第14話 失ってから気づく(高瀬視点)
最初は、違和感だった。
次に、焦り。
そして今は、はっきりとした喪失感。
白石由依が、少しずつ遠ざかっている。
◇
昼休みの食堂で、彼女の姿を探している自分に気づいたとき、
胸の奥が嫌な音を立てた。
――いない。
最近、何度もそれを繰り返している。
以前は、自然と視界に入っていた。
わざわざ探す必要なんて、なかったのに。
◇
連絡の頻度も変わった。
返事は来る。
でも、短い。
必要最低限。
業務としては、何の問題もない。
だからこそ、
言い訳ができてしまう。
◇
「最近、白石さんと話してないですね」
企画部の同僚が、何気なく言った。
「そうですか」
自分の声が、思ったより平坦で、
少しだけ安心した。
――まだ、大丈夫だ。
そう思おうとした。
◇
だが、
大丈夫ではなかった。
会議室で二人きりになったとき、
彼女の立ち位置が、以前より遠いことに気づく。
物理的な距離じゃない。
踏み込ませない、距離。
◇
「最近、忙しいですか」
聞いたのは、自分だった。
「少しだけ」
彼女はそう答えて、
それ以上、何も足さなかった。
以前なら、
「でも大丈夫です」とか、
「もう少しで落ち着きます」とか、
何かしら、付け加えていたはずなのに。
◇
その沈黙が、
ひどく怖かった。
◇
過去の記憶が、
不意に蘇る。
あのときも、そうだった。
忙しい。
大丈夫。
問題ない。
そう言い続けているうちに、
彼女は何も言わなくなった。
気づいたときには、
すべてが終わっていた。
◇
――また、同じだ。
その考えが、
胸を強く打った。
◇
自分は、何を恐れているのか。
答えは、分かっている。
選ぶことだ。
選んで、
守れなかったときの責任。
それを、
もう一度背負う勇気がない。
◇
だから、
曖昧な場所に立ち続けた。
優しくして、
距離を保って、
何も約束しない。
それが、
彼女を傷つけない方法だと、
本気で思っていた。
◇
でも、違った。
何も選ばないことが、
一番、彼女を追い詰めていた。
◇
白石由依は、
何も要求しなかった。
問い詰めもしなかった。
ただ、
自分の居場所を変えただけだ。
それが、
どれほどの覚悟だったのか。
今なら、分かる。
◇
彼女は、
選ばれない場所から、
自分で降りたのだ。
そして、
自分はまだ、
そこに立ったままだ。
◇
その夜、
スマートフォンを握りしめる。
何度も、
名前を入力しては消す。
何を言えばいいのか、分からない。
今さら、
何を言えばいい。
◇
でも、
言わなければ終わる。
それだけは、
はっきりしていた。
◇
――選ばなかったのは、彼女じゃない。
自分だ。
その事実を、
ようやく認める。
◇
逃げていた。
守っているつもりで、
自分を守っていただけだ。
◇
もし、もう一度だけ、
やり直せるなら。
今度は、
ちゃんと選ぶ。
そう決めたとき、
胸の奥で、
何かが静かに音を立てて崩れた。
それは、
長い間、積み上げてきた言い訳だった。
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