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期待しない女は、最後に選ばれる  作者: 篠宮しずく


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第13話 身を引く選択

 決めたわけじゃない。


 ただ、

 同じ場所に立ち続けるのをやめただけだ。



 翌朝、出社しても、私は普段と変わらない顔をしていた。


 挨拶をして、

 デスクに座って、

 パソコンを立ち上げる。


 何も変わっていない。


 外から見れば、きっと。



 変えたのは、ほんの少しのことだった。


 昼休みの時間を、ずらした。

 食堂ではなく、コンビニで済ませる。


 連絡が来ても、

 すぐには返さない。


 業務に支障が出ない程度に、

 距離を戻す。



 逃げているわけじゃない。


 戻っているだけだ。


 もともと、

 ここが私の位置だった。



「白石さん、最近忙しそうだね」


 真琴が、心配そうに言う。


「そう?」


「昼も一緒じゃないし」


「たまたま」


 私は、そう答えて笑った。


 説明はしない。


 説明は、期待を生む。



 午後、企画部から内線が入った。


「白石さん、少しいいですか」


 高瀬さんの声。


「はい」


 会議室に向かう。


 扉を閉めると、

 静かな空気が落ちた。



「最近……」


 高瀬さんが、言葉を探す。


「何か、変わりました?」


 私は、少し考えてから答える。


「変わってません」


 嘘ではない。


 私は、元に戻っただけだ。



「そうですか」


 その返事に、

 わずかな戸惑いが混じる。


 でも、それ以上は踏み込んでこない。


 踏み込ませないように、

 私は立っている。



 仕事の話を終え、

 会議室を出る。


 以前なら、

 一緒にエレベーターに乗っていた。


 今日は、時間をずらした。



 駅までの道も、一人。


 歩きながら、

 胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じる。


 寂しさじゃない。


 諦めに近い、

 静かな安堵だった。



 ――これでいい。


 私は、そう思う。


 選ばれない関係に、

 慣れてしまう前に。



 夜、スマートフォンが震えた。


〈高瀬〉

〈最近、忙しいですか〉


 私は、少しだけ画面を見つめる。


 そして、短く返した。


〈少しだけ〉


 それ以上は、書かない。



 返事は、すぐに来なかった。


 それが、

 答えのように思えた。



 ベッドに横になり、

 天井を見つめる。


 何かを失った感覚は、

 まだない。


 でも、

 これ以上失わないために、

 私はここで止まる。



 期待しない女に、戻る。


 それが、

 自分を守るための選択だった。


 それでも。


 心のどこかで、

 ほんの少しだけ思ってしまう。


 ――もし、ここで振り向かれたら。


 その考えを、

 私は静かに、消した。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


あと数話で完結となります。


ブックマークをして、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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