試運転
残りのステルス浮游球体を英治は具現化させて……。
英治はステルス浮遊球体を五個つくり、テーブルの上に置いた。そのあとルゼリウスの方へ視線を向ける。
現在ルゼリウスは最初に具現化させたステルス浮遊球体を何時も持ち歩いている工具を使い分解し調べていた。
「何か分かったのか?」
「オレの頭じゃ無理だ。どうやったら、こんな細かいパーツを使って機械を動かす?」
「まさか……そこまでの技術は、この世界にないのか?」
そう問われてルゼリウスは首を横に振る。
「ない訳じゃない。世界が崩壊する前まではAI技術が進んでたからな。タダ単に、オレの知識じゃ解析できないってことだ」
「そういう事か……まあ俺の知識でも機械の分析までは無理だ」
「具現化している者でも無理ってことか……とんだチート能力だ」
そう言われ英治は苦笑した。
「それで、どうするんだ?」
「五個か……とりあえずは青派と赤派の監視ができればいい。そうだな……二個あれば足りる」
「……そういえば監視した画像を映し出すディスプレイも必要だな」
手を翳し英治は妄想して《創作スキル【妄想】!!》と叫んだ。
それと同時に翳した手の前に魔法陣が展開され光が放たれる。次いで、チカチカと光ってディスプレイが姿を現わした。
勿論、手で持てるサイズの物である。
「こんな小さな物で映像が観れるのか?」
「ああ……問題ないはずだ」
英治は小型の液晶ディスプレイの魔石スイッチに触れる。その後、ステルス浮遊球体に触れ魔力を注いだ。
因みに英治も魔力を持っている。
するとステルス浮遊球体は緑に発光して宙に浮かび上がり英治の目の前まできた。
そして緑の文字を宙に描きメニュー画面を表示する。
そのメニュー画面を操作し始めた。
操作し終えると浮遊球体は、スッと音もなく残像と共に消える。
「消えた? 何処に行ったんだ?」
それを聞き英治は、すかさず液晶ディスプレイの方を操作しルゼリウスに「みろ!」と言い指差した。
「……」
映し出しているものをみたルゼリウスは絶句する。
そう、そこには自分が映っていたからだ。
「これは凄いぞ!」
「うん! 凄い。これなら……アイツらの監視できる」
何時の間にかゲームをやめティラベルは液晶ディスプレイに映っているルゼリウスをみていた。
「どうだ? これなら問題ないだろ!」
「ああ……勿論だぞ。早速つかってみたい」
「構わないが、そんなにアッチの動きが気になるのか?」
そう問われルゼリウスは頷き遠くをみつめる。
「何時もアイツらは前触れもなく姿を現す」
「なるほど……それを防ぐために前もって動きを知っておきたいってことか」
「ああ……という訳で操作の仕方を教えてくれないか?」
そう言われ英治は操作の方法を教えた。
操作方法を聞いたルゼリウスは、テーブルの上に置かれているステルス浮游球体を手にする。
次いで球体に魔力を注ぐと緑色に発光した。それと同時に宙に緑色の文字を描き始める。
「これを操作すればいいんだな。なんか緊張するぞ」
「じゃあ、ボクが操作する」
「いや……大丈夫だ」
ルゼリウスは自分が操作したいためティラベルの申し出を断った。
当然ティラベルは、ガッカリしている。
宙に描かれているメニュー画面をルゼリウスは操作した。そして全て入力し終えると英治に確認してもらう。
「あとは【enter】を押せばいい」
「そうなんだな……ドキドキするぞ」
「ボクが押す!」
【enter】を押そうとしているティラベルの腕を掴みルゼリウスは、ギリギリで阻止する。
「これは、オレが押す!」
「チッ! 残念」
その二人のやりとりをみて英治は、こう云うのいいなぁと思い微笑んだ。
ルゼリウスが【enter】を押すと、ステルス浮游球体は音もなく消える。
それを確認したルゼリウスは液晶ディスプレイへ視線を向けた。
液晶ディスプレイには風になびく赤い布切れが映し出されている。
「これが赤派のアジトか?」
「ああ、そうだ。でも見張りがいない……なんかあったのか? ここ以外を映し出せないか?」
「移動させることはできる」
そう言い英治は、その方法を説明した。
説明の通り液晶ディスプレイを操作してルゼリウスは、ステルス浮游球体を移動させる。
「これ本当に凄いぞ。これなら内部の情報まで知ることができる」
「自分でも驚いてる。こんな物を具現化できるなんて思わなかった」
「それだけ、エイジの想像力……凄い」
そう言われ英治は照れた。褒められることに慣れていないから余計だ。
「ありがとう……でも、これってチート能力のおかげだ」
「そうだとしても、これだけの物を具現化するって相当な想像力が必要だぞ」
「うんうん、エイジは凄い」
言われて嬉しいのだが英治は素直に喜べずにいる。
「……本当に、そうなんだろうか」
「もう少し自分を認めたらどうだ」
「エイジは自分が凄いって思っていないのか?」
そう聞かれ英治は頷いた。
「今まで、そう思ったことなんて一度もない」
そう言い英治は溜息をつき遥か遠くをみている。
それを聞き二人は英治のことが心配に思っていた。
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