第12話 最初の違和感
それは、とても小さな違和感だった。
だから最初は、
気のせいだと思った。
◇
昼休み、いつものように食堂へ向かう途中で、
佐藤真琴に声をかけられた。
「ねえ、白石さん」
「何?」
「最近さ……高瀬さんと一緒にいること多いよね」
私は、立ち止まらずに答える。
「たまたまよ」
「だよね。でもさ」
真琴は少し言いづらそうに、
それでも続けた。
「結局、二人って、付き合ってるの?」
その言葉に、
胸の奥が、ほんの少しだけ沈んだ。
「違うよ」
即答だった。
嘘ではない。
事実だ。
◇
「そっか」
真琴はそれ以上踏み込まなかった。
でも、その一言が、
私の中に残る。
――違う。
口にしたその言葉が、
やけに重く感じられた。
◇
食堂で席を探す。
高瀬さんの姿は、見当たらなかった。
いつもなら、
無意識に探している場所。
今日は、少しだけ肩の力が抜けた。
◇
午後、仕事に戻る。
集中しようとしても、
さっきの会話が頭の片隅に残っていた。
付き合っているのか、という問い。
違う、と答えた自分。
それは、
自分で選んだ立場だったはずなのに。
◇
夕方、企画部に用事があってフロアを訪れる。
高瀬さんは、同僚と話していた。
「……ああ、白石さん」
こちらに気づいて、声をかけられる。
「これ、お願いします」
「はい」
それだけのやり取り。
以前と、何も変わらない。
それなのに。
なぜか、
心の奥に、細い棘が刺さったままだった。
◇
「最近、仲いいよね」
企画部の誰かが、
冗談めかして言う。
高瀬さんは、
少しだけ笑って答えた。
「仕事で、よく関わるので」
それだけ。
否定もしない。
肯定もしない。
ただ、曖昧に流す。
◇
――ああ。
その瞬間、
違和感が、はっきりと形を持った。
私は、ここにいる。
でも、
選ばれてはいない。
◇
責める気持ちは、なかった。
問い詰めたいとも思わなかった。
だって、
私は最初から、
期待しないと決めていたのだから。
◇
帰り道、駅までの道を一人で歩く。
今日は、高瀬さんと一緒にならなかった。
それが、
少しだけ、胸に優しかった。
◇
――そうだ。
これは、
私が望んだ関係だ。
安心できて、
踏み込まなくて、
何も約束のない関係。
なのに。
どうして、
こんなにも心が重いのだろう。
◇
家に帰り、バッグを置く。
一人分の夕食。
静かな部屋。
変わらない日常。
それなのに、
今日は少しだけ、
息がしづらい。
◇
私は、ゆっくりと結論を出す。
これは、失望じゃない。
ただの確認だ。
――私は、やっぱり選ばれていない。
それだけのこと。
そう思えたはずなのに。
胸の奥に残った違和感は、
その夜、なかなか消えてくれなかった。
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