だった。


 森の方から使者が来た。


 白旗を掲げている。


 ジェイが言う。


 「交渉ですね」


 使者は町の前で止まり、大声で言った。


 「スー公爵の命令!」


 広場が静まる。


 使者は叫んだ。


 「逃亡農奴を引き渡せ!」


 「さもなくば――」


 一瞬間を置く。


 「町を封鎖する!」


 レスティーナは丘から降りた。


 門の前へ立つ。


 そして言った。


 「断る」


 使者が怒鳴る。


 「五百の軍だぞ!」


 レスティーナは指を後ろへ向けた。


 そこに立っているのは帝国監察官アルト。


 使者の顔が青くなる。


 レスティーナは笑った。


 「ここは帝国都市」


 「覚えときなさい」


 使者は歯を食いしばった。


 やがて言った。


 「……伝える」


 そして去っていく。


 森の奥へ。


 レスティーナは振り返った。


 城壁建設が始まっている。


 丸太。


 石。


 土。


 すべてが運ばれている。


 アルトが言った。


 「三日で壁」


 レスティーナは頷く。


 「三日で都市」


 アルトが笑った。


 「伝説になりますね」


 レスティーナは空を見た。


 夕日が沈んでいく。


 そして呟いた。


 「いいわ」


 「都市には伝説が必要」


 森の向こう。


 スー公爵軍五百が野営を始めている。


 だが同時に――


 魔の森の開拓都市でも


 **眠らない三日間の建設が始まっていた。**


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