第14話 開拓都市宣言
レスティーナの言葉は、静かながらも強い響きを持っていた。
「この町を――**都市にする**」
丘の上に立つ彼女の背後では、夕暮れの光が魔の森を赤く染めている。
斧の音も、木材を打つ槌の音も、まだ止まってはいなかった。
ジェイは少しだけ目を細めた。
「都市、ですか」
レスティーナは当然のように頷く。
「そう」
「村じゃ足りない」
彼女は丘の下を指差した。
そこには整然とした道が三本伸びている。
まだ土の道だが、幅は馬車がすれ違えるほど広い。
レスティーナの設計だ。
普通の村道の三倍はある。
ジェイは言った。
「最初から街路計画を作っていた理由が、それですか」
レスティーナは笑った。
「当たり前でしょ」
「村を広げるより」
「**都市を作る方が簡単**なのよ」
ジェイは苦笑した。
普通の領主なら逆だ。
村を作り、時間をかけて町になり、やがて都市になる。
だがレスティーナは違う。
最初から**都市設計**だった。
「だから道を広く?」
「そう」
レスティーナは説明する。
「都市になるとね」
「人、荷物、馬車」
「全部が増えるの」
そして指を立てる。
「道が狭い都市は死ぬ」
ジェイは頷いた。
「確かに」
レスティーナは続けた。
「あと重要なのは」
「水」
ジェイが聞く。
「井戸ですか?」
レスティーナは首を振った。
「川」
彼女は森の奥を指差した。
そこには細い川が流れている。
「灌漑」
「飲み水」
「水車」
「全部に使える」
ジェイは感心した。
「そこまで計算していたのですね」
レスティーナは軽く言った。
「都市ってね」
「結局は**インフラ**なのよ」
ジェイは思わず笑った。
だが、その時だった。
丘の下からユラが走ってくる。
「レスティーナ様!」
「どうしたの?」
「新しい人達です!」
レスティーナは目を瞬いた。
「また?」
ユラは頷いた。
「三十人くらい!」
ジェイが呟く。
「増えますね」
レスティーナはため息を吐いた。
「噂が広がってるわね」
だが。
その顔はむしろ楽しそうだった。
「いいわ」
「案内して」
町の入口。
そこには疲れた人々が立っていた。
男。
女。
子供。
そして――
**鍛冶師の男**が一人いた。
レスティーナの目が光る。
「あなた」
男が顔を上げた。
「はい……」
「鍛冶屋?」
男は驚いた。
「な、なぜそれを」
レスティーナは男の手を見た。
分厚いタコ。
火傷の跡。
典型的な鍛冶師の手だ。
レスティーナは言った。
「歓迎するわ」
男は震えた。
「本当に……?」
「もちろん」
レスティーナは笑った。
「むしろ欲しかった」
ジェイが横で言う。
「鍛冶工房を作りましょう」
レスティーナは頷く。
「そうね」
そして村人達に言った。
「聞いて!」
皆が振り向く。
レスティーナは声を上げた。
「今日からこの町は――」
一瞬、言葉を止める。
そして宣言した。
「**グランテ開拓都市**を名乗る!」
ざわめきが広がった。
ユラが驚く。
「都市!?」
レスティーナは頷く。
「そう」
「村じゃない」
「町でもない」
指を空へ向ける。
「都市よ」
人々の顔が変わる。
都市。
それは特別な言葉だった。
商人が来る。
職人が来る。
金が流れる。
レスティーナは続けた。
「だから――」
「市場を作る!」
ジェイが頷いた。
「交易ですか」
レスティーナは笑う。
「そう」
魔の森には資源がある。
木材。
薬草。
魔物素材。
それを売る。
そして――
「商人を呼ぶ」
ユラが言った。
「でもここ魔の森ですよ?」
レスティーナはにやりと笑う。
「だからこそよ」
ジェイが理解した。
「独占ですか」
レスティーナは指を鳴らす。
「正解」
魔の森は危険だ。
だから誰も開拓していない。
だが逆に言えば――
**資源は無限**だ。
レスティーナは空を見上げた。
「急ぐわよ」
「スー公爵が動く前に」
ジェイが静かに言った。
「間に合いますか」
レスティーナは即答した。
「間に合わせる」
そして笑う。
「だって」
「ここは」
夕日に染まる森を見ながら言った。
「未来の都市だから」
その時だった。
斥候が森から飛び出してくる。
「報告!」
レスティーナが振り向く。
「何?」
斥候は叫んだ。
「スー公爵軍です!」
ジェイが聞く。
「何人だ」
斥候は言った。
「**二百!**」
空気が凍った。
レスティーナは――
静かに笑った。
「なるほど」
「本気ね」
ジェイが言う。
「どうします?」
レスティーナは即答した。
「簡単よ」
そして指を三本立てた。
「三日」
ジェイが目を細める。
「三日?」
レスティーナは言った。
「三日でこの町を」
「**帝国公認都市にする**」
ジェイは思わず笑った。
「無茶ですね」
レスティーナは胸を張る。
「異世界転生者なめないで」
森の向こう。
スー公爵軍は確実に近づいている。
だが――
魔の森の開拓都市もまた、
**急速に成長していた。**




