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期待しない女は、最後に選ばれる  作者: 篠宮しずく


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第14話 失ってから気づく(高瀬視点)

 最初は、違和感だった。


 次に、焦り。

 そして今は、はっきりとした喪失感。


 白石由依が、少しずつ遠ざかっている。



 昼休みの食堂で、彼女の姿を探している自分に気づいたとき、

 胸の奥が嫌な音を立てた。


 ――いない。


 最近、何度もそれを繰り返している。


 以前は、自然と視界に入っていた。

 わざわざ探す必要なんて、なかったのに。



 連絡の頻度も変わった。


 返事は来る。

 でも、短い。


 必要最低限。


 業務としては、何の問題もない。


 だからこそ、

 言い訳ができてしまう。



「最近、白石さんと話してないですね」


 企画部の同僚が、何気なく言った。


「そうですか」


 自分の声が、思ったより平坦で、

 少しだけ安心した。


 ――まだ、大丈夫だ。


 そう思おうとした。



 だが、

 大丈夫ではなかった。


 会議室で二人きりになったとき、

 彼女の立ち位置が、以前より遠いことに気づく。


 物理的な距離じゃない。


 踏み込ませない、距離。



「最近、忙しいですか」


 聞いたのは、自分だった。


「少しだけ」


 彼女はそう答えて、

 それ以上、何も足さなかった。


 以前なら、

 「でも大丈夫です」とか、

 「もう少しで落ち着きます」とか、

 何かしら、付け加えていたはずなのに。



 その沈黙が、

 ひどく怖かった。



 過去の記憶が、

 不意に蘇る。


 あのときも、そうだった。


 忙しい。

 大丈夫。

 問題ない。


 そう言い続けているうちに、

 彼女は何も言わなくなった。


 気づいたときには、

 すべてが終わっていた。



 ――また、同じだ。


 その考えが、

 胸を強く打った。



 自分は、何を恐れているのか。


 答えは、分かっている。


 選ぶことだ。


 選んで、

 守れなかったときの責任。


 それを、

 もう一度背負う勇気がない。



 だから、

 曖昧な場所に立ち続けた。


 優しくして、

 距離を保って、

 何も約束しない。


 それが、

 彼女を傷つけない方法だと、

 本気で思っていた。



 でも、違った。


 何も選ばないことが、

 一番、彼女を追い詰めていた。



 白石由依は、

 何も要求しなかった。


 問い詰めもしなかった。


 ただ、

 自分の居場所を変えただけだ。


 それが、

 どれほどの覚悟だったのか。


 今なら、分かる。



 彼女は、

 選ばれない場所から、

 自分で降りたのだ。


 そして、

 自分はまだ、

 そこに立ったままだ。



 その夜、

 スマートフォンを握りしめる。


 何度も、

 名前を入力しては消す。


 何を言えばいいのか、分からない。


 今さら、

 何を言えばいい。



 でも、

 言わなければ終わる。


 それだけは、

 はっきりしていた。



 ――選ばなかったのは、彼女じゃない。


 自分だ。


 その事実を、

 ようやく認める。



 逃げていた。


 守っているつもりで、

 自分を守っていただけだ。



 もし、もう一度だけ、

 やり直せるなら。


 今度は、

 ちゃんと選ぶ。


 そう決めたとき、

 胸の奥で、

 何かが静かに音を立てて崩れた。


 それは、

 長い間、積み上げてきた言い訳だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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