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期待しない女は、最後に選ばれる  作者: 篠宮しずく


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第10話 選ばないという選択(高瀬視点)

 最近、自分が同じことを繰り返している気がしてならない。


 それに気づいたのは、

 白石由依の名前を、何の迷いもなく呼ぶようになってからだった。



「由依さん」


 口に出してから、

 ああ、と内心で息をつく。


 もう、引き返せないところまで来ている。


 それなのに、

 決定的な一歩だけは踏み出さない。


 ――いや、踏み出せない。



 彼女は、静かな人だ。


 前に出ない。

 無理を言わない。

 誰かに期待しているようにも見えない。


 それが、ひどく楽だった。


 同時に、

 危険でもあった。


 自分が、甘えてしまうからだ。



 連絡が増えていることには、気づいている。


 業務連絡。

 その言葉でいくらでも誤魔化せる程度に、

 少しずつ、頻度を上げている。


 彼女が嫌がっていないことも、分かっている。


 だから余計に、

 自分が卑怯だと思う。



 以前、婚約していた人がいた。


 結婚の話が現実味を帯びたとき、

 仕事、家族、環境――

 選択肢が一気に押し寄せてきた。


 そのときの自分は、

 「大丈夫だ」「何とかなる」と言いながら、

 何も決めなかった。


 結果、

 彼女は一人で悩み、

 一人で限界を迎え、

 去っていった。


 守ると言いながら、

 守れなかった。



 由依さんと話していると、

 その記憶が、時々胸を叩く。


 優しくしているつもりで、

 距離を保っているつもりで、

 実は一番楽な場所に立っているのは、自分だ。



「高瀬さん」


 彼女に呼ばれるたび、

 少しだけ、胸が痛む。


 名前を呼び返すたび、

 踏み込んでいる自覚がある。


 それでも、

 決定的な言葉は言わない。


 言ってしまえば、

 同じことを繰り返すかもしれないから。



 選ぶ、という行為は重い。


 選んだ以上、

 守れなかったときの責任も引き受けなければならない。


 もう二度と、

 「選ばなかった自分」を突きつけられたくない。


 だから、今度は――


 選ばない。



 由依さんは、きっと強い。


 期待していないふりをして、

 自分を守る術を知っている。


 それに、甘えている。


 それが一番、

 自分でも許せない。



 それでも。


 彼女が他の誰かと並んでいる姿を想像すると、

 胸の奥が、静かに軋む。


 その感情に、名前をつけてはいけない。


 つけた瞬間、

 選ばなければならなくなるからだ。



 だから、今日も。


 「無理しないでください」と言い、

 「落ち着きます」とだけ伝え、

 一線を越えない場所に立つ。


 それが、

 彼女を壊さないための選択だと、

 自分に言い聞かせながら。



 けれど本当は、分かっている。


 これは、守っているふりをした逃げだ。


 彼女が何も言わないから、

 何も決めずにいられる。


 それが、

 一番残酷だということも。



 もし、彼女が離れていったら。


 そのとき初めて、

 自分はまた同じ後悔をするのだろう。


 ――あのとき、選んでいれば。


 そうならないために、

 今は、選ばない。


 その矛盾の中で、

 今日も自分は、彼女の名前を呼ぶ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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