第12話 流民の町
逃亡農奴を受け入れてから三日後。
魔の森開拓村――いや、もはや村と呼ぶには人が多くなり過ぎていた。
「ユラさん、こっちの木材はこっちに積んで下さい!」
「分かった!」
「子供達は石拾いお願いね!」
「はーい!」
人々の声があちこちから響く。
レスティーナは丘の上からその光景を眺めていた。
人口は一気に百三十七人。
小さな集落が一瞬で**巨大な作業現場**に変わったのだ。
「壮観ですね」
隣に立つジェイが感心したように言った。
「そうね」
レスティーナは腕を組む。
「でも問題も山積みよ」
ジェイはすぐ理解した。
「食料ですね」
「それもあるけど」
レスティーナは指を折りながら言う。
「住居」
「井戸」
「畑」
「トイレ」
「風呂」
ジェイが苦笑する。
「全部ですね」
「全部よ」
レスティーナはため息を吐いた。
「この人数だと今の村じゃ足りない」
「**町を作る**必要があるわ」
その日の夕方。
村の中央に人が集められた。
百三十七人の流民達が不安そうに立っている。
レスティーナは小さな木箱の上に立った。
「皆さん」
声を張る。
すぐに静かになった。
「今日からこの場所は**新しい町**になります」
ざわめきが起こる。
「町?」
「こんな場所が?」
レスティーナは笑った。
「今は村ね」
「でもすぐ町になる」
そして地面に広げた紙を見せた。
そこには線が引かれていた。
「これは町の地図よ」
人々が覗き込む。
「まず道」
「次に家」
「そして畑」
指で順番に示す。
「町は**碁盤目状**に作るわ」
ユラが首を傾げた。
「碁盤目?」
レスティーナは説明する。
「道をまっすぐ作るの」
「縦と横に」
「そうすると迷わない町になる」
ジェイが小声で言った。
「王都より整っていますね」
「王都は古い町だから仕方ないわ」
レスティーナは肩をすくめた。
「ここは**最初から計画都市**にする」
人々の目が変わり始めていた。
絶望の目から――
少しだけ希望の目へ。
レスティーナは続ける。
「まず家を作る」
「五十軒」
人々がざわついた。
「五十!?」
「ええ」
レスティーナは平然と言う。
「今の人口なら必要よ」
ハルトが恐る恐る手を挙げた。
「木材は足りるでしょうか」
レスティーナは森を指差した。
「見て」
魔の森。
無数の木。
「材料は山ほどある」
人々が笑った。
確かにそうだ。
レスティーナは続ける。
「大工経験者いる?」
数人が手を挙げた。
「鍛冶屋は?」
二人。
「石工は?」
一人。
レスティーナは満足そうに頷いた。
「いいわ」
「十分」
ジェイが小声で言う。
「お嬢様」
「それだけで?」
レスティーナは微笑んだ。
「足りない分は」
「育てるの」
そして大きな声で言った。
「今日から班を作る!」
「建築班!」
「農業班!」
「伐採班!」
人々が一斉に動き出す。
「ユラさん」
「はい!」
「伐採班のリーダーお願い」
「任せてください!」
「ハルトさん」
「はい!」
「建築班リーダー」
「やります!」
レスティーナは満足そうに頷いた。
「よし」
「町作り開始」
その日から――
魔の森の景色が変わり始めた。
木が倒れる。
道が作られる。
家が建つ。
子供達が石を運び。
女達が炊き出しをし。
男達が木を切る。
誰もが働いた。
そして三週間後。
森の中に――
**整った町並み**が現れ始めていた。
「すごい……」
ユラが呟く。
「本当に町になってきた」
レスティーナは頷いた。
「次の段階よ」
ジェイが聞く。
「次?」
レスティーナは笑った。
「**産業**」
「砂糖」
「米」
「薬草」
「これで儲ける」
ジェイは苦笑した。
「やはりそこですか」
レスティーナは胸を張る。
「当たり前よ」
「都市は」
「**稼がないと死ぬ**の」
そして空を見上げる。
「魔の森は宝の山」
「だから」
「ここは」
「帝国一の都市になる」
その頃――
スー公爵領では。
農奴が消え続けていた。
十人。
二十人。
五十人。
そしてついに――
「三百人逃げただと!?」
公爵の怒号が屋敷に響いた。
家臣が震えながら言う。
「全員……魔の森へ……」
スー公爵は机を叩いた。
「ふざけるな!」
「魔の森など死地だ!」
だが家臣は小さく言った。
「噂が……」
「何だ」
「魔の森に……」
「**優しい領主の少女がいる**と……」
スー公爵の顔が歪んだ。
「……グランテか」
彼は吐き捨てた。
「またあの女の家か」
そして低く言った。
「潰せ」
家臣が震える。
「しかし魔の森は帝国領で……」
「関係ない!」
スー公爵は叫んだ。
「農奴は俺の財産だ!」
「取り戻せ!」
こうして――
魔の森の町に。
**嵐が近づき始めていた。**




