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n番煎じの脇役令嬢になった件について  作者: 此花サギリ


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第15話 帝国監察官来訪

 スー公爵軍二百が接近している。


 その報告が届いてから、魔の森開拓町はまるで別の場所のように変わっていた。


 「急げ! 南側の壁をもう一段高く!」


 「石材運べ! 基礎がまだ終わってない!」


 「井戸班、掘削はどうだ!」


 怒号にも似た作業の声が町中に響く。


 だが不思議と混乱はない。


 皆、自分の仕事を理解している。


 丘の上からそれを見下ろしていたレスティーナは、腕を組みながら満足そうに頷いた。


 「いいわね」


 隣のジェイが言う。


 「人間、目的があると強いものですね」


 レスティーナは笑った。


 「恐怖より希望の方が強いのよ」


 町の中央では、新しい建物の骨組みが組み上がっていた。


 三階建ての石造り。


 この開拓地では明らかに異質な建築だ。


 ジェイがそれを見て言った。


 「行政館ですか」


 レスティーナは頷く。


 「都市の証拠になる建物よ」


 都市と村の違い。


 それは人口だけではない。


 行政機構。


 市場。


 道路。


 そして――


 「公的施設」


 レスティーナは言った。


 「形だけでも整える」


 ジェイは苦笑した。


 「監察官対策ですね」


 レスティーナは肩をすくめる。


 「当然でしょ」


 帝国監察官。


 それは開拓地や領地の状況を調査する役職だ。


 そして都市認定の権限を持つ。


 レスティーナは空を見た。


 「もうそろそろ来る頃ね」


 ジェイが言う。


 「呼んだのはレスティーナ様ですが」


 レスティーナは笑った。


 「スー公爵より先に動いたの」


 帝国へ早馬を出し、


 **開拓都市認定の審査申請**


 を出したのだ。


 これが通れば――


 この町は帝国直轄の保護対象になる。


 スー公爵でも簡単には手出しできない。


 その時だった。


 遠くでラッパの音が鳴った。


 「伝令!」


 兵士が丘へ駆け上がってくる。


 「街道から馬車が!」


 レスティーナの目が細くなる。


 「来たわね」


 ジェイが聞く。


 「帝国ですか?」


 「見れば分かるわ」


 二人は丘を降りた。


 町の入口。


 そこには一台の馬車が止まっていた。


 黒塗りの重厚な車体。


 そして側面に刻まれた紋章。


 **帝国双頭鷲**


 周囲の村人達がざわめく。


 ジェイが小さく言った。


 「本物ですね」


 レスティーナは頷いた。


 馬車の扉が開く。


 降りてきたのは、一人の男だった。


 三十代前半。


 整えられた髭。


 黒い外套。


 そして胸には帝国章。


 男は静かに言った。


 「帝国監察官」


 「アルト・ヴァルケン」


 レスティーナは優雅にカーテシーした。


 「レスティーナ・フォン・グランテです」


 監察官は目を細めた。


 「噂は聞いています」


 レスティーナは微笑む。


 「悪い噂?」


 「興味深い噂です」


 アルトは町を見渡した。


 まだ建設途中。


 だが整った道路。


 広場。


 作業する人々。


 そして行政館の骨組み。


 アルトは言った。


 「ここが」


 「都市ですか?」


 レスティーナは答えた。


 「はい」


 「開拓都市です」


 アルトは少し歩き出した。


 石の基礎。


 整地された区画。


 井戸。


 彼は驚いていた。


 「……計画都市」


 ジェイが静かに言う。


 「最初からその設計です」


 アルトは振り返った。


 「普通、開拓村は無秩序に広がる」


 「ですがここは違う」


 レスティーナは笑う。


 「都市を作るなら」


 「最初から都市よ」


 アルトはしばらく黙っていた。


 やがて言った。


 「人口は?」


 ジェイが答える。


 「二百七十」


 アルトは眉を上げた。


 「二ヶ月で?」


 レスティーナは頷いた。


 「まだ増えるわ」


 アルトは小さく笑った。


 「面白い」


 だが次の瞬間。


 表情が真面目になる。


 「しかし」


 「問題があります」


 レスティーナは分かっていた。


 「逃亡農奴」


 アルトは頷く。


 「スー公爵から苦情が来ています」


 ジェイが小さく息を吐いた。


 アルトは続ける。


 「本来なら返還対象です」


 村人達の顔が青ざめた。


 だがレスティーナは落ち着いていた。


 「でも?」


 アルトは言った。


 「開拓民特例」


 レスティーナは笑った。


 「帝国法第十二条」


 アルトは驚いた。


 「知っているのですか」


 「もちろん」


 レスティーナは言う。


 「未開拓地に入植した者は」


 「過去の身分を問われない」


 アルトは腕を組んだ。


 「ただし」


 「条件があります」


 レスティーナは頷く。


 「開拓地として認定されること」


 アルトは静かに言った。


 「その通り」


 そして町を見渡す。


 作業する人々。


 新しい建物。


 広い道路。


 やがて彼は言った。


 「三日後」


 レスティーナが目を細める。


 アルトは続けた。


 「正式審査を行います」


 ジェイが聞く。


 「結果は?」


 アルトは答えた。


 「合格すれば」


 「帝国開拓都市」


 「不合格なら」


 村人達が息を呑む。


 アルトは言った。


 「逃亡農奴は返還です」


 静寂が落ちた。


 レスティーナは笑った。


 「いいわ」


 アルトが眉を上げる。


 「自信がある?」


 レスティーナは胸を張った。


 「もちろん」


 そして町を指差す。


 「三日後」


 「あなたを驚かせてあげる」


 アルトは少しだけ笑った。


 「楽しみにしています」


 だがその時。


 森の方から別のラッパの音が響いた。


 兵士が駆け込んでくる。


 「報告!」


 ジェイが聞く。


 「何だ」


 兵士は叫んだ。


 「スー公爵軍!」


 「町の外二キロ!」


 アルトが驚いた。


 「もう来たのか」


 レスティーナは静かに笑った。


 「ちょうどいいわ」


 アルトが聞く。


 「何がです?」


 レスティーナは言った。


 「監察官」


 「いい証人になる」


 アルトが眉を上げる。


 「証人?」


 レスティーナは微笑んだ。


 「帝国都市に」


 「公爵が攻めてくる瞬間の」


 森の向こう。


 スー公爵軍の旗が見え始めていた。


 だがレスティーナは一歩も動かない。


 その瞳には――


 **確信があった。**


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