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n番煎じの脇役令嬢になった件について  作者: 此花サギリ


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第11話 流民雪崩

 魔の森開拓村――


 それが今のこの場所の正式名称だった。


 もっとも、まだ村と呼ぶにはあまりにも小さい。掘立小屋が並び、畑が少し広がった程度の集落だ。


 だがレスティーナは確信していた。


 (ここは絶対に発展する)


 理由は単純だ。


 **資源が多すぎる。**


 森の木材、薬草、魔物素材、そして鉱脈。


 ググル先生の情報によれば、この辺りの地下にはヒヒイロカネを含む鉱脈がいくつも眠っているらしい。


 それに――


 (砂糖)


 レスティーナは新しく開墾した畑を見る。


 そこには背の低い苗が並んでいた。


 「順調ね」


 横にいたジェイが頷く。


 「はい、お嬢様。かなり育っております」


 この世界には砂糖がほとんど無い。


 甘味は蜂蜜が主流だ。


 つまり――


 **砂糖は高級品。**


 「これが収穫できれば」


 レスティーナは微笑む。


 「この村は一気に豊かになるわ」


 


 その時だった。


 


 「お嬢様!」


 遠くから村人が走ってきた。


 息を切らしながら叫ぶ。


 「大変です!」


 「どうしたの?」


 レスティーナが尋ねる。


 男は森の方を指差した。


 「人が……」


 「大量に来ています!」


 


 レスティーナとジェイは顔を見合わせた。


 


 「魔物?」


 「いえ!」


 男は首を振る。


 「人です!」


 


 レスティーナはすぐに馬へ飛び乗った。


 「見に行くわ」


 「ジェイ」


 「護衛を連れて来て」


 「承知しました」


 


 森の道を進むこと十分。


 


 レスティーナは足を止めた。


 


 「……これは」


 


 思わず言葉を失う。


 


 森の入口に――


 


 **人の群れ**がいた。


 


 老人。


 女。


 子供。


 


 荷車を引き、ぼろ布をまとい、疲れ切った顔をしている。


 


 ざっと見て――


 


 **百人以上。**


 


 レスティーナは目を細めた。


 「ジェイ」


 「はい」


 「どう思う?」


 


 ジェイは冷静に観察する。


 そして言った。


 「……流民でしょう」


 


 レスティーナは頷いた。


 


 帝国では珍しくない。


 飢饉や重税で領地を逃げ出した農民達だ。


 逃亡農奴。


 あるいは流民。


 


 「止まれ!」


 護衛が声を上げる。


 流民達が一斉に震えた。


 


 その中から、一人の男が前に出た。


 


 四十代くらいだろうか。


 痩せ細っているが、目はまだ死んでいない。


 


 「……お願いです」


 男は膝をついた。


 


 「助けてください」


 


 周囲の人々も次々に膝をつく。


 


 「食べ物を……」


 「水を……」


 「子供だけでも……」


 


 声が重なる。


 


 レスティーナは静かに見ていた。


 


 ジェイが小声で言う。


 「どうされますか」


 


 レスティーナはしばらく黙った。


 


 (人手は欲しい)


 (でも)


 


 百人は多すぎる。


 


 この村の人口は三十七人。


 そこに百人追加。


 


 **三倍以上。**


 


 普通の領主なら追い返すだろう。


 


 だが。


 


 レスティーナは口元を緩めた。


 


 (これは)


 


 **チャンス。**


 


 「名前は?」


 レスティーナは男に聞いた。


 


 「……ハルトです」


 


 「どこから来たの?」


 


 「スー公爵領です」


 


 レスティーナの眉が少し上がった。


 


 (へぇ)


 


 スー公爵領。


 あの盗人公爵の領地だ。


 


 「どうして逃げたの?」


 


 ハルトは苦い顔をした。


 


 「税です」


 


 「今年、三倍になりました」


 


 流民達がざわつく。


 


 「作物も取られました」


 「子供まで売れと言われた」


 「もう無理だ」


 


 怒りと絶望が混ざった声。


 


 レスティーナは小さく頷いた。


 


 (なるほど)


 


 スー公爵家はもう末期らしい。


 


 「ジェイ」


 


 「はい」


 


 「今の村の食料備蓄は?」


 


 「三ヶ月分です」


 


 「百人増えたら?」


 


 「一ヶ月」


 


 レスティーナは少し考えた。


 


 (でも)


 


 (畑は増やせる)


 


 (人手があれば)


 


 レスティーナは馬から降りた。


 


 そしてハルトの前に立つ。


 


 「顔を上げて」


 


 ハルトは恐る恐る顔を上げた。


 


 レスティーナは微笑む。


 


 「条件付きで」


 


 「受け入れるわ」


 


 流民達がざわめいた。


 


 「本当ですか?」


 


 「ええ」


 


 レスティーナは言った。


 


 「ただし」


 


 「働いてもらう」


 


 「この村は開拓村よ」


 


 「楽な生活は無い」


 


 ハルトはすぐに言った。


 


 「構いません!」


 


 後ろの人々も叫ぶ。


 


 「働きます!」


 「何でもします!」


 


 レスティーナは頷いた。


 


 「それと」


 


 「ここでは農奴になる」


 


 その言葉に静まり返る。


 


 だがハルトはすぐ頷いた。


 


 「……覚悟しています」


 


 レスティーナは続ける。


 


 「でも」


 


 「約束する」


 


 彼女は真っ直ぐ言った。


 


 「この村が都市になったら」


 


 「農奴制度は廃止する」


 


 人々の目が見開かれた。


 


 「働いた者は」


 


 「全員」


 


 「**自由民にする**」


 


 沈黙。


 


 そして――


 


 「……本当ですか」


 


 ハルトの声が震えていた。


 


 「嘘は言わないわ」


 


 レスティーナは言った。


 


 「ただし」


 


 「裏切りは許さない」


 


 ハルトは深く頭を下げた。


 


 「命に代えても働きます!」


 


 流民達も一斉に頭を下げる。


 


 「お願いします!」


 「働かせてください!」


 


 レスティーナは振り返った。


 


 「ジェイ」


 


 「はい」


 


 「炊き出し準備」


 


 「村に連れて行く」


 


 ジェイは苦笑した。


 


 「人口が一気に三倍ですね」


 


 レスティーナは笑った。


 


 「違うわ」


 


 そして言った。


 


 「四倍よ」


 


 ジェイが驚く。


 


 「え?」


 


 レスティーナは森の奥を見る。


 


 「まだ来るわ」


 


 ググル先生の情報では――


 


 スー公爵領から逃げた農奴は。


 


 **数千人。**


 


 レスティーナは楽しそうに呟いた。


 


 「労働力が増えるわね」


 


 その日。


 


 魔の森開拓村の人口は――


 


 **一気に百三十七人**になった。


 


 そして。


 


 流民の噂は広がる。


 


 魔の森に。


 


 **優しい領主の少女がいる**と。


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