第7話 一緒にいる時間が増えただけ
時間が増えただけだ。
特別な意味はない。
そう思わなければ、説明がつかなくなる。
◇
最近、昼休みの時間が重なることが増えた。
偶然だ。
部署が違っても、同じ会社なのだから、
そんなことは珍しくない。
「白石さん、今日は早いですね」
社員食堂で声をかけられ、振り返ると高瀬さんがいた。
「たまたまです」
私はそう答えて、トレイを持つ。
いつもの席。
いつもの窓際。
気づけば、向かいに高瀬さんが座っていた。
◇
会話は相変わらず、仕事の延長線にある。
「来月、また繁忙期ですね」
「そうですね」
「体調、崩さないでください」
また、それ。
心配されること自体は嫌いじゃない。
でも、それに意味を見出してしまう自分が怖い。
◇
午後の会議が長引いた日、
会議室を出ると、廊下で高瀬さんと並んだ。
「お疲れさまでした」
「本当に」
歩調が、自然と合う。
合わせたわけじゃない。
でも、ずれない。
そういうところが、危ない。
◇
コピー機の前で待っていると、高瀬さんが言った。
「白石さんって、いつも最後まで残りますよね」
「仕事なので」
「……無理しすぎる人、多いですから」
その言葉に、胸の奥が、また少しだけ反応する。
――だから、だめだ。
◇
帰りの時間も、似ることが増えた。
同じエレベーター。
同じ改札。
並んで歩く駅までの道。
会話は少ない。
それでも、沈黙が苦じゃない。
◇
「今日は、少し涼しいですね」
「そうですね」
「……季節、変わるの早いですね」
どうでもいい話題。
なのに、心に残る。
私は、無意識に周囲を見る。
他の人と、こんなふうに歩いた記憶が、あまりない。
◇
改札前で立ち止まる。
「では」
「はい」
別れる瞬間、少しだけ名残惜しいと思ってしまった。
すぐに、打ち消す。
――期待しない。
◇
その夜、真琴からメッセージが届いた。
〈最近、高瀬さんと一緒にいるよね〉
私は画面を見つめて、少し考える。
〈たまたま〉
そう返して、スマートフォンを伏せた。
たまたま。
偶然。
その言葉を、今日は何度使っただろう。
◇
ベッドに横になり、天井を見つめる。
仕事。
偶然。
同じ時間。
全部、理由がつく。
だから、これは恋じゃない。
時間が増えただけ。
一緒にいる機会が増えただけ。
そう言い聞かせながら、
私は、今日も少しだけ、眠りにつくのが遅くなった。
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