prologue
「鈴蘭ちゃんは魔女ね!!」
雪のかまくら、凍てつく空気。あの日、友達が投げつけた言葉は、福音ではなく宣告だった。
お姫様になりたかった。淡いピンクのドレスを着て、誰かに守られて、愛されて。
そんな「女の子なら誰でも持っているはずの権利」を、私はあの日、剥奪されたのだ。
だから私は演じてやった。 期待通り、可愛げのない、毒を吐く魔女を。
媚びを売るあの子に皮肉を投げつけ、自分の手を汚さずに嫌いな奴を排除する。
それが、配役を押し付けられた私にできる唯一の、そして最低の抵抗だった。
いつか、誰かが気づいてくれると思っていた。
「君は魔女なんかじゃない」と。
この滑稽なピエロの仮面を引き剥がして、本当の私を評価してくれる”主人公”を待っていた。
けれど、現実は無慈悲だ。
物語のヒロインが報われないのはおかしい。
そう信じて疑わなかった私は、結局、誰にも見つけられることなく自ら人生の幕を引いた。
はずだった。
「……お嬢様? アイリスお嬢様、顔色がよろしくありませんわ」
鏡の中にいたのは、あの日憧れたお姫様……とは程遠い、鋭い三白眼と傲慢に吊り上がった口角を持つ、圧倒的な”悪女”の姿だった。
転生。 ネット小説でよく見る、生前プレイしていた乙女ゲームの世界に。 ……などという、都合のいい話ではなかった。
そもそも、私は乙女ゲームなど一度もプレイしたことがない。
流行りのお洒落にも、甘ったるい恋愛シミュレーションにも興味はなかった。
他人の好感度を稼いでハッピーエンドを目指すなんて、あの日”魔女”という役を押し付けられた私には、吐き気がするほど滑稽な遊びに思えたから。
だから、ここがどこなのか、私がこれからどうなるのか、正解ルートなんて一つも知らない。
わかっているのは、目の前にいる”いかにも”な少女が、私を心底苛立たせるということだけだ。
「アイリスちゃん、どうしてそんなに悲しいお顔をしているの? ほら、笑って! 私、みんなの笑顔が大好きなの!」
純粋。無垢。そして、吐き気を催すほどの無知。
ヒロインと呼ばれるべきその少女が放つ言葉は、まるで泥の中を這いずり回ってきた私を、高い場所から見下ろして「どうして汚れているの?」と無邪気に問うような、残酷な光だった。
『……ああ、これよ。これなのよ』
私は震える手で、自分の口元を覆った。 前世の私が、必死に、惨めに演じていた”魔女”
けれど今の私は、本物の、誰からも疎まれる”悪役”という完璧な席に座っている。
『いい? おめでたいお頭のヒロインさん。あなたの言う”笑顔が溢れる世界”が、どれほど薄っぺらい死体の上に立っているか……。私が、徹底的に教えてあげるわ』
攻略対象との恋? 断罪の運命? 知ったことじゃない。 私は、私を”魔女”と呼んだ世界そのものに、今度こそ本物の報いを与えてやるのだ。




