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期待しない女は、最後に選ばれる  作者: 篠宮しずく


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第7話 一緒にいる時間が増えただけ

 時間が増えただけだ。


 特別な意味はない。

 そう思わなければ、説明がつかなくなる。



 最近、昼休みの時間が重なることが増えた。


 偶然だ。

 部署が違っても、同じ会社なのだから、

 そんなことは珍しくない。


「白石さん、今日は早いですね」


 社員食堂で声をかけられ、振り返ると高瀬さんがいた。


「たまたまです」


 私はそう答えて、トレイを持つ。


 いつもの席。

 いつもの窓際。


 気づけば、向かいに高瀬さんが座っていた。



 会話は相変わらず、仕事の延長線にある。


「来月、また繁忙期ですね」


「そうですね」


「体調、崩さないでください」


 また、それ。


 心配されること自体は嫌いじゃない。

 でも、それに意味を見出してしまう自分が怖い。



 午後の会議が長引いた日、

 会議室を出ると、廊下で高瀬さんと並んだ。


「お疲れさまでした」


「本当に」


 歩調が、自然と合う。


 合わせたわけじゃない。

 でも、ずれない。


 そういうところが、危ない。



 コピー機の前で待っていると、高瀬さんが言った。


「白石さんって、いつも最後まで残りますよね」


「仕事なので」


「……無理しすぎる人、多いですから」


 その言葉に、胸の奥が、また少しだけ反応する。


 ――だから、だめだ。



 帰りの時間も、似ることが増えた。


 同じエレベーター。

 同じ改札。


 並んで歩く駅までの道。


 会話は少ない。

 それでも、沈黙が苦じゃない。



「今日は、少し涼しいですね」


「そうですね」


「……季節、変わるの早いですね」


 どうでもいい話題。

 なのに、心に残る。


 私は、無意識に周囲を見る。


 他の人と、こんなふうに歩いた記憶が、あまりない。



 改札前で立ち止まる。


「では」


「はい」


 別れる瞬間、少しだけ名残惜しいと思ってしまった。


 すぐに、打ち消す。


 ――期待しない。



 その夜、真琴からメッセージが届いた。


〈最近、高瀬さんと一緒にいるよね〉


 私は画面を見つめて、少し考える。


〈たまたま〉


 そう返して、スマートフォンを伏せた。


 たまたま。

 偶然。


 その言葉を、今日は何度使っただろう。



 ベッドに横になり、天井を見つめる。


 仕事。

 偶然。

 同じ時間。


 全部、理由がつく。


 だから、これは恋じゃない。


 時間が増えただけ。

 一緒にいる機会が増えただけ。


 そう言い聞かせながら、

 私は、今日も少しだけ、眠りにつくのが遅くなった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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